第744話 びっくりビッグサイズ
岩山コース。
ロードとスロプはレース中にもかかわらず、道中発見したロードバイクで落車した男の手当をしていた。
「いいペースで走ってたのに~~! あの魔物どもと来たらアイテムで妨害してくるんだもんよ~~!」
男は骨折していたがロードの生命力渡しにより完治の時を迎えた。
「ふぅ~~これで足の骨折は治ったはず、もう好きに走っても大丈夫だ」
ロードが額の汗をハンカチで拭いながら言う。相当集中していたようだ。
「兄さんたちありがとよ。これでまた走れるぜ」
足の調子を確かめながら礼を言う男だった。
「じゃあ行こうロードまた抜かされる前に……」
スロプが黒い自動車に変身して言う。
「ああ」
ロードが急ぎ足で乗り込もうとしたとき、
「兄さんたち先行きな。怪我の礼と言っちゃなんだがこの先にそろそろアイテムボックスがあるはずだ。そいつを取って魔物どもを追い抜かしていくといい」
「ん? アイテムボックス? それならもう先を行く魔物たちに取られているんじゃないか?」
「いや、アイテムボックスは一度アイテムを取ってから数十秒経つと、その場にまた同じ形で現れるんだ。まぁ中に何があるかは運しだいだけどな」
「そういうものなのか……けど、いいのか? レース相手に助言なんかして」
「ああ、もう元気は取り戻したけど、事故るのが怖いからレースを忘れて自分のペースで完走を目指すよ。だから一位は兄さんたちが取ってくれ」
「ありがとう。貴重な情報と応援を」
「いいっていいって、行きな。俺もロードバイクのチェーンを直したら、すぐ出発するから、、それより先にいる魔物たちに気をつけろよ」
「わかった」
ロードは自動車に乗り込みハンドルを手にアクセルを踏んでその場から去っていった。
手を振って見送るロードバイクの男を、ロードはバックミラーで確認していた。
そして少し走るとアイテムボックスが見えてきた。構わず衝突してバリンとボックスを割る。
するとコンタクトレンズ越しにアイテムのスロットが現れた。
「いいアイテムが出るといいね」
スロプが話しかけてきた。
「できれば、あの人の言っていた魔物たちに対抗できるアイテムが欲しいな」
ロードが運転慣れしたのか軽口をたたいていた。
そして手にしたアイテムが決まる。
「これは……」
「ビッグサイズ?」
「ロードこれはいざって時が来たら僕が使うタイミングを教えるよ」
「ん? どういうアイテムなんだ?」
「それは内緒。でも使ったら驚くよ……」
「魔物対策になりそうか?」
「それはロードの腕次第かな」
二人は会話を続けていた。時折崖から岩や大岩が転がり落ちてきたが、ロードの軌道読みが安全ルートを導き出し順調に岩山コースを攻略していった。
そして28位だったチーム・カーズアンドロードは前方に相手チームが走っているのを確認した。
魔物が五体、そして驚くべきことにグラスが魔物と戦いながら瞬足の靴で走っていた。
「見つけた! 魔物五体いる!」
「あの後ろ姿、グラスもいるのか!」
ロードとスロプの視界に魔物とグラスが入る。
「ロード! パンチングマシーンはまだ装備されているから魔物の後ろにつこう!」
「そうだな!」
ロードは魔物たちに追い付くため、さらにスピードを上げる。
鳥型の魔物がグラスを足で攻め立てていた。
グラスは腕に引っかき傷をもらい、代わりに手刀で反撃した。もちろんフリフライの羽のチケットで空を飛んで攻撃した。
しかし、機械蛇に足を巻き取られ鳥型の魔物を逃がした。さらに機械蛇型の魔物はグラスの足をかぷっと噛んだ。
グラスは手刀を機械蛇型の魔物に差し向けたが固くて足から落とすことしかできなかった。
「ほらほら! 兄さんもっと暴れて!」
あおる魔物までいてうざいことこの上なさそうな表情をしたグラスだった。
隙を見て四足歩行の走りを見せる魔物がグラスを崖際まで追い込もうと押し込む。
さらにケンタウロス型の魔物が弓矢を引きグラスを狙っていた。
そこにカーズアンドロードがケンタウロス型の魔物の後ろにつき、パンチングマシーンの自動攻撃で魔物の走るバランスを崩した。
「ぐはっ!」
魔物はパンチの威力で転倒し、チームカーズアンドロードの順位は27位に上がった。
「グラス! 今助ける!」
「いらねーよ!」
グラスは押し込んでくる四足歩行の魔物に手刀をお見舞いしようとしたが、距離を取られて躱されてしまった。
「魔物はあと四体! ロード! さっき手に入れたアイテムビックサイズを発動させて!」
「わ、わかった」
ロードはレンズ越しのアイテムに触れた。すると――
スロプが変身している車がどんどん膨張していった。というより巨大化した。それに合わせてロードも巨大化し、前方で這いながら移動していた機械蛇型の魔物をタイヤで踏みつぶした。
四足歩行型の魔物はその巨大な車から逃げるように走っていったが、ひかれてしまい気絶した。
「あら、ほえ~~、こりゃ魔物さんもびっくり――」
煽り屋の魔物がひかれてしまう。
「お、おいお前たち!」
鳥型の魔物が犠牲にあった魔物たちの安否を心配していた。
その時グラスは飛んでいき、よそ見をしていた鳥型の魔物に――
「十六夜」
手刀を食らわせ撃墜させた。
「グラス! 怪我してるようだが大丈夫か!?」
「ああーー! デカいのは図体だけじゃなく声もか!? うるせーんだよ! さっさと前に行きやがれ!」
「わかった。無理はするなよ」
ロードとスロプはビッグサイズのまま岩山コースを走行していく。その時、時間切れなのかパンチングマシーンのアイテムは消え去った。
「1位取れよ! かかしやろー! 臆病者ーー!」
グラスなりの声援だったが、
「う、気分が」
スロプはグサリと来たようだった。
それからロードたちはグラスを追い越したまま先頭を目指す。
時々落ちてくる岩を何の障害にもならないこのビックサイズというアイテムは便利だった。
(22位か……一位に追い付けるか?)
ロードはレンズ越しの相手チームの位置を確認していた。
1位までの道のりはまだまだ遠い。