第583話 最初の一言
ミハニーツによって魔王の少女とラジルバフアは蜜の巣に閉じ込められていた。
そして、ミハニーツ必殺の攻撃が刺しに行く。
「蜜針」
その一言でドーム状の中にいた魔王の少女とラジルバフアに蜜で作られた針が四方八方から襲い掛かる。
ズドドドドドドドド――魔王の少女の姿がボロボロにされていく。頭を抉られ、肩を貫通し、腕を千切られていく。もはや針の攻撃ではなく砲弾の攻撃だった。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおお」
暗雲の身体で作られた自称極大魔王のラジルバフアも攻撃を食らっていた。
その攻撃が魔王の少女を完全に消し去るまで続く。しかし、
この時、
(おかしい、この大魔王だろうと極大魔王だろうと攻撃を食らえば確実に傷口から霧散化の煙は出ていた。なのにコイツからは出て来ない)
ミハニーツは焦燥感を覚えた。
◆ ◆ ◆ ◆
何もない丘。
ロード、ハズレ、スワン、グラス、ドノミ、ブケン、シルベ、シスター・クレアは蜜のドームで戦っているであろうミハニーツの戦いを見守っていた。
「また、この異世界に大魔王の手が……主よ、どうかミハニーツさんに勝利を」
シスター・クレアが愕然とするが祈りは忘れない。
「あの魔王。ロードの故郷にいた魔物じゃない。ここまで追いかけて来たの?」
スワンが誰かに訊く。
「追いかけて来た? どういうことだ?」
シルベが訊く。
「オレたちは元々アイツと戦っているところでこの異世界に召喚された」
グラスが憎々しげに言う。
「だけどピンチだったので助かったんです」
ドノミが言う。
「そうだったのか……だけど極大魔王を倒すことが出来たミハニーツさんも居たんだろ? ピンチに陥るか?」
「あの時はオレたちがいて本気になれなかったと思う。あのドームの中は無差別攻撃なんだろ? あんな技オレたちと一緒に戦っているときは見せなかった」
ブケンが言う。
「そうか、でもわざわざお前たちを追って来るなんて、よっぽど怨めしいことしたんじゃないのか?」
「アイツの狙いは秘宝玉だ」
ロードが言う。
「どういうことだ?」
ハズレが確信して言うロードに訊いていた。
「シスター・クレアの事実の秘宝玉が見せてくれた記憶の中にあの魔王の少女が居た。ガリョウ先生と戦っていたんだ」
ロードが真実を語る。
「じゃあロードの先生は……?」
スワンが言いづらそうに言う。
「たぶんアイツが仇だ。ミハニーツも分かってたんだ」
ロードが一歩足を踏み込む。
「ロード、まさか加勢しに行くわけじゃないよな?」
ハズレが訊く。
「アイツはオレたち家族を引き裂いた魔王だ。ガリョウ先生の仇でもある。オレだって戦いたい」
「まあ、まあ、ここはミハニーツさんに任せようよ。あの人なら一人で倒して――――」
シルベがロードを落ち着かせている時、
バリンと割れる音が何もない丘に響いた。
ミハニーツの蜜のドームから朱色の光線が突き抜けていた。
それが軌道を変えて横なぎに振り払われ、蜜のドームを破壊していく。
「えっ? アレが魔王の攻撃か!?」
シルベが一歩たじろぐ。
ロードは走っていた。
「ロード! もし秘宝玉が狙いならなおさら行くな!」
「この異世界には今幾つかの秘宝玉が存在する! もし最後の砦にあるギネさんたちの形見である秘宝玉が狙われることだってあるその前に倒さないと!」
「この間の戦いを忘れたのか!? オレたち全員よりミハニーツの方が強い! ここは彼女に任せよう!」
ハズレがロードの腕を掴んで引き留める。しかし、
ロードは涙をこぼしていた。
「アイツにガリョウ先生は殺されたんだ! あの凄く強かったガリョウ先生が、今度はミハニーツの番かもしれない! 嫌なんだもう誰かが死ぬところなんて! だからオレは戦う!」
ロードはハズレの手を振りきって最速で走り出す。
その時、崩れ行く蜜のドームの中で剣技のみでミハニーツは戦っていた。
この時、
(この動きについて来る魔物が今だかつていただろうか)
(いや、いなかったこの魔王、前に戦った極大魔王より強さが上だ)
(こいつなら本当にガリョウ先生を殺し得てもおかしくないかもしれない)
(そしてこの私も……だけど仇は必ず取ります。ガリョウ先生)
ミハニーツは思っていた。
相手の魔王は袖から一本の赤模様の一本の尾羽を突き出して、ミハニーツと戦ってた。しかし、その尾羽はしなりを見せた。
「――――!!!?」
ミハニーツの剣は尾羽に絡めとられ、ミハニーツ自身も左手から放たれた朱色の光弾を受ける。
彼女の身体は吹き飛ばされ、ロードの眼前に落ちて来た。
「ミハニーツ!?」
「来ちゃダメ!?」
そばに駆け寄ろうとするロード。すぐに起き上がるミハニーツ。
二人が顔を上げると、目の前には魔王の少女が居た。
そして信じられないことを言う。
本当に信じられないことを言う。
「やっと、見つけた。兄さん」
魔王の少女が放った最初の一言だった。




