第587話 勇者ロードへの質問
ロードは少し落ち着いた。
「ねぇ、兄さんの周りにいた人たちは誰?」
唐突にアップが訊いてきた。
「誰って仲間達だよ」
ロードはアップの顔を見ようとしない。
「私の事キライ?」
「人間を殺して来たんだろ? 嫌いにならない方がおかしい」
「じゃああの人たちのことは好き?」
「好きさ」
「私の同士でもある魔王たちや魔物たちを殺していったのに?」
「何が言いたい?」
「あの人たちは魔物殺し、私たちと何も違わないよ」
アップの価値観がロードにとっては侮辱に聞こえた。
「魔物殺し? じゃあ魔物ってなんなんだ! 人を殺して! 人を食べて! 人を支配する! それだけしかない存在だろう!? あらゆる異世界の敵だろう!」
ロードが席から立ち上がった。
「兄さん怖い……」
テーブルクロスを掴むアップ。
「くっ……」
「どんな人たちなの?」
アップが訊いてくる。
「何が?」
いらだつロード。
「兄さんの仲間たちのこと知りたい」
「……まず、仲間になったのはスワンって言う女性だ」
「スワン、どの子?」
アップは思い出そうとしていた。
「水色の髪の子だよ」
「ああ~~~~、あの珍しい技を使って来た子か~~人間にしてはキレイな顔だったよ。精霊の気を感じたけど精霊使い?」
アップは思い出したようだった。
「みたいなものだ」
「他の人は?」
「その次に荷船に乗り込んだのがハズレだ。頭の切れる炎使いだ」
「炎使い。爆弾使って来た人かな? あの赤い羽根の帽子を被っていた人?」
「そうだ」
「それから?」
「髪が緑色のグラスって人だ。そいつとは前に色々あってボコボコにされた」
「兄さんを傷つけたの!? 許せない!?」
「だけど、最後は和解して仲間になった」
「謝ってくれたの?」
「不器用な奴だからそれは聞いてないな……」
「あのクリーム色の髪の人は?」
「ドノミのことか? たくさん勉強した凄い人だよ」
「黒いサングラスを掛けていた人は?」
「ブケンか……ある大会でオレと互角の勝負をした男だ。今は借金返済の為にオレたちのところで働いてるけどな」
「あの召喚術師は?」
「シルベだ。お前に殺されそうなところをあの異世界に召喚してくれて助かった恩人だ」
「む~~~~私殺そうとなんかしてないもん。ちょっと気絶してもらおうとしただけだもん」
「あれだけすさまじい殺気を放ったのによくそんな嘘が……」
「嘘じゃないもん現に誰も殺してないし……」
「ミハニーツをボロボロにしただろ」
「誰?」
「単身お前と戦っていた勇者のことだ……ホラ、蜜使いの……」
「ああ、あの人……強さは申し分ないけど、所詮は人の枠に収まった強さかなって思った」
「どういう意味だ?」
「あのガリョウ先生とか言う人とは強さの壁があると思う。まだまだ強者とは呼べない人だね」
アップはロードの見ていた絵を見つめた。10人の子供と2人の大人が描かれた絵だ。
(ミハニーツを強者とは呼べない? こいつの底が知れない)
ロードは柄を握っていた手をようやく緩めた。
「ねぇねぇ、もっとお話ししようよ……この私がここで待ってる間何をしてたの?」
「――! 動物たちと共存する世界で使用人として働いていた」
「えっ、勇者を目指していたんじゃないの?」
「記憶を失ってたんだ。かつてお前から逃げるために異世界の狭間で何か固いものに強く頭を打って、それで着いた異世界が動物たちと共存する異世界だった」
「ふ~~~~ん。友達はいた?」
「ああ、いた。ネズミにナマケモノにネコにオオカミにニワトリにパンダにキリンにイヌにゾウにサイに……ライオンの王様とか……」
ロードはいつの間にか仲間に話している時のような錯覚にとらわれた。
「へ~~~~、じゃあ兄さんはどうやってここまで戻ってこられたの? 記憶喪失だったんでしょ?」
「赤い竜の世渡りの力を使ってまずスワンと出会った。そしてオレはスワンの経営する飲料店ホワイトポッポで働くことにした。次にハズレと会ってとても強い魔王ゴワドーンを倒した。そしてグラスと打ち解け合って、ドノミのいたスライムの異世界を救って来た。それから武闘大会でブケンとミハニーツに出会い、ミハニーツがオレのことを知っているみたいだったから記憶を取り戻させようとこの異世界に手掛かりを求めてやって来たんだ」
「じゃあ、ここにこれてよかったね……これで記憶が取り戻せるよ」
「いや、記憶のほとんどはもう戻ってる。お前が迎えに来た異世界に事実の秘宝玉の所有者がいて真実を知った。お前と初めて会った時の事」
「そっか~~~~兄さん。いっぱい頑張って来たんだ~~」
「お前は何をしていたんだ?」
「本がたくさんあったから読書をしてた。おかげで字も覚えることが出来た」
「そうか……」
いつの間にかロードはアップと打ち解け合っていた。
「それにしてもロード。いい名前、それが兄さんがお母さんから貰ったものなんだね」
「――――――っ!?」
ロードは驚いた。今まで考えたこともなかった存在を、てっきり捨て子だと思ってた自分を、よく知る人間がいたことに驚いた。
(お母さん?)




