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第574話 子供たちの目指す強さ

 勇卵の城を守る金色の殻を覆っていた暗雲は、ラジルバフアの制御を失ったので離れて行く。




「ふぅ、まったく……遅いよ、ガリョウ」




 戦いが終わったことでヴィンセントが安堵の息を吐いて呟く。




「皆もう大丈夫だ。ガリョウ先生があの暗雲の魔王を倒してくれた。ひとまず危機は去ったよ」




 ヴィンセントは後ろに居た八人の子供達に振り返り、笑顔で結果を報告した。


 その報告を聞いて子供達は緊張が解けたのかいつもの調子を取り戻し口を開き始めた。




 まずはクラッカが


「す、すごかったなぁ、今の爆発。あんなおっきい魔王吹き飛んで食べられたぞ」




 ファンタが、


「あ、ああ、夢でも見てるみたいだった。あれホントにガリョウ先生がやったのか?」




 カイザルが、


「お見事です。ガリョウ先生」




 サシャープが、


「なるほど、さっきのがヴィンセント先生の聖法の戦い方か」




 ヨルヤが、


「…………先生達強すぎないか? もしかして英雄だったのか?」




 ミハニーツが、


「間違いなく英雄でしょ……私達こんな凄い人達に教えられていたんだ」




 レールが、


「くっ、最近自分が強くなってきたと思ったら、これか……あんなのどうやって追いつけってんだよ」




 ダイグランが、


「やはりオレ達が勇者になるにはまだまだ遠いか、あの魔王の目、当分は忘れられそうにない」










「先生! 先生!」




 そのとき、ヴィンセントと八人の子供達の耳に声が聞こえた。その声は勇卵の城の外側、それも空から聞こえて来た。彼らが声のする方向を見ると、




「ヴィンセント先生!」




 ムドウが空を飛ぶ城族の守兵に抱えられ運ばれて、無事、勇卵の城の中層の広場に降されて帰還することが出来た。




「ムドウ! よかった無事だったか……」




 ヴィンセントがムドウの側に駆け寄った。




「ムドウ! ロードは!?」




 後に続いてミハニーツもムドウの側に駆け寄って、まだここに戻って来ていないもう一人を心配して聞いた。




「ロードはガリョウ先生を助けに行くって魔王の方に……私、連れ戻せなくて……」




 空を飛んでいたムドウは地に足をつけた途端、脱力してその場に倒れ込む。




「ガリョウの方に向かったんだね? それなら心配ない、ロードは無事だよ。キミも見ただろガリョウがその魔王を倒したところを……すぐにロードを連れて戻って来るよ」




 ヴィンセントがムドウを助け起こしながら言う。




「そうか……良かった」




 ムドウは心底安心しきった表情を浮かべた。




「先生、ムドウだいぶ疲れてるみたいだ……」




 他の子供達も集まって来て、その中の一人ヨルヤが言った。




「そのようだね……だけど、まだ休ませられないかな」




 ヴィンセントは助け起こしたムドウの背中を押して子供達の居る方に誘う。




(じきにこの暗雲も晴れるが、やはりこの世界にはもう居られないな)




 未だ天を覆う暗雲を忌々しく、暮らして来た勇卵の城を名残り惜しく見てヴィンセントは決断する。




「皆、聞いてくれ魔王は消え去ったが、またいつ、この騒ぎを知った他の魔王達がやって来るかわからないロード達が戻り次第この色合界・ガークスボッデンから脱出する」




 それを聞いた九人の子供達は各々の思いを秘めて勇卵の城を見た。






 城で働いていたはずのパイトさん達は既にヴィンセントの計らいでこの世界からは居なくなっていた。






 戦いの終わった城族の守兵団は空中で待機している。






 不吉を呼び込む暗雲は色合界・ガークスボッデンを覆い尽くしたまま、まだ晴れる気配はない。










「ロード、見ていたな今オレはどういう道を歩いていた」




「魔王を倒す道?」




「違うオマエ達を守ろうとした道だ」




「…………」




「ロード、オマエがそう見えたのは、人を傷付けた過去を持っているから他の奴らが敵を倒す為だけに戦っているように見えるんだ……自分が人を傷付けたのは敵を倒す為だったから、そう思ったオマエはずっと皆もそうだと思い込んでいたからそう見えたんだ」




「だからこそ見せてやった、これが人を守ろうとする道だ」




「人を傷付けたことを受け止めた今のオマエなら何か掴めるはずだ」




「……そうか……人が魔王に傷付けられないように、守る為に剣を振ればいいんだ……そうすればあんな事故はもう起こらない」




「そうだ、そして忘れるなロード、オマエの力は敵を倒しす力じゃない。誰かを守り助ける力だ」




「!?」




「そう心に刻んで勇者を目指せロード」




「けど先生オレあんなに強くなれるかな」




「その為にオレとヴィンセントがいる。それにオマエはもっと強くなる。何せ人を助ける為に迷うことなくここへ来たからな」




「……」




「よし勇卵の城へ帰るぞ。アイツらも待っているはずだ」




「先生」


「なんだ?」




「勇者みたいだった」


「そう見えるのは勇者を知ってる奴だけだ」


(こんなこともあったなーー)


 青年ロードが思う。




 ロードは今回の件で成長した。


 魔王を倒す為に友人を傷付けてしまい、それからまともに人と戦えなくなった。しかし友人が魔物に殺されそうになったのを自分の力で助けられたことで、力そのものに対する恐怖を克服する。


 そして、人を助ける為なら剣を振れることを知った彼は誰も傷付いて欲しくはない為に師の言うことに背いてまで加勢、勇者とは違う道を歩んでいるのではないかと悩み始めるも、師は道は一つではないと教える。


 ロードは今、自分の進むべき道を見つけた。




 倒す為じゃなく魔王から人を助け守る道を歩いても、勇者になれるそれを師が証明したのだ。






 色合界、岩山地帯、二つの影が在る。大きな歩幅のガリョウに駆け足気味にロードが付いて行く。




 その世界に居る誰もが魔王が消えてひと段落ついたと思っていた。










 そのときだった。




 天を覆い尽くす不吉の暗雲に一筋の光が差した。そして、暗雲を刺した光は勢いよく広がり円の空間を作る。


 暗雲の中に開いた円、そこから漏れた光は色合界の天の光などではない。




 朱い光だ。










「「――――!?――――」」




 別々の場所に居たガリョウとヴィンセントが起きた異常事態に同時に気付いて、顔に緊張を走らせた。




 勇卵の城に居た子供達もその光を不思議そうに見る。




 岩山の地に居たロードも見る。










 不吉を呼び込む暗い暗い暗雲が朱い光によって円状に開かれ、中心に小さな人影があった。










 朱い少女がそこに居た。










 それは、その世界に呼び込まれた最後の不吉だ。


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