第591話 戦いごっこ
ロードは生命力を身体向上能力に変える極体を発動した。
わずかにロードの身体を黄金のオーラが纏う。青い剣を鞘に納めたことで飛べなくなったが、この状態で戦うつもりのようだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
全身に力を溜めて叫びだすロード、おのれを鼓舞している。
「さぁ、早く始めよう戦いごっこ……」
アップの言葉が降りかかる。
「――――――!!」
瓦礫の上をダンと蹴ってロードはジャンプした。その跳躍力はアップのいる10メートル上まで余裕で飛び上がった。
「――――――おぉ」
アップは感服していた。ただの人間がこれほどの跳躍力を持っていたからではない。圧倒的力を持った自分に立ち向かってくることに抱いた感情だった。
「極体拳!」
ロードは渾身の右ストレートを放つ。全身から出るオーラを拳一つに移動させ極大の攻撃力を生み出そうとしていた。
しかし、アップには届かなかった。無数の尾羽の剣がロードの身体に巻き付いた。腕や足や胴体に首、巻き付かせて動きを止めた。
「どんな強力な技でも当たらなければ意味がないよ。兄さん」
「だからオレを兄と呼ぶな! 大魔王!」
ロードは拳に集めた極体のオーラを右足に纏わせる。そして蹴りの構えで振りつけて、靴を飛ばし、アップに極体の攻撃力を纏った靴が腹部に直撃する。
「――――うっ」
アップの腹部に穴が開いた。その時、ロードを縛っていた尾羽の剣から力が抜け、無事脱出することが出来、廃墟の城の瓦礫に着地する。
一方アップは穴の開いた腹部から炎がわき出し自身の身体を燃やし尽くして灰化させていく。灰化した身体は再び人の形をかたどり煌びやかな髪に魔物の目を持った雅な華奢の少女、アップから死を奪っていく。
「まさしく不死」
アップはにっこりと兄に笑顔を浮かべた。
「――――まだまだーーーー!!」
ロードは再び瓦礫を蹴りジャンプした。
「また捕まえてあげる」
アップが14本の尾羽の剣で、ロードに逃げ場のない空間を作り出す。
(軌道読み)
ロードが発動させた技は目を極限まで向上させて相手の動きを見切る真眼だった。
一本目の尾羽の剣を手で払い退ける。二本目も手を使って払い退ける。三本目は巻き付かれる前に手を下げる。
「――――――っ!?」
流石にこれほどの数をいなすロードに驚いたアップ。真正面からジャンプして来るので、真正面から尾羽の剣を差し向ける。
これをロードは掴み取った。そして引っ張る。するとアップの身体がロードに引き寄せられる。左手に尾羽の剣の刃が食い込み血が流れるが、お構いなしに引っ張る。
「――――!?」
アップはグンと引き寄せられた。
そしてロードの渾身の極体拳の右ストレートがアップの顔面に直撃し、遥か後方へ吹っ飛ばす。
しかし、ロードは尾羽の剣を掴んだままでいた。
「まだまだーーーー!!」
ロードは尾羽の剣を引っ張る。そしてアップの身体を引き寄せて、渾身の極体拳による右ストレートを食らわせる。
「――――うっ!」
アップは顔面を殴られ呻く。
(人型の状態を殴っても気分が悪い)
(しかも少女の姿をしているからなおさらだ)
(ガリョウ先生の言う通り、人間の姿をした魔王はいた)
(魔王だから躊躇なく殴れるが……)
(もし本当にオレの妹だったらと思うとなんてことをするんだって)
(自分を殴ってやりたい)
(だけどこいつはオレの仲間を殺そうとしている魔王)
(少女の姿だろうが騙されるものか)
(今までの魔王には戦闘形態というものがあった)
(だったらこいつにもあるはずだ)
ロードは二発目、三発目、四発目とアップを殴っていく。
「いい加減本性を現せ! お前にも戦闘形態があるんだろう! それを見せてみろ! 本性を見せてみろ!」
ロードが叫びながらアップを殴り続けるが、ついにその手は止められる。尾羽の剣がロードを縛り付けたのだ。
「ダメだよ、兄さん。魔王の戦闘形態は見せる相手を選ぶの……この程度の攻撃じゃあ見せて上げられない。ふふふふ」
アップの身体から炎が沸き上がる。そして灰となり、元の姿へと戻っていく。それは顔に傷一つなく、雅な顔に不吉な眼が備わった幼くも妖艶な姿だった。
ロードの方は灰化したために、尾羽の剣の拘束が解け、下の瓦礫に着地した。
「極体でもダメか……」
ロードは極体のオーラを纏って、アップをどうやって倒そうか考えていた。




