第67話 知っている話
「ん? 宮殿に7つの伝説ガメ? それはおとぎ話か? それとも誰かの歴史的な逸話ガメ?」
「いえ、そういうのではなく宮殿で流行してる世間話です」
「興味がない。さぁ帰るガメ」
(ダラネーさんならここで強引に話を聞かせて来て)
(興味を引かせに来たんだっけ)
(だったら、オレも……そうすればいいじゃないか)
「まず一つ目の伝説ですが……」
「だから、興味は……」
「宮殿には『幻の両利きの男』がいます」
「ん? 両利きとな珍しいガメ」
(それはオレなんだけどさ)
「次に二つ目、宮殿には『絵本の害虫』がいます」
「ん? どいう意味だ? 宮殿にはムカデたちでも住んでいるガメ?」
(謎ままで畳みかけよう)
「三つ目の伝説は『夜な夜な不気味の音がする庭園』です」
「宮殿で音ガメ? 分かった鈴虫かカエルたちの鳴き声ガメ」
「違います。もっと夜に聞くと不気味で怖いものです」
「な、なんガメ。その声というのは……真実を教えるガメ」
(オレの鍛錬中の声や音なんて言えるわけがない……)
「しょ、正体は謎に包まれています」
「ぬっ! 話を続けるガメ」
(よし、興味を持ってくれたみたいだ。このまま押し切ろう)
「四つ目の伝説は『一度も勝負に勝てたことのない兵士志望者』がいます」
「……負けたことがない方が伝説になるガメ」
「さ、最近は負け続けたら伝説になるみたいです」
「そうガメか?」
「つ、次です。五つ目の伝説は『ストンヒュー王国を裏から牛耳る裏の使用人長がいる』というものです」
「……いや、そのような者がいれば国王と大臣たちが黙ってはおらんガメ」
「……話ではときに王様も大臣たちにも上から発言できるらしいです」
「そのような陰謀が事実なら大問題ではないか。誰か公表せんのか?」
「残念ながら事実を証明する根拠がなにもありませんので真相は闇の中です」
「そのようなことが起きているとは知らなかったガメ」
「これ、噂話だよな?」「そうチュウ」
ルロウがハチュに訊く。
「六つ目の伝説は『どんな怪我でも治してしまう神様がいる』です」
「ほう、そのように縁起のいい者がいるガメか? わしのような古老がその者に会えたらきっともっと長生き出来るガメな」
(…………この方が長生きできますように)
(って願えば、か、叶えてあげられるのかなぁ)
「7つ目の……最後の伝説はなんガメ? 気になるガメ」
(ああ、最後か。これはオレ好きな話だった)
「最後の伝説は……」
お爺さんから息を呑む音が聞こえて来た。
「宮殿には『異世界人がいる』らしいんです」
「――期待して損したガメ」
「………………(やっぱり、オレの感性は、他の人とはどこかズレているんだろうか……?)」
「……しかし、オチとしてはなかなかだガメ」
「オレが知っている話はこれくらいです」
「がっ? つい聞き入ってしまったガメ」
「ゲンウさん。どうか秘宝玉について教える気になってくれませんか? お願いします」
「しかし、今の話では、ん~~~~」
「お願いします」
もう一度、宮殿仕込みのお辞儀でお願いするロード。
「爺さんいいじゃねーか教えてくれよ。けっこー面白い話だったろ?」
「そうガメな~~、ロードといったガメな。おぬしはその伝説を知ったとき、どれが一番面白かったガメ?」
「えっ? オレが面白かった話?」
「……どれガメ」
「オレが面白かったのは……やっぱり、最後の『異世界人がいる』っていう話です」
「どうしてそれが面白い、語られた伝説の中では一番バカバカしい話ガメ」
「おかしな話だとはオレも思いますけど……でも一番面白い話です」
「他の話は興味がないガメか?」
「興味がないというより別に知らなくていい話だと思います」
「両利きなんて練習すれば出来るかもしれないから何も珍しくない」
「絵本の続きは誰だってきっと気になるからおかしくない」
「夜中に不気味な音がしても勇気を出して確認しに行けばきっと何でもない」
「勝てない兵士より負けない兵士の話の方が聞いてみたい」
「王国の陰謀論なんてあり得ない暗いこと考えたくない」
「神様がいるのは良いけど怪我の勉強はちゃんとした方がいい」
「そうやって考えると別に知らなくてもいいと思います」
「……なるほどガメ」
「でも、異世界人は気になります。人がいるのなら暮らす世界もあるから連れて行ってもらえるとか、どうにかすれば行けるとか、考えられますから……そうすると想像が広がって楽しくなるから、そういう話がオレは面白いと思うし好きなんです。「いつか本当に見たこともない別の世界に行きたいくらいに……」
その時、ロードはすごく明るい、いい笑顔をしていた。
「……合格ガメ」
「えっ? 合格?」
「今どきの若者の感性、良いことを知れた。これでいいガメ」
「それじゃ……教えてくれるんですか?」
「ガメ、おぬしたちに秘宝玉のことを教えるガメ」
夜の浜辺で、波が優しく足に被さって来たときだった。




