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第66話 物知りの爺さんガメ、ゲンウ

 時刻は夜の23時過ぎ。

 ストンヒュー王国から北に広がる海の浜辺にやって来た。

 竜に乗ってやって来たので、ほんの数時間で到着した。

 その竜はこれから会いにいく者を驚かせない為に、その場で待機してもらった。

 

 浜辺。


 真っ白な砂浜と広大な海は夜空から落とされた闇によって黒に染まってよく見えない。

 遥か彼方まで続く闇の景色はさざ波の音だけを残している。

 

 先頭に歩くルロウにただついて行き、砂浜に足跡を残しながら目的の場所に向かうロードたち。

 頭や肩にいつものようにネズミたちが乗っかっていた。

 

「ちょっと先行ってるぞ」

 

 ルロウが何かを見つけたように走り出した。

 走り去っていく姿を目で追うと、前方に目的地らしい木で作られた【小屋】が見えて来た。

 ルロウの足跡を辿るように進んでいくとその小屋に到着した。

 直接、砂浜に建てられている民家のような小屋は、入り口に扉が付いていなかった。

 

「爺さん。ここには居ないみたいだ」

 

 言う通り。小屋には誰もいない寂しい雰囲気が漂っていた。

 

「困る……」


「わかってる……ここにいないなら、たぶん岩の方だ」

 

 また先頭を歩きだし案内する。

 どこまでも続く砂浜を歩いていると、大きな平らな岩が見えてくる。

 砂浜にあったその岩は、とても不自然に置かれているように感じた。

 

「……やっぱりいたな」

 

 岩の近くまで来るとそれがわかった。

 岩の上にいは年を取った人くらいの大きさのウミガメがいた。

 

「おい! 爺さん!」

 

 呼ぶ声に気づいたカメは、ゆっくりと身体の向きをこちらに変えてくる。


「んん? なんだ? 誰ガメ?」


「爺さん……オレだ、ルロウだ! 覚えてるだろ?」

 

「ルロウ……? ああ、前にここから手作りの船で異国に旅立ったオオカミか……久しぶりに思い出したガメ……あやつは元気でやっとるガメ?」

 

「いや、オレがその旅立ったオオカミだ」


「ん? そうか。そっちは何だガメ?」

 

「はじめまして、オレはストンヒュー王国の使用人・ロードといいます」


「ほが? 聞き取れんガメ」

 

「……オレはロードです」


「聞き取れた。わしはゲンウだガメ」

 

「はい、ルロウから聞いてます……」


「そうか……夜も遅いから遊ぶなら他所に行っとくれ、わしはもう寝るガメ」

 

 お爺さんはその場で眠ろうと、首を甲羅の中に引っ込めていく。

 

「待ってください。あなたに用があってここに来たんです。少しだけお時間をいただけませんか?」

 

「わしに用ガメ?」

 

 甲羅から首を出してくれた。

 

「今、オレたちはわからないことがあって行き詰っているんです。それでルロウが『ゲンウさんは物知りな方だから知っているかもしれない』と……ここへは、そのわからないことを教えてもらうために来たんです」


「……そのわからないことというのは?」

 

「秘宝玉というものです」


「……ん~~?」

 

「爺さん、知っているか? 知らないか?」


「ひほうぎょく~~、ガメ~~、どこかで聞いたような……ん~~~~」

 

「黒い丸い玉と言えばわかりますか?」


「くろ? 丸い玉……おお! あれガメ! 思い出した秘宝玉ひほうぎょくのことガメな!」

 

「知ってるんですね? 教えてください秘宝玉のことを……」


「ダメだガメ」

 

(…………へっ?)

 

「ケチな爺さんチュウ!」「何でチー!」「教えろチャア!」


(頼み方がダメだったか?)

「教えてください。どうしても必要な情報なんです」

 

 ロードは頭をしっかり下げて頼み込んだ。

 

「まだダメだガメ」

 

(宮殿で教え込まれた精一杯のお辞儀じぎだったのに、これ以上の頼み方なんてわからない)

 

「教えてほしいならまず、そっちがわしに新しいことを教えるんだガメ」


「ああ~~そうか、前もそんなこと言ってたな」

 

「何の話だ?」


「いや、ゲンウの爺さんはさ、こっちが聞きたいこと質問すると決まって自分の知らないことを聞きたがるんだよ」


「そうガメ、知りたいことがあるなら、まず知らないことを持ってくるガメ」

 

「じゃあ、オレたちの好きな食べ物を教えるチュウ」


「チーズガメ」

 

「今は急いでるんだチー教えてくれチー」


「ダメだガメ」

 

「ルロウは何か教えたのかチャア?」


「前にサーカスの話をな……まぁ大丈夫だ。オレはいろんなところ行って来たから爺さんの知らない話ならたくさんある」

 

「いや、今聞いてきたのはそこの若者だガメ。そやつの話しかダメだガメ」


「オ、オレが知ってる話? この物知りが知らない話なんてあるかな」

 

「あれがあるチュウ! 絵本の話」


「そんなのでいいのか?」


 鞄からいつもの絵本を取り出そうとしたが、


「絵本は嫌いガメ」

 

(……せめて読んでから嫌ってほしい)

 

 絵本を取り出すのを辞める。

 

「竜だチー、チーたちの見た竜の話をするんだチー」

 

(絵本がダメだったのに大丈夫か?)


「……おとぎ話ではない竜の話ならできますが……」

 

「世渡りをする竜を知っとるガメ?」

 

(……凄い、知ってるんだ)

 

「あれだチャア! ロードの勉強してきたことを教えるんだチャア」

 

(このお爺さんに教える立場になれるほどじゃないと思うけどなぁ)

 

「……じゃあ、医学的な話がいいか?」


「学問については250年前さんざん勉強したガメ……」

 

「ダメだな。ありとあらゆるとこから集めた爺さんの300年の知識量と、ストンヒュー王国でしか勉強してないロードの知識量じゃ差がありすぎる」

 

「王国暮らしなのに話題がないガメ? あそこは相変わらず何もないガメか?」

 

「な、何もなくはないですよ……王様も絵を描くって言ってたし、きっと歴史的な芸術に……」

 

「ほう、何を描くんだガメ?」


「まだ、決まってないみたいですけど……」


「ないなら、もう寝させてもらうガメ」

 

 また甲羅に首を引っ込めようとする。

 

「そんな時間ないチュウ」「ロード何かないのチー」


「わかってるけど……こういう話はダラネーさんの方が……あっ!!」

(思い出した!!)

「ゲンウさん、ストンヒュー王国の宮殿には世にも不思議な7つの伝説があることを思い出しました」



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