第65話 明日の夜までは時間がある
ロードは王子と行く道を別々にした後。
そのまま森を歩いていたら大臣の娘に話しかけられた。
「ロードお兄さん、私たちここで暮らさなきゃいけないの?」
「少しだけさ、たまには外で寝るのも悪くないよ」
「今日、お外で寝たら、明日は戻れる?」
「……うん、戻してあげるから、いい子で待っててくれ……」
「うん」
頷くとは母親の元へ走っていった。
母親に軽いお辞儀をされたので、こちらも返した。
▼ ▼ ▼
アカに乗って飛ぶために、夜空が見える森の広い場所に出て来た。
すると、また声をかけられた。
「ロードさん!! あ、あの……はぁ……はぁ」
ビッシィさんはずいぶん走っていたみたいで、息を切らしながら近づいてきた。
「どうしたんですか? 慌ててるみたいですが……」
「ダ、ダラネーさん、、、はぁ、見ませんでしたぁ?」
「いえ、ここではまだ見てません」
「し、使用人の皆さん、の無事を確かめているんですが、、、まだ彼女だけが見つからなくて、」
呼吸が整ってきたようだ。
「これだけ人がたくさんいれば探すのは大変でしょうね……でも、すみません王様に急ぎの用事を仰せつかって手伝えないんです」
「で、でも……」
「?」
「ダラネーさん、もしかしたら、まだ宮殿に取り残されているかもしれないんです」
「はぁっ!! ほんとですか!!」
思わず大きな声を出してしまって、周囲に注目されてしまった。
「か、彼女、昨日は睡眠を取らなかったみたいで、昼間に体調を崩してしまったんです。それで宮殿で休むようにって言ってしまったのでもしかしたら、彼女、まだ……」
(ダラネーさんがまだ宮殿に!)
「だ、誰か見てないんですか! あの状況で眠り続けてたとは思えない! 絶対ここのどこかに……」
「でも、見つからなくて……どうしましょう。逃げてる時、私が思い出せてなかったから……」
あまりに責任を感じてか、涙を流してしいる。
「アカ! 宮殿に行こう!」
後ろを振り返り、友達に頼みこむ。
「……ロード先ほどの王の命令を忘れたか」
「でも、オレの友達がまだ宮殿に――」
「気持ちは分かるが、今の我らでは魔王にやられに行くようなものだ。秘宝玉を手にしてからの方がいい」
「――友達の危機なんだ! 後回しになんて出来ない!」
「ダメだ! 今行けば我らは魔王に敗北する! そうすれば、この世界の破壊は誰にも止められない! 王国も取り戻せなくなるぞ!」
「うぅ……」
「……まだ宮殿にいるとは限らないチュウ」
「いや、いる」
「わからないチー」
「わかる」
「ダラネーがここにいるなら、必ず皆に顔を見せるはずだから……そういう人だった」
「う、ううっ、私があのとき、思い出せていれば、ううっ」
「……ビッシィさんは引き続きダラネ―さんを探してください」
膝から崩れ落ちていた彼女の肩を支える。
「で、でも、彼女は……」
「オレたちの思い過ごしで、実はここにいるかもしれない」
「わ、わかりました。探します」
立ち上がってくれた彼女はまた森の中へ探しに走っていった。
「アカ急いでくれるな? オレはすぐにここに戻って来たいんだ」
「わかった乗れ!」
竜の背中に乗り上がる。
「いいのか? 本当に……」
「ルロウ考えさせないでくれ……本当は一人で乗り込みに行きたいくらいなんだ。でも、今行ってもオレは魔王には勝てない。いや、勝てなかったんだ……魔王にも命があると思ったら手が止まったんだ。あいつの言う通りオレは弱いのさ! 戦える力があるのに戦わない方法を探す臆病者さ!」
こみ上げて来た怒りを両手を力いっぱい握ることで何とか抑える。
「あのとき、倒せていればきっと、きっとこんなことには、ならなかった。そしたら、ダラネーさんだって……」
「……悪い」
ルロウが謝罪する。
そして全員がアカに乗って出発する準備が整った。
(悪い考えはするな)
(今やらなければいけないのは魔王を確実に倒すための準備だ)
(確実に助け出すための準備なんだ)
(『――明後日は一緒にご飯食べましょ~~ねぇ~~!』そう、約束したんだ)
(まだ大丈夫。きっと時間はある)
(オレの言葉を信じて仕事してくれたように、今度はオレがその言葉を信じないと……)
(明後日は一緒に昼ご飯を食べるんだ!)
「行けアカ! 全速力で!!」
「グオオオオオオオオオオオ!!」
翼を広げて飛び立った。
(明日の夜までだ)
(それまでに魔王を倒す強さを手に入れるんだ)
夜空をアカに乗って進んで行く。




