第76話 頼まれたロード
ストンヒュー王国・前。
丘から、出発していったカリフ王が率いる中央突破の部隊が突入のための配置に着いた。
先頭にイヌや馬に乗る人、後方にサイやゾウを並ばせている。
そして、
「我に続け!! 突撃!!」
先陣を切ったのはカリフ王。
『『『おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』』』
衛兵たちがストンヒュー大通りへと一斉になだれ込んで行った。
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大通りの騒ぎを聞きつけたクロヅノたちが、なだれ込んでくる兵団の侵入の阻止にあたっていく。
「カリフ王に続け!!」「進め進め!! 」
大通りを兵団の列が牛耳っていきながら進んで行く。
「一匹たりとも列に割り込ませるな!! 積み上げた強さを今こそ発揮するのだ! ストンヒューの兵士たちよ!」
カリフ王が士気を高める。
『『『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』』』
そうやってストンヒュー王国へ乗り込んで行った。
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ストンヒューの丘から、
衛兵たちが大通りを進み、クロヅノたちと戦っている姿を見ていた。
ルロウの背中に跨って彼らの役目が成功することを祈りながら。
「始まったなロード」
ルロウが言う。
「……ああ」
「……どうした緊張しているのか?」
「わかるのか?」
「何回乗せてやってると思ってるんだ? 微かな震えが伝わってきてるのがバレバレだ。鬱陶しいから抑えてくれ」
「……多めに見てほしいな」
「まぁいい、緊張する気持ちもわかるからな……お前の背には色んなものが乗っかてる」
「じゃあ、それを乗っけてるのがルロウの方が緊張しないか?」
「はははっ、そうだな……走ってるときはちゃんと身体を預けろよ……落ちるからな」
「ああ」
遠くから衛兵たちの戦う声が聞こえてくる。
「……ここには何もないと思ってたけどさ、こんな強さが隠れてたんだな。お前が変わってる理由がわかったよ」
「そういうルロウも変わってるよな」
「どこがだ……?」
「いくら怪我を治してやったからって恩を感じすぎだ、ここまでついて来なくてもよかったぞ……?」
「……こういう性分なんだよ。悪いか?」
「悪くない、楽しかった……」
「ふん…………」
そのとき、ロードたちの背後から草を踏む足音がして、誰が近づいて来たのか確認するために振り返る。
「ビッシィさん?」
「あの、ロードくん。私ずっと、ダラネーさんを探してたんですけど……やっぱり彼女は……」
深刻な表情で話しかけられた。
「……きっとダラネーさんのことだから面倒なことを考えるのをやめて、今もぐっすり眠っていますよ。だからオレが起こしに行ってきます」
「…………」
言葉では慰めにもならないようで、ビッシィさんの重い表情は変えられないかった。
「大丈夫、これから助けに行ってくるから……」
「……よろしくお願いします」
冗談をやめて言うと、お辞儀をされてお願いされる。
王子の元にも王様が近寄っていく。
「シャルンスよ。お前には英雄の花道を進ませてやりたかったが……」
「父上、そんなことはもういいです。どうやら私には英雄になるには程遠いようでした」
(……?)
ロードを一度チラリと見て来た。
「しかし、今は彼の背中を見て、また自分の思う王子としての在り方を探します」
「……それでこそ未来の国王だ」
「お話し中のところ申し訳ありませんが……王子そろそろ我らも位置に着きましょう」
ハンス衛兵長が言う。
「ああ、わかった……」
言われたので、移動することにした。
「ロード」
「?……はい」
自分だけ、王様に呼び止められた。
「……昔は宮殿にいてもあまり目立たなかったが、いつの間にか皆を一つに出来るほどに大きく育ったていたとは気づかなかったぞ」
「オレは当たり前のことを言っただけですよ」
「そうか…………名実ともにストンヒューの新たな戦士となった貴殿に王の名において命じる。見事、魔王の討伐を果たしてくるのだ」
「はい……必ず勝利に導きましょう」
「どうしたロード! 早くしろ!」
先を進んでいた衛兵長が振り返って言う。
「ルロウ行ってくれ」
「――おう」
丘の上から進みだす。涼しい風をその身に感じながら駆け抜けていく。
「……頼んだぞ」
王様の声がロードたちの後ろから聞こえた。




