第77話 ストンヒュー大通り突入作戦
魔王との戦いが始まった。
だいたいの作戦は決まっていて、まずはカリフ王たちが大通りを突破していく。
◇ ◇ ◇ ◇
ストンヒュー大通り。
カリフ王が兵士たちと共にクロヅノを倒して行ってる。
そうして、大通りを後でロードたちが進む道を確保している。
だけど、
▽ ▽ ▽
『ザオオオオオオオオオオオオオ!!』
大通りを順調に進んで行くと、魔王はいい気分にはならないだろう。
必ず彼らにはクロドラが差し向けられるはずだ。
「りゅ、竜だああああああああ」
衛兵が叫ぶ。
「勢いを止めるな!!」
「しかし、カリフ王」「竜がこちらに」「みすみすやられに行くようなこと」
「作戦を忘れるな!! 我々はただ進むのだ!!」
「うっ……」「うおおおおおお」「おおおおおおおお」
『ザオオオオオオオオオオオオオ!!』
そうして勇敢に衛兵たちは進んで行くんだろうけど、おそらくクロドラには敵わない。
だから、作戦が必要になる。
次の作戦は、アカという竜にしたことと同じことをすること。
そうすれば、衛兵に向かっていくクロドラは翼をはばたかせて離れて行くはずだ。
作戦が上手くいけばクロドラは、もう大通りには近づいても来られないだろう。
「ど、どうしたんだ」「何故、離れて行くんだ」
「竜殺しの剣を携えたロードが動いたのだ」
それで、カリフ王と衛兵たちは何を気にすることもなく、道を進み、魔物たちを大通りから払っていくことが出来る。
「急げ!! 彼らの道を作るのだ!!」
「おおおおおおおおおおお!!」
皆が安心して戦えるようになるはずだ。
◆ ◆ ◆ ◆
ストンヒュー大通り。
ロードは竜殺しの剣を遠くにいたクロドラに向けていた。
ルロウに跨り開かれた道を他の馬に乗った皆と一緒に駆け抜けていく。
「先頭のカリフ王たちから竜が離れました!! 成功です!!」
「よし!! このまま隊列を崩さず進む!!」
ハンス衛兵長が言う。
大通りの両側では先に突入したカリフ王の部隊が、クロヅノたちの侵入を阻んでいる。
「今のところは順調に進んでいるか」
シャルンスが上空を見上げながら言う。
「油断はできない。魔王はこっちが竜殺しの剣を使ったと知ったはずだ。これで本当に後には引けなくなった」
「そうだな……これだけのことをたった一人で実行してしまう相手だった。なにをしでかすかわからないか……」
「皆さん上を!!」
衛兵の一人が見るべき方角を促した。
『『『!?』』』
そのとき一同は見た。大通りに建てられた大きな建物の上に一体のクロヅノがよじ登っていたところを。
どうやら、屋根を伝って衛兵たちの目をかい潜って侵入してきたようだった。
「オニャーーーー!!」
棍棒を持った黒い鬼が叫びながら建物から飛び降りて来た。
「ワーーン!!」
飛びついたイヌの衛兵が魔物を倒し霧散させた。
特に問題にはならなかったので、そのまま大通りを駆け抜ける。
「……魔物はどうなったんです」
「彼らは倒されると霧のようになって消えてしまうらしい」
シャルンスからの情報だった。
(今は霧散のは倒されたからか)
「このことから奴らは私たちのような普通の生き物とは違うと考えていい」
「だから躊躇うことはない……こいつらは竜のときのように誰かに操られている訳でもないから――」
「――上だ!!」
ロードが言う。
また、通りかかった建物から一体のクロヅノが飛び降りて来た。しかも王子に向かってだ。
気づいた王子は剣を抜いて、飛び掛かって来た魔物を斬り払った。
「――君は魔王を倒すことだけ考えるんだ」
「わかってます。もうあのときのような弱さは見せません」
「そうだった。君はもう私より強かったね」
「――上空を旋回していたクロドラに動きがあります!!」
衛兵の報告を受けて皆で顔を向ける。
「離れていく」「諦めて戻るのか」
クロドラは魔王の居る黒い宮殿に戻るように上空を飛んでいた。
(いや、違う……あの動きは……)
(ただオレの持つ竜殺しの剣から離れてるわけじゃない)
(オレを中心にして円を描くように、背後に回り込んでくるつもりだ)
「クロドラが我らの背後に回っていきます」
一人の衛兵が言う。
(やっぱり……)
「――狙いは民たちが避難している森か!」
ハンスは魔王の狙いがわかった。
「魔王め、これを見過ごせない我々を父上たちのところに引き返させるつもりだな」
シャルンス王子が考察する。
大通りを進みながら遥か遠くで横を通過していくクロドラを見る。
『ザオオオオオオオオオオオオオオ!!』
「こうなることは最初からわかっていた」
(だから……頼んでおいた)
次の作戦だ。
▽ ▽ ▽
クロドラは大通りを進んで行く僕らを、引き返させるために民の集まる森を目指す。
だから、クロドラを止めるために、アカに丘のところで待機してもらっていた。
「グオオオオオオオオオオオオオ!!」
クロドラが王国から出るのを見たら、翼をはばたかせて飛び立つだろう。
そして、何がなんでも立ちふさがって、飛んでいるクロドラをストンヒューの誰もいない町中に叩き落とすはずだ。
ズドドドドドドと家や小屋が壊されていくけど、仕方がない。
また作ればいいと思うから。
「……ふん」
夜空に浮かぶ巨大な竜は、まるで赤い月に見えることだろう。
前へ進んで行くから見る暇はないけど、きっとそんな感じだ。
▽ ▽ ▽
「おお!! アレは」「味方の竜だ」「これで空を気にする必要はなくなった」「何としても戦いが終わるまでこの道を保ち続けるんだ」
『『『おおおう!!』』』
これで大通りで戦う皆もクロドラを気にする必要はなくなった。




