レジェンドオーブ・ロード～スライム勇者の物語に憧れて最強への道を歩み始め、あらゆる魔王達の根源たる最魔の元凶を滅ぼし全ての異世界を平和へと導きます～

第二章 異なる世界からやって来た最強の魔王

第６９話 秘宝玉を手にする覚悟

「どうしたガメ？　魔王を倒すためにここまで秘宝玉の力を求めに来たのではないかガメ？」

「…………悩んでいます」

「ガメ？」

「秘宝玉がこの手にあったとして、オレが魔王を倒せるかわからないんです……戦っているときに剣の攻撃が止まりました」

「まぁ、魔王を生き物と考えたら、そうだろうガメ」

「いえ、これは昔からのことなんです。オレは相手を傷つけるために剣を振るとどうしても直前で止まってしまうんです。衛兵同士の試合でもなんでも……」

「……お前さんは優しいガメな」

「けど、魔王にはそれがお前の弱さだと言われました」

「……言いよるガメ。だがロード、魔王を倒すことに怯える必要はないガメ」

「でも、魔王でも命を手に掛けるのは……」

「魔物は普通の生き物とは違うようなんだガメ。別の世界だと魔物を倒すことは当たり前みたいになっているガメ」

「そんな、共に平和に暮らす道はないんですか？　そうすれば倒す必要は……」

「それしか方法はないガメ。別の世界から来た魔王にこの世界はただのおもちゃ箱にしか見えておらんガメ。説得は絶対に出来ないし世界を壊すことに一切の躊躇いはないガメ」

（…………確かにそんな態度だったな）

（普通の生き物じゃない、か）

「こういう話を聞くガメ」

「魔王にも善意があるだろうと信じて説得を試みた者がいた。しかし、説得は失敗に終わり無慈悲な魔王は世界を滅ぼした」

「別の話だと……」

「長い間、魔王に攻められ続ける世界があった。その世界で戦っていた者たちは、これ以上の犠牲に耐えられなくなって降伏した。しかし、魔王は見向きもせずその世界を滅ぼした」

「どうして、そうまでして世界を滅ぼすんです」

「魔物たちの行動原理は全て己のためになることガメ。命を奪う理由はそれが奴らのためになっているからだガメ。そいつは何か言っていなかったガメ？」

「命が散るのは面白いと……」

「それが全ての魔物の正体ガメ。それでも……魔王をこの世界に留まることを許せるガメか？」

（オレだって追い出そうとはしてたさ……）

（けど、この手でってなると話は違う）

　決意を揺るがせているのが、目に見えてかお爺さんは話を続ける。

「お前さんの言ってることは正しいガメ。それでも魔王には何も届かないガメ。この世界は人も動物も言葉で繋がっておるから、もしかしたら魔王とも繋がれるかもしれないと思うのは当然ガメ。だが、決して聞く耳は持たないガメ。例え悪だとしても、生き物として外れた存在だとしても、その命を奪うに等しい行為に抵抗する気持ちはわかるガメ。とてつもなく辛い選択だということも、しかし……ロードよ」

「倒さねば、今度はわしらの世界が滅ぼされる番ガメ」

「………………」

　両手を見つめる。

（やるしかないのは分かる。でも……）

「想像するガメ。魔王をこのままにして置いたらきっとどうなるガメ」

（もし、そのままにしておけば……）

（竜殺しの剣でアカは倒され、王国は取り返せなくなる）

（脅威が消えたことで魔王は黒い竜を世界に解き放つ）

（そうなれば、アカやってた以上の被害が出てきて）

（今度こそ、平和が無くなってしまう）

（最強となった魔王に誰もたどり着けなくなって）

（ずっとさっきの未来までそれが続いていく）

（そして何もかもが戻らない）

（一番、酷いのは魔王が望む限り……）

「……皆が命を落としていく」

「そのような悍ましい想像通りになってもいいガメ？」

「わかりました。魔王はオレが倒します」

　両手を力強く握りしめ固い固い決意をした。

「では秘宝玉を手に取るんだガメ」

　両手を使って、木箱の中から秘宝玉を取り出した。

（……秘宝玉）

（こんなに小さい物に凄い力を秘めているのか）

　手で握れば隠れてしまうほどの小ささだった。

「やった、手に入ったチュウ」「これで、魔王に勝てるチー」「早速帰って王様たちに知らせるチャア」

「これならうまくいきそうだな」

　ルロウが喜ぶ。

「ゲンウさん。これどうやって使うんですか？」

「……何も起きんか？　色々試してみるガメ」

　渡した本人も具体的なことを言わなかった。

（色々って……力とか入れてみればいいのか？）

　両手に包み込んでみたり、力を集めて見たり、掲げて見たりするが

「何も起きません……」

「おい、それじゃあ持ってても意味ないぞ！」

「そう言われてもわしにも使えなかった代物ガメ」

「そんな、時間がないのに……」

「そうだ、使うヒントがあったガメ……」

（方法じゃなくヒント？）

（まぁ聞いてみないと……）

「秘宝玉を使うには磨き探し出すこと……」

（ヒントになってない……）

「いや、もう探し終えてるチュウ」「肝心の使い方が分からないチー」「他に何か知らないチャア？」

「他に知る人は？　旅人の人とかどこにいるんです？」

「何百年も前の話と言ったはず、この世にはもういないガメ。それに知ってたら自分で使ってここには持ってこなかったと思うガメ」

「ああ、そうか……」

（ってことは行き止まりか）

　これ以上のことは分からなかったので小屋から退散することにした。

　▼　▼　▼

　浜辺。

「最後の最後で知りたいことを教えられずすまんかったガメ」

「いえ、十分すぎるぐらいのことを教えてもらいました」

「お世辞は言わなくていいガメ」

「すみません。でも感謝はしてます。あなたに会わなければ何も知ることは出来なかった……あとはオレに任せてください。必ずこれを使えるようにします。それでは戦いが終わったら、また報せに来ます」

「うむ、いい報せを待っているガメ」

　▼　▼　▼

「でどうすんだ？」

　ルロウが訊いてきた。

「アカにも相談してみよう」

　急ぎ足でアカのいるところまで戻っていく。

　▼　▼　▼

　戻って秘宝玉のことを説明すると、

「その言葉がヒントなのではないか？」

「秘宝玉を使うには磨き探し出す……が？」

「そのままの意味ではないだろう？」

「――そうか！」

「何が」「そうか」「何だチャア」

「この一文はこうも取れないか？　秘宝玉を使う方法が知りたいなら自分で探し出すこと」

「使い方を自分で見つける？」

「そう、例えば秘宝玉の使い方が書かれている本を読んだとしても意味がないんだ」

「自分で使い方を見つけろってことか……だったら秘宝玉に関する本が一冊もないの説明がつくな」

「どうやって探すんだチュウ」「ますますわからないチー」「何しても反応がないチャア」

「大丈夫。明日の夜まで、まだ時間はある……」

「そうだな、まず、食い損ねてたメシでも食いながら考えることにするか」

　一同が食事にするため林の方に向かう。

　最後尾を歩きながら秘宝玉を見る。

（お前はどうやれば使えるようになる……？）

　透明な玉には何の反応もない。

（焦るな大丈夫だ）

（今のところいい方に転がっている）

（もう手も止まりはしない。戦うって決めたんだから）

（きっと明日の今頃には魔王を倒してるはずだ）

（絶対にオレは秘宝玉を使って魔王を倒してるはずだ）

（もう願う必要はない。明日で幸せな世界を取り戻すんだ）

　夜空の下で決意する。

　だけど苦悩はここからだった。