第72話 暗闇の中で見つけられるモノは決まって光だ
洞窟。
しかし、すぐに道は暗闇になって進むことが困難になった。
秘宝玉を持った手を前に突き出し、もう片方の手を壁に沿って戻るしかなくなった。
来たときのような足運びにはならない。何も見えなくて進んで行くのがやっとの状態だ。
「――うわっ!!」
暗い中を歩いていたら、足元の岩に躓いて転んでしまった。
(痛た、目が使えないとダメだな~~)
立ち上がるて再び歩こうとしたが、
(あっ、あれ? どっちから来たんだっけ)
(まずい。前なのか後ろなのか方向がわからない)
(へ、下手に進めない……)
(どっちだ? 前はどっちだ? 後ろはどっちだ?)
(ま、間違えたら大変だ)
(もし、洞窟の奥に続く道だったら、もう外には2度と出られないんじゃないか?)
その場から動けなくなって、今度こそへたり込んでしまった。
「は、ははは……そうか、これがアカの言ってた冒険か。こんな風に2度と元の場所には帰れないこと。それが冒険の旅かー、聞かされていたのに、オレはこんなところに来てしまったのか。どうしようもない。子供のままだったな……」
手に持った秘宝玉を暗い中で見ても反応はない。
「こんなことして秘宝玉の使い方も思いつくわけないかー」
(進む道を間違えたな)
(は、ぁ~~疲れたな~~)
▽ ▽ ▽
(暗いな)
(子供の頃は、こんな風に暗い夜になると明かりをつけてたな)
(そして決まって絵本を読んでいた)
(寝る前に必ず絵本の世界に入っていた)
(眠りについた夢の先で冒険の旅に出られるように願いながら)
(そいえばアカは言ってたな)
(オレがその道を選べば望んでいた冒険の旅に出られるって)
(けど、オレはその道を選ぼうとしてない)
(どうしてだ?)
(あれだけ子供の頃から望んでいたことなのに、どうして行きたいと思わなかったんだ)
(絵本の世界と現実の別の世界では話が違うからだろうか)
(行けば2度と戻ってこられないからだろうか)
(皆と別れるほど冒険がしたいわけじゃないってことか)
(うん、会えなくなるのは嫌だ)
(けど、それだけか?)
(あの絵本の世界のように冒険の旅に出たかったのは本当だった)
(そう思うようになった理由があった)
(あのスライムの主人公)
(平和に暮らしていただけだった弱い主人公)
(世界に悪者が現れても勇気を出して戦った主人公)
(自分の家も故郷も壊されたのに悪者を許してあげた主人公)
(世界にはまだまだ敵がいると知って世界を変えに行った主人公)
(オレはそんな主人公に憧れて冒険の旅に出たくなった)
(その為に勉強を頑張って、使用人の仕事を手伝って、毎日身体を鍛えていた)
(いつか冒険に出たら必要になるから、と思っただけじゃない)
(主人公がしていたからオレは頑張ってやっていたんだ)
(そうか)
(なんとなくわかってきた)
(オレがどうして今まで準備してきたのに、それでも別の世界に行こうと思わなかった理由がなんなのか)
(絵本の世界に行きたいからじゃなかった)
(主人公の持つ何かに憧れたからだ)
(オレの欲しい物はそこにある)
(それは……なんだ?)
(あの主人公は勇気を持っていたっけ)
(なら、オレは何を持っているんだ?)
(オレにも何かあるのか?)
その時、真っ暗な景色に光が輝いた。
(何だ! 眩しい!)
(この光は何だ! ここは洞窟の中だろ!)
ある一点だけが光り輝いて、それ以外の景色は全て黒だった。
(出口か? いや、違う)
(ここホントに洞窟の中か?)
(あの光は何だ! あそこに何かあるのか!?)
ゆっくりと立ち上がって光の元へ歩いていく。
眩しい光に近づくにつれ、目が細くなっていく。
腕を顔の前に持ってきて、影を作っても眩しい。
さらに近づくと目も開けられないくらい眩しい。
仕方がないので目を閉じながら光の元へ進んだ。
(この辺りか? 光があるのは……)
眩しいだろうが確認するために目を開く。
眩しい光の正体は見えない。わからない。
(掴んでも大丈夫かな……)
それが何か手に取って確かめてみようと手を伸ばす。
何か指先が触れる。
その瞬間――――
▼ ▼ ▼
「アオーーーーーーン!!」
「!?」
オオカミの遠吠えに気が付いて我に返った。
辺りは真っ暗な闇のままで、仰向けになって寝ていた。
「はぁ……はぁ……もしかして、寝てたのか……?」
身体に汗が流れるのを感じた。
(真っ暗で何もわからない)
(……あの眩しい光は夢だったのか?)
手にはしっかりと秘宝玉が握られていた。
(よかった無くしてないみたいだ……)
「アオーーーーーーン!!」オオカミの遠吠えが聞こえた。
(――!? ルロウの声だ!)
洞窟の中にいても確かに響いて来た。
(こっちから聞こえる。。。出口はこっちか……)
遠吠えの聞こえてくる方向へ歩き始めていった。
▼ ▼ ▼
【林の中】
(ま、眩しい……もう朝か……)
洞窟から出ると外の光に目がくらんだ。
腕で顔に影を作りながら進んで行く。
「あ、あおーーーーーーん」
ロードが遠吠えを返してみると数秒後には、
「ロード!!」
ルロウに発見された。
「見つかったチュウ」「探したチー」「心配したチャア」
皆が集まって来た。
「皆……」
「……洞窟の中にいたのか。いったい何をしていた?」
アカに背後の洞窟を見つけられて聞かれたロード。
(迷ってましたなんて恥ずかしくて言えないな)
「……秘宝玉の使い方を考えてたんだ。あの中にいれば思いつくかと思ってさ」
「思いついたチュウ?」
首を横に振る。
「そうか……だが、洞窟に行くなら行くと一言かけてくれ」
「ごめん」
「結局ダメかー」
ルロウが残念がる。
「諦めるのはまだ早いさ、朝食を食べた後また皆で考えよう」
「何言ってるんだ? もう朝は過ぎた、今は夕方だぞ」
「えっ……?」
「チー達、朝からずっとロードを探してたんだチー」
「夕方……?」
「もう帰る時間チャア……」
「王様たちが戦う準備を進めているはずだ……見聞きしたことを伝えないと……」
ルロウが提案する。
(もう夕方だって――)
(洞窟の中でそんなに過ごしていたのか!!)
「か、帰るって、秘宝玉の使い方がまだ――」
「残念だが時間切れだ。秘宝玉は使えないと皆に話すしかない」
アカが告げる。
(そんな……)
「急いで戻るぞ、皆乗れ……」
皆が戻る準備を進めていく。
(何かに届きそうだったのに……)
秘宝玉を力強く握っても反応はやはりない。
(つ、使えないのか)
「ロード」
ロードは呼ばれてしまったのでアカの背中に乗った。
竜が翼をはばたかせて空へと飛び立っていく。
そしてストンヒュー王国の方向へ帰っていった。
手にある秘宝玉は使えないまま。
(使えないとしたらオレは魔王に勝てるのか?)
(ダラネーさんを王国をを取り戻せるのか?)
(それでも……)
「倒すしかない」
夕焼けを進むと、最後の決戦が近づいてくる。




