第592話 家族ごっこ
ロードの極体の拳はアップには通用しなかった。
不死の秘宝玉、それがアップの秘宝玉だったからだ。傷や怪我汚れを受けると自動的に身体が発火して自身の身体を燃やして一瞬にして灰にする。すると灰になった身体はまた元の姿に戻って傷や怪我、汚れをなかったことにする。即死の攻撃だろうと束縛の攻撃だろうと受けたときの攻撃全てに働いて元に戻る能力である。
(極体が利かない)
(ミチルの斬撃もアカの炎も利かなかった)
(もはやオレに残された技は最初の一撃だけ)
(けれど、アレを使うと生命力を消費するから動けなくなる)
(何か弱点はないか?)
「アカ、何か弱点は見当たらないか?」
「攻撃しても再生する。考えているが、その再生力はどこから来ている?」
「どういうことだ?」
「攻撃するにしろ、再生するにしろ、何かしらの力が働いてるはずだ。それが消耗し、なくなった場合再生できなくなるんじゃないか?」
「つまり、体力切れか?」
「我が思いつくのはこれくらい――――!?」
その時14本の尾羽の剣がロードに迫る。極体状態のロードは後ろに下がってかわす。
「私の弱点を誰と相談しているの?」
アップが声を掛けてくる。
「答えるつもりはない」
「ふ~~~~ん、じゃあ予測を立てちゃおうかな~~、ズバリその赤い剣でしょ?」
「………………」
「せっかく二人っきりで遊んでたのに他の人とお話ししないで私に話しかけてよ……答えらることなら答えてあげるよ」
「それじゃあ、お前の不死の秘宝玉は何をエネルギーとして発動される?」
「う~~~~ん、しいて言うなら熱量かな……ホラ、再生するとき必ず焼かれるでしょ身体中に熱が走ってそれで燃やされていく。その後の灰化からの元通りはただの現象、秘宝玉の力が働いてると思う。だから私が燃えなければ不死の効果は発動されない。分かった?」
「その熱量、発動させない為には体力切れを狙うしかなさそうだが?」
「無理。再生するとき私は体力も気力も精神力も元に戻る。だからいくら攻撃しても無駄、再生して元通りになる。だからこそあの強かった兄さんを逃がした人と何日か戦い続けられた。持久戦において私に勝つことがそもそも無理なの。だからこそ大魔王最強と呼ばれている」
「アカ」
「弱点がなくなった」
ロードとアカは改めて向かい合う敵の恐ろしさを知った。
「それじゃあ、戦いごっこ、今度はこっちから仕掛けるね」
それは刹那の瞬間だった。10メートル以上離れていたアップは一瞬にしてロードの懐に潜り込んだ。
そして腹部、しかもみぞおちにアップの拳が入って行く。それを受けたロードは吹っ飛ばされて、背後の壁にぶつかって肺から空気を吐き出した。その際少々吐血もした。
「――――がはっ!?」
「ごめんなさい兄さん……痛かった?」
アップは本当に心配してた。
(軌道読みで移動の瞬間は見えてたが)
(身体が攻撃を避けようとするスピードに追い付けなかった)
(意識だけが把握していた)
(それに遊びと言っても拳一つでこの威力)
(強さのレベルが違う)
ロードは床に這いつくばりながらも腹部に生命力を集めてダメージを回復する。
「兄さん。何してるの?」
「回復してるのさ」
「へ~~~~、兄さんも私と同じように回復できるんだ。それなら長く遊べそうだね」
「どうかな、オレの力は全て生命力を使ってる。生命力が尽きた時オレは死ぬかもしれないぞ」
「そう、じゃあ、遊んでる暇はないね」
そういうとアップは14本の尾羽の剣を差し向けてロードを捉えようとする。
ロードの方は前に出ることで尾羽の剣の中を進む。その際アップはロードが尾羽の剣によって傷つかないように配慮しながら拘束を試みる。
しかしロードは軌道読みで尾羽の剣の軌道を読みかわしていく。そして床をダンと蹴ってアップのいる位置までジャンプし極体の攻撃を仕掛けるが、
「大人しく捕まって……兄さん」
ロードはアップの放つ光弾により吹っ飛ばされた。下に落ちて行くとき尾羽の剣がロードを締めあげようとする。 ロードは即座に青い剣を引き抜いて飛ぶことにした。
「ミチル!」
精霊ミチルの宿った剣はロードの思い通りに飛んで行く。
「兄さん。殺さないから大人しく捕まって一緒に暮らそう?」
「騙されないぞ大魔王! オレの家族はこの城に居たんだ! あの日、あの時お前が現れなければオレたちはずっと楽しい食卓を囲んでいたんだ!」
ロードの言葉に、
「いつまで家族ごっこを続けるの?」
アップは唇を噛んだ。そして光弾をある絵に向かって投げだした。そしてその絵は燃えていく。
「――やめろ!」
ロードが叫んだのはその絵が10人の子供と2人の大人が描かれた絵だったからだ。ロードにとってその絵はとても大事なものだった。
「兄さんの家族はその人たちじゃない」
アップは静かな声の中に静かな怒りを込めて言い放った。




