第74話 この国にも強さがある
「王子、オレと勝負をしてくれませんか?」
「えっ?」
「皆さんオレはこれから王子と勝負して見事、勝利を治めてみようと思います」
「突然どうした?」
ハンス衛兵長が訊いてきた。
「オレは王子に負けたことがあります。だから、その雪辱をここで晴らせれば、オレの実力を少しは裏付けられるでしょう。それから改めて、作戦を検討してください」
「君は訓練試合では一度も勝てた例しはない。思いつきの発言ならよしてくれ」
「思いつきじゃありません。ここで負けるようなら秘宝玉を使えたとしても、きっと魔王には勝てません。けど、今夜中に決着をつけたい。絶対に」
「君がそこまで積極的に話を進めたがるとは……」
「今までオレは剣で誰かと戦うのが恐ろしくて、誰にも勝てなかった。けど、この数日、王国を離れていて色々と考えさせられました。ときには、戦うことも大切なのだと知りました」
「ロードは魔王と戦いたいのか?」
シャルンス王子が訊いていた。
「はい」
(あそこに取り残されている友達が、助けを待っているはずだから)
(ここにいる誰もが、早く平和な世界に戻ることを待っているから)
(魔王を倒さなければ、また悲しみと苦しみが増え続けていくから)
「オレはどうしても行かなければいけない。今日で全部終わらせるんです」
「だが、我々に魔王を倒せるだけの力があると思うか?」
パレロットが意見する。
「オレも最初は竜と戦うなんて出来るはずないと思っていた。けど、レオリカンの衛兵たちはそんなオレと一緒に戦ってくれた。オレは見ました。彼らには竜にも負けないくらい強かった。オレたちにもそれと同じくらいの強さはあります。ここにも魔王に負けない強さがあるはずです。今こそ蓄えてきた力を発揮するときです。ここで必要なのは確実な勝算じゃない。魔王に立ち向かう勇気だけです」
魔王に奪われた王国を見る。魔物がひしめく王国を見る。
「あそこに一人で行ってもどうしようもありません。だから、オレには皆の強さが必要です。そのために証明します。オレには魔王を倒せる強さがあると……ここを幸せな世界に戻すためにオレは戦います」
『『『…………』』』
皆は黙ったまま誰かが口を開くまでこちらを見ていた。
「ロード」
パレロットが口にする。
「?」
「……秘宝玉よりもいいモノを持って帰って来たようだな」
(ふっ……そうかもしれない)
「ハンス衛兵長どうだ……?」
「すぐに模造剣を取ってまいります」
その場から急いで取りに行った。
「聞いていたな。ロード。全ては試合の結果しだいだ」
「はい、ありがとうございます」
そういう話にまとまった。
▼ ▼ ▼
広々とした夜空の下、涼しい風が通る丘の上。
僕とシャルンス王子が向かい合って立つ。
お互いの手には模造剣が握られている。
お互いの位置は十分に離されている。
周りは話を聞きつけて見物に来た、兵士や民たちが取り囲んでいた。
周りを気にせず、二人で試合に開始を待っている。
「ロード、手加減はしないぞ」
「わかってる」
王子はいつものように落ち着いた素振りで剣を構えていく。が――
(どこか力が入りすぎてるように見える)
(王子のことはいいって、集中しろ)
頭を振って表情を引き締める。姿勢を整えて、素早く乱さず剣を構えていった。
「準備はいいか、二人共」
ハンス衛兵長の問いかけに、二人で頷いて答える。
周囲で見物している者たちにも緊張が走るのが伝わってきた。
一呼吸の時が経って、
「――はじめ!」
先に足を動かして走り出したのは王子だった。
「――っ!?」
だが、途中で足を止めた。
「どうしたんだ? 何で止まった?」「隙がなくて攻められなんだよ」「一本、打ち込まれたら終わりだからな」
(そんなに警戒しなくても、ただ立っていただけなんだけど)
少しづつ間合いを狭める戦法を取っているようだった。
「やああああああ!」
ある一定の距離まで近づいてくると、素早く剣を連続して振り回してくる。
その勢いに押されるようにロードは下がり始めた。
上から下と、右から左と、次々に迫りってくる剣。
だが、手首を優雅に返すことで剣による受け流しでやり過ごす。
そのやり取りを続ける中、王子は自分の剣を身体に引き寄せて受け流しに隙を見出したと言わんばかりの目をして素早い突きを放ってくる。
(!?)
勝負をかけたその突きが腹部を狙ってくる。
だが、突きは腹部に届かなせない。
腹部と突きの間に刺し込むように剣を滑らせた防御した。
周囲の誰もが、王子でさえ、そのギリギリの突きに対応したことに驚いていたようだった。
(不思議だ。剣で戦っているのに……)
(もう前みたいに怖くない)
腹部と突きの間に刺し込んだ剣を強引に振った。
キーーーーーーンと王子の剣は、強引に振られた剣のあまりの力強さに弾かれてしまった。
呆気にとられた王子が見えた。
「はっ!」
こちらの剣は振りさばきも見えなかったようで、王子の腹部に横に一線のところで止めてあげた。
「――っ!?」
ここでようやく気づいたようだった。
くるくると宙を回っていた王子の剣は、見物していた者たちの前に落ちていった。
誰が見ても勝負がついたと感じ取れる光景が、その場に描かれていた。
「そこまで、ロードの勝利!」
決着がついた。
生温かさと親しみのこもった賞賛が飛ぶ。
礼儀をわきまえた喜びの拍手が鳴る。
上手いのか下手なのか、とにかく口笛が響く。
「おめでとうロード、こんどこそ君の勝ちだ」
「――はい」
手を差し出されたので、その手を取って熱い握手を交わした。
「王様、もはや私は彼を中心とした作戦には異論もありません」
「うむ、衛兵長のお墨付きを得たなら我々も覚悟を決めるなければな……」
二人が話しているのが聞こえて来た。
「――王様、それじゃあ……」
大臣たちも頷き合っている。
「魔王にこの国にも強さがあることを思い知らせてやろう」
魔王と戦うことが決まった瞬間だった。




