第71話 暗闇が冒険に誘ってくる
洞窟の奥は深い夜など比べ物にならないほどの真っ暗な闇だった。
入り口は剥き出しの植物の根と湿った土が合わさって下に続いていく。
「誰か住んでたりしますかー! コウモリさーん!」
声は外に漏ることなく洞窟内へと反響していく。
数十秒待っても誰の返事もない。
(誰も居ないみたいだ)
(けど、何かあるだろうか?)
(かなり、奥にまで続いてるみたいだけど……)
(な、なんか身体がうずうずするな)
(落ち着かない。これが好奇心って奴だろうか)
(行きたい。この奥に行きたい)
(冒険に行きたい……)
そのとき、
「おっと――!?」
手に持っていた秘宝玉が滑り落ちて、地面に落下する前に慌てて掴み直した。
「ふぅーー」
(いけない……いけない……今は冒険よりも秘宝玉の使い方だ)
そう思って洞窟に背を向けて立ち去っていく。
が、振り返って洞窟を見てしまった。
(…………中で考えればいいか)
辺りに落ちていた木の枝を束にして、ポケットに入っていた火起こし石を使って松明を作る。
(ちょっとした、気分転換なんだ。少し行って帰ってくるだけだ)
足元に気を付けながら洞窟の中へと入っていく。
▼ ▼ ▼
真っ暗な洞窟を進んで行く。
(暗い。先が見えない)
(でも、なんだろう。ドキドキする)
歩き出していく。
(どこまでいけるんだろう)
(行っても行っても道が続いていくけど……)
自然と早歩きになっていく。
(長そうだな~~)
(とりあえず行き止まりに着いたら引き返そう)
どんどん進んで行く。
(かなり歩いたような気がするな)
(もう引き返した方がいいんじゃないか?)
奥へ奥へと進んで行く。
(何にもないな~~もう戻ろうかな)
(いや…………あと少し、あと少しだけ進んでみよう)
もっともっと先に行く。
(この洞窟、全然終わりが見えないぞ)
(気が付いたら、後戻りできなくなってる)
足が勝手に動いていく。
(おれはどこへ行こうとしてるんだろう)
(ここはまるで……)
(秘宝玉の使い方もわからないオレの道そのものだ)
「――熱っ!!」
そのとき、急に手に熱さを感じて持っていた即席の松明を落としてしまった。
見れば、だいぶ燃えてしまったようで手に持つことが出来なくなっていた。
「もう使えないな……」
(……戻るか)
振り返って戻ろうとしたが暗すぎて道が見えなかった。
(……しまった)
暗闇の洞窟を引き返すには明かりが必要だった。
(どうする…………そうだ!)
まだ燃えている松明の残りを見て思いついたことをした。
上着を脱いで松明の火に当てて燃やした。
火が燃え移ったらとそのまま手で持って走り、明かりにして来た道へと引き返していく。
(急げ急げ)
だが、上着を燃やしていく火は松明とは燃えていく速さが違った。
「――――熱っっっ!?」
おまけに上着を下にして持っていたので、火に手が炙られてしまう。
そして明かりにしていた上着を落としてしまった。
「何やってるんだオレは……」
その場にへたり込んで、燃えていく上着を見つめる。
(まずいなぁ、どうやって戻ろう……)
(いや、止まっても仕方ない)
(この明かりが消えないうちに少しでも進もう)




