表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/935

第81話 もう思い通りにはさせない

 ストンヒュー宮殿・魔王の間。

 

 立っているのは天井のない真っ黒い広間。

 柱も壁も崩れかけているように建てられ、悪しき者に相応しい玉座に仕上がっていた。

 中でも特別高い柱にストンヒュー宮殿を黒に染め上げた新たな宮殿の主が居座っている。

 それこそが魔王アグローニだ。

 

「強さを教えに来ただと……?」

 

 頂上に位置する柱からは王国を一望できるだろう。

 そして頂上にいる魔王は大通りの方を見渡した。

 

「まるで、雑に泳ぎまわる川魚……あれだけの雑魚共がいてここに来られたのはたったの一匹か!! 捌くに足らんわ!!」

 

「最初からオレ一人で決着をつけるつもりだったさ……」

 

 剣を突き付けたロードが言う。


「命を奪うこともできん雑魚が、オレと戦いになるはずがない。とっととその剣を差し出せ」

 

「この剣は渡さない。ここにいる誰の命も奪わせないためにオレはお前を倒す。戦う決意はして来たんだ」

 

「多少の気の持ちようで最強のオレに敵うものか!!」

 

「……そういう手にオレは耳は傾けない」

 

「なんだと? どういう意味だ?」

 

「お前はそうやって、最強最強と謳うことでオレたちの戦意を削ごうとしている」

 

「事実だ。お前にオレは倒せん。最強はそんなことをする必要が――」

 

「――お前は竜を倒せる剣と戦うことから逃げているじゃないか」

 

「――雑魚が!!!!」

 

 頂上の柱から降りてきて、ご丁寧に目線を合わせてくれる。アグロ―ニがにらみを利かせる。

 

「もういい! お前を捌いてさっさとオレの世界を始めてやる!」

 

 身に纏う黒い布が、右手に巻き付いて刀の形に変わっていく。

 

「――お前の思い通りにはならない。」

 

 こちらはいつでも迎え撃てるように剣を構えるだけ。

 

「――オレが最強だと知れ!!」

 

 ズダン!! と踏み出して飛び込んでくる。

 ズオン!! と斜め上から刀を振り下ろしてくる。

 

 その攻撃を後ろに下がることで回避し、

 魔王が刀を振りきったと同時に、踏み込んで前に飛び出した。

 突きの構えで飛び出した。

 振った刀を身体に引き込まれたことで、突きは受け止められた。

 

「雑魚が!!」

 

「ぐっ!」

 

 もう片方の手を振られ、黒い爪がロードの腕を掠らせる。

 

「雑魚が!!!!」

 

「――あっ!!」

 

 魔王の力技による刀の圧を、剣で受け止めてみたが、身体ごと吹き飛ばされていった。

 

「雑魚が!!」

 

 すかさず魔王は突きの構えで追い打ちを掛けに来た。

 

「――――!?」

 

 ロードは倒れた状態からとっさに横に飛び込んで回避しようと動く。

 

「――雑魚が!!」

 

 突きを避けても、タイミングよく振られた拳に殴り飛ばされた。

 

「――ゲホゲホッ!! ガホッ!!」

 

 ロードは飛ばされて息を詰まらせたが、魔王は待ってはくれない。

 目の前にやって来て、刀を思いっきり振るわれる。

 

「――!?」

 

 体勢も整っていない状況だが剣で受け止めるしかない。

 ガキ――ン! と剣が接触して鳴る。

 

(お、重い!)

 

 しゃがみ込んだ態勢で受け止めて、刀から伝わる上から重圧が押しつぶしてくる。

 そして、

 

「雑魚が!! この程度の力か!! この程度の力か!! この程度の力か!!」

 

〔ガキン! ガキン! ガキン! ガキン!〕と魔王は刀を金づちのように振るって、何度も何度も重い一撃を打ち続けてくる。

 

「ぐっ、ぐうう、ううっ、ぐっ!」

 

「この程度のぉ!! ち・か・ら・かああああああああ!!」

 

 魔王のもう片方の手に、腕を掴み上げられて投げ飛ばされる。

 飛ばされながらも上体を起こし、壁への激突を何とか足をつけることでの和らげた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「弱さを教えに来たかわけか? そんなもの始めから……知っとるわ!!」

 

 刀を構えて走り出してくる。

 敵から目を逸らさず立ち上がる。

 魔王が斜め下から刀で切り上げてきた。

 それを剣で受け止め――素早くあらぬ方向へ流す。

 すぐさま手首を返し、攻撃に切り替えて剣を振るう。

 

「――グウ!?」

 

 魔王の黒衣を切り裂いて黒い鎧に傷をつける。

 

「こ、のっ」

 

 魔王が間合いを開ける前に、懐に潜り込んで鋭い突きを放った。

 サクッと剣が鎧の間を抜けて突き刺した。

 

「ガアッ!! おの――」

 

 ロードは剣から一度、右手を放し、魔王の拳を避ける。

 そして左手でもう一度剣を掴み取り、その場でくるりと回って切り裂くように引き抜いた。

 傷口から黒い霧のようなものが噴き出した。

 

「ごおっ! お、おのれええええええ!!」

 

 回ることで魔王に無防備な背中を向けてしまい、刀がそこに斬り掛かってくる。

 だが、斬り掛かられるよりも身体を一回転させる方が速い。

 ズバッ!! その場で回転する勢いのまま魔王を切りつける。

 

「グアアァ!!」

 

 二度目も斬りつけられた魔王は、刀を無造作に振り回しながら後ろに下がっていった。

 それを見て今度は自分から剣で斬り掛かりに行く。

 凛々しい顔つきになって、両手に剣を握りしめ振りぬく構えで走る。

 

「粋がるな!!」

 

 叩きつけるような刀の一撃には、押し合いが発生しても無理やり突破して相手を両断する力があった。

 だからガキーーーーン!! と剣同士が接触してもそうはさせない。

 刀が触れた瞬間、剣ごと身体を下に流すように滑り込ませることで回避した。

 そこで剣を握る右手を離し、左手だけで素早く魔王の方へ斬り返した。

 

「――なん!!」

 

 驚いた魔王は刀の持っていない手を伸ばし、、、剣を持つ左手を抑えようと、奪おうと、掴もうとしてきた。

 

 ロードはならばと、左手の剣をひょいっと右手に放って移行させた。

 魔王の手は剣のない左手に伸びていくので、

 右手に移行させた剣を素早く振って、魔王の左手を斬りつけた。

 

「――ヅヌウッ!!」

 

 左の脇腹に剣を構えたことを見せてやると、魔王はもう切られまいと刀による防御に出た。

 構わず、左の脇腹に回した右手を勢いよく振った。

 

「くっ――――フアッ?」

 

 しかし、振った右手に剣はなかったので魔王は唖然としていた。

 このとき剣は残った左手にこそ握られている。

 魔王は一瞬、剣がどこにいったのかわからなかったが、すぐに気が付いた。

 

 ――気が付いたときには、すでに左手で突きを放ったところだ。

 

 ザクッ!! と深々と剣が突き刺した。

 呻きも上げない魔王が、防御を解いて突き刺しに来た。

 思いっきり床を足で蹴って跳躍し、その勢いで剣を引き抜くついでに、刀の突きを避けることが出来た。

 タン!! と立って間合いを取る。

 

(不思議だ。剣ってこんなに軽かったっけ……?)

 

 一連の両手を駆使したトリッキーな戦い方に自分でも驚いた。

 

(これなら魔王を倒せる)

 

 もう剣が直前で止まる。なんていう気の迷いは克服できていた。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ