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第62話 全てがワルモノの思い通り

「我に何をした……?」

 

「グクク、麻鬼刀とは突き刺した者を黒い靄に包ませて操るためのものだけではない」

 

 離しながら腰に提げていた刀を鞘から抜き取っていく。

 

「この刀は、刺した者の力を少しずつ喰らい、我がものにするのだ」

 

 刀身が半分になってしまって刀としては機能しないものを見せてくる。

 

「逃げたのではない。オレは竜の力を奪うために必要な時間が経つのを待っていたのだ」

 

(――えっ!?)

 

「どれほど時が経てば、オレ以下の力になるかは見た目ではわからなかったが、そんな雑用は雑魚どもに任せてしまえばいい……竜は徐々に刀に力を喰われていき、お前たちは竜を倒すために戦い力を削っていく」

 

「オレたちを竜の力の弱体化させるために利用したのか……?」

 

「それが終わった頃にオレは刀を取りに行けばよかった。だが予想よりも早く片付き、おまけに刀まで届くとは手間が省けたわ」

 

(じゃあ、あの刀には、まだ力が――――まずいっ!)

 

 アカの方を見ると同じように身構えていた。

 どうにもならないということだ。

 

「竜を倒さなかったのは想定していなかったが、問題ない。ここにそいつを超える力がある。それを見せてやろう」

 

 半分の刀身しかない麻鬼刀を掲げて、力を解放しようとしていた。

 

 

「――や、やめろ! 魔王!!」

 

 

「最強を敬ええろぉ!! 雑魚があ!!」

 

 

 刀から黒い靄が渦巻いて天井を貫いていった。

 

 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴン!!

 

 凄まじい音を発して崩れる天井は、辺りに瓦礫を散らばらせていく。

 空いた天井から差し込まれた夕焼けの明かりが黒い靄を照らしている。

 渦巻く黒い靄がその形を整えていく。

 アカと二人でそれを見た。

 

(まるでアカの生き写しだ)

 

 揺らめく黒い靄は真っ黒い竜の形になっていた。

 

「お前の狙いは我の偽物を用意することか」

 

「ここに現れたのはお前の力で作った本物の竜だ。偽物はお前の方だ。もはや力を喰われた雑魚にこいつを超える力ない!」

 

「ロード、お前も早く外へ出ろ!」

 

 アカが翼を広げはばたく準備をする。

 

「こいつらを捌け!!」

 

『グオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 命令と同時に、空から黒い竜が来る。

 

「グオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 アカが玉座の間から飛び上がって、黒い竜を空へ押し返していった。

 

「ア、アカーーーー!!」

 

 アカと黒い竜が上空で戦い始める。

 

「その剣を渡せ……そうすれば見逃してやってもいい」

 

 手を前にして近づいてきた。

 

「――渡すわけないだろ!!」

 

 遠ざかるために後ろへ下がる。

 

「やはり、竜に対抗できる剣か」

 

(これでアカを倒す気だ……)

 

「来るな!! 本当に倒すぞ!!」

 

「出来んだろ雑魚! どうせ、その剣は飾りだ……」

 

「か、飾り? 何を言って――」

 

「オレを剣で刺し損ねたな」

 

(!)

 

 相手の懐に入って、剣で突き刺そうとした時のことだ。

 

「お前は命を奪えない」

 

「――っ!」

 

「どうせ、竜のときも命を奪えずにいたんだろう。だから、より面倒な麻鬼刀を引き抜くことを無理やり考え抜いたんだ」

 

「いや! オレはお前を――」

 

 竜殺し剣で斬りかかりに走る。

 

「雑魚がぁ!!」

 

 即座に片手を刀に変えた魔王に、剣をはじき返された。

 

「命を捌けん者がオレに勝てるわけがない! 最強とはな! 敵の命を奪いつくした者のことを言うのだ!!」

 

 刀を持っていない方の手で殴り飛ばされた。

 

「ぐあっっっ!!」

 

 諸々の衝撃で割れた窓際まで飛ばされてきた。

 

「グアアアアアアア!!」

 

(――アカ!!)

 

 窓からアカが宮殿の敷地内に落ちてくるのが見えた。

 

「雑魚い竜だ。人間その剣をこっちに渡せ。そうすれば、オレの竜を街に解き放つのはやめてやろう」

 

 空いた天井の上にいる真っ黒い竜を指さして言ってきた。

 

(ま、街に! アレを!)

(ここが、アカがレオリカン王国で暴れたようになる)

(いや、もっと酷くなる)

 

「――ひ、卑怯なっ」

 

「竜よ! 街へ――――」

 

 

「――ま、待て! わかった渡す」

 

 

「雑魚がぁ!! 早くしろ!!」

 

 怒りを表していた。

 

(……くっ、どうにもならない)

 

 竜殺しの剣を魔王に向かって放り投げた。

 

 ――が、飛び出してきたオオカミが咥えてキャッチした。

 

「ル、」

 

「これは渡すな! 本当にこいつが最強になっちまうだろ!」

 

 隣に駆け寄ってきた。

 

 そのとき、刀を構えた魔王が素早く走りだしてきた。

 

「乗れ!」

 

 急いでその背中に乗ると、

 

「お、おい!」

 

 割れた窓から飛び降りた。

 

「もう足に怪我はしない――」

 

 そういって外の芝生の上に軽やかに着地した。

 

「もう宮殿から皆は脱出した! オレたちも逃げるぞ!」

 

「ま、魔王が!」

 

「もういいチュウ」「あんなのには勝てないチー」「出直すんだチャア」

 

 しがみついていたことに今気づいた。

 ルロウが倒れていた赤い竜に近づいていく。

 

「おいアカ! まだ戦えるか!!」

 

「ああ、出来るが……」

 

 大きな身体をゆっくりと起こした。

 

「魔王を引き付けてほしいチュウ」「国から皆が逃げるまでチー」「お願いだチャア!」

 

「……分かった。一時間で済ませろ……それ以上はもたん」

 

 アカがはばたいて飛び立ち真っ黒い竜へと向かって行った。

 ルロウが宮殿から外に出るために走り出す。

 

「命の奪えん雑魚ぉ!!」

 

(――!?)

 

 背後から魔王の声がして振り向くと、割れた窓からこちらを見ていた。

 

「明日の夜までにその赤い剣を持って来い!! でなければ、また悪しき竜が世界を破壊する!!」

 

(魔王め)

 

 悔しさのあまり唇を噛み締めていた。

 

 手に持つ赤い剣と、背後で魔王の竜と戦うアカを見る。

 

(渡さなければ、世界でまた悪しき竜が暴れだす)

(渡してしまえば、魔王がアカを倒してしまう)

(どっちも魔王の思い通り、そんなのダメだ)

 

 宮殿の敷地にはもう誰もいなかった。

 開いたままの正門から外に出て、宮殿からの脱出が完了した。

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

 外に出るとストンヒュー大通りは大混乱だった。

 竜を見て事態を把握した民たちが悲鳴を上げながら逃げまどっていた。

 見知った使用人も、こういう事態のために居たはずの衛兵たちも、さっきまで平和に暮らしていたはずの民たちも、誰も彼も、人も動物も、王国から出るために走っている。

 

(あんなに平和だったここが、こんな風になるなんて)

(魔王にこの国が乗っ取られたんだ)

(オレが倒せなかったせいだ)

(この剣をオレはどうすればいい)

 

「明日の夜までなんて」

 

 今はただストンヒュー王国から脱出する道しかなかった。

 

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