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第589話 精霊の斬撃も竜の炎も効かない

 ロードとアップの戦いが始まろうとしていた。


「いいよ兄さん。気の済むまで遊んであげる」


 そう言って大魔王アップは右袖口から尾羽の剣を出現させる。長さは普通の剣に変わりない。


「作り話はうんざりだ! アップ、オレはお前を討滅する!」


 精霊の剣を天に掲げるとロードもまた空を飛んだ。


「ひぃ~~~~アップ様が暴れるどこかに隠れねば」


 眷属使魔のラジルバフアが瓦礫に身を隠す。


「ミチル! 五連撃!」


 ズオン! ズオン! ズオン! ズオン! ズオン! とミチルの飛ぶ斬撃がアップに向かう。


「そんな攻撃当たらないよ……?」


 アップは高速移動で斬撃を避けて行く。


 すぐさまロードとの間合いを詰める。そしてロードの懐に潜り込もうとする。


「ミチル! 逃げるぞ!」


 精霊の剣を水平に飛びたい方向へ飛んで行く。しかしロードの移動速度はアップには及ばない。


「まるで鬼ごっこだね」


 アップがロードに向かって行く。そして袖口から尾羽の剣を10メートルにまで伸ばす。


 アップが横なぎに尾羽の剣を振り被る。10メートル先にロードがいた。


「――――!?」


 ガキンと尾羽の剣の切っ先がロードの構えていた左手の竜封じの剣に当たった。その瞬間ロードは痛感した。


(――――くっ、何だこのパワーは!? いくら相手が魔王でも見た目は10才程度の女の子だぞ! どこからこんな力が出てくる)


 ロードは剣戟の余波で吹っ飛んだ。勇卵の城の柱に激突する寸前でロードはミチルの判断で飛び上がった。


「助かったありがとうミチル」


 お礼を言うロードは天空へと上昇していく。


「この程度の剣戟で飛ばされたらダメだよ?」


 大魔王アップが追いかけてくる。


(まだだ……相手は勝手にオレを追いかけてくる)

(だったら接近して来たところをカウンターで攻撃すればいい)

(焦るな、まだ攻撃が利かないと決まった訳じゃないんだ)


 ロードはアップが近づいてくるのを待つ。


「待ってよ兄さん。鬼交代しようよ……」


 ロードに追いつくアップすると、


(今だ!)


 瞬間ロードは飛んで行く方に向けていた青い剣の切っ先をアップに向けて突きの撃を飛ばした。


 不意を突かれたアップは顔に命中し消し飛ばされる。


(やったか?)


 ロードは滞空して様子を見る。アップの身体が城の中に落ちて行く。


 ズシャンと音を立てて落下する。


(これで身体中の骨も折れたはず)


 しかしロードは見ていた。突然アップの身体が燃え出した。そして炎に身を纏い灰になっていく。そして燃え尽きた灰が集まって再びアップの形を形成していく。アップは表情の読みづらい顔をしていた。


(顔が再生している)

(何だ? アレは……再生の秘宝玉か何かか?)

(いや再生でも頭を貫かれれば即死しないか?)


 ロードは考察するが答えが出ない。


 アップは再び舞い上がった。


 そして10メートルの剣が50メートルにまで伸びていく。


 ロードは赤い剣で攻撃を防ぐが、それは攻撃ではなくアップによる拘束だった。アップによって竜封じの剣は完全に尾羽の剣に絡めとられその華奢な腕とは思えない腕力がロードごと引っ張って行く。


「アカ! 起きてくれ!」


「――――うん? 何だどうしたロード……」


 アカが剣の状態のまま目を覚ます。


「緊急事態だ。手を貸してくれ」


 アカは状況を見た。


「大魔王か……アレは……」


「剣が引っ張られてる何とかならないか!?」


 ロードはもの凄い力に引き寄せられていくが剣は放したくないらしく、ミチルの飛ぶ力で抵抗した。


 それでも大魔王アップは全力を出していないのがわかった。


「捕まえられてるなら好都合! 竜の炎をお見舞いしてくれる!」


 その時、竜封じの剣から尾羽の剣を伝って炎がアップに向かって行った。


(竜の炎だ!)


 尾羽の剣は導火線のように炎を伝えていき、その持ち主であるアップを丸焼けにする。


(終わったか?)


 ロードが焼け崩れていく尾羽の剣を見てそう思った。


 ロードとアカは燃えていくアップを見守る。そして朱色の炎がアカの炎を弾いていく。


「「――――!?」」


 アップは発火して灰になる。そして灰は集まって元の大魔王の姿に戻っていく。


 そしてアップは飛び上がってロードと同じ目線に浮遊した。


「バカな。無傷、しかも汚れ一つ見当たらない」


 思わずアカが口に出す。


(ミチルの斬撃もアカの炎も通用しない)


 ロードは冷や汗をかいていた。


「二本ともいい剣だね。兄さん。だからこそ教えてあげる私のこの何度も何度も再生する秘密を……」


「どうして教える?」


「兄さんは分かっていないからだよ。私には絶対に勝てないって、どうして勝てないかって言うと何故なら私は最強の大魔王なんだから」


 アップはまだ本気を出してはいなかった。

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