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第572話 勇者になる道は一つではない

「……生命の力……」






 遥か頭上、魔王ラジルバフアが一連のロードの行動を見て呟いた。


 そのとき、いくつかの光弾や光線がラジルバフアの身体に当たった。それは間違いなく空中でスモルパフア達と戦っていた城族の守兵団の攻撃だった。




「――ん!?」




 ラジルバフアがそちらの戦いに目を向けると、先程の攻撃が自分に直接向けられたものではないと知る。それはスモルパフア達が白い守兵達に押され始めた為に出来た隙間から光線の飛び火だった。


 数万体のスモルパフア達が半分にまで減っていた。




「もうこれ程に消耗したか、やはり我が――」




 そのとき遥か前方にある勇卵の城から大きな光線がラジルバフアに放たれた。とっさに色合界の地を大きな手で掴み盾として構えるが、先程よりも威力が上がっていたことに加え、盾として扱った色合界の地が脆かったことも合わさって、




「ぬううううああああああああああああ!」




 光線が色合界の地を打ち破りラジルバフアの身体の大半を消し飛ばした。










 その隙にガリョウはロードを連れて岩山の影に、ラジルバフアの見えない位置に隠れていた。




「ロード、今のうちにオレの生命力を持って行け、そうすればまた動けるようになる」


「えっ!?」


「出来る筈はずだ……」


「でも、そんなことしたら先生の生命力が無くなるんじゃ……」


「……オマエにオレの生命力を全て持って行くことが出来ると思うか?」


「……多分たぶん……出来ない」


「なら問題はない、やれ」




 ガリョウが手に持っていた赤い剣を地面に突き立てロードの前に片膝を突いて目線を出来るだけ合わせようとする。




「先生それで、どうやってやれば……」


「オレの手を取れ」




 ガリョウが手を差し出して、その大きな手をロードは両手で取った。




「基本は朝やっていたことと同じだ。それをオレの身体を通してやるだけでいい」




 ガリョウは大体の説明をはぶいたが、取り敢えずロードはやってみることにする。










 まずは目を閉じて深く深く深呼吸をするところから始め、気を落ち着かせる。これからやる事に集中する為、心を静めていく。




 次に自分の全身に意識を巡らせる。手から腕から肘から肩にかけ、首から顔から頭へと、戻って胸から背中から腹から腰から太ももから膝ひざから足からつま先まで意識を巡らせる。


 そうすると身体の重さが伝わって来て、心臓の鼓動が聞こえ、脈の動きを感じ取り、血の流れを感覚で捉とらえることが出来る。そうして自分が今生きていることを、少なからずある生命力が自分を生かしていることを実感する。




 全てが自分の生命力。




 その生命力を感じ取った状態のままを維持し続け、ロードは次に進む。ここから先は今までやってきたこととは違うので、




「次はオレの手に意識を通してみろ」




 そこまで来たと知ったガリョウが口頭で答える。


 ロードは目を閉じて無言のまま、言われた通り自分の手からガリョウの手に意識を向けてみる。


 するとガリョウの手から脈の動き、血の流れ、心臓の鼓動、身体の重さが伝わって来る。ロードはガリョウの生命力を感じ取ったのだ。




「オレの生命力を感じたのなら、何となくでいい、自分の生命力を使って掴んでみろ」




 ロードが言われたことをしようとして手に生命力を集中させると光が放たれる。その光を使ってガリョウに流れる生命力を捉え掴んだ。




「出来たなら、飲むように持って行け。体力が十分に回復するまでにな」




 ロードがガリョウの生命力を手に通して吸い取ると、




(――ッ!?)




 ロードが身体を一瞬、びくつかせた。




「どうした……」


「先生、なんか身体が熱い」




「ああ、そりゃ他人の生命力だ。普段と違う感覚が流れ込んでいるだろーが、気にするな。その内馴染んで自分の生命力になるだろう」


「は、はい」




 ロードは身体が熱くなるのを気にせず、ガリョウの生命力を吸い取るが、代わりに顔が真っ赤になっていく。




(凄い……これが先生の生命力……体中を何かが暴れるように動き回って、自分が大きく強くなっていくような気分だ)




 その何かをロードは竜としてイメージさせた。そうしてガリョウの生命力を吸い取っていく、始めてのことなので時間がかかるみたいだった。




「……ロード、さっきオマエはあの魔物、スモルパフアを倒したな。アレと同じやつをデカイのが出る前に倒したか?」




「――!――ご、ごめんなさい! やっぱりオレが魔物を倒したせいで、こんなことに」


「もういい、そんなことは気にするな……それよりどうして生命の力を使えた、オマエはあの力を恐れていたはずだ」




「…………あの魔物にムドウがやられそうになったから、他に武器がなくて使うしかなかった」




「なるほど、火事場の馬鹿力か……」


「うん」




「では、ここへ戻って来たのは何故だ。オマエがあの力を使えるようになったからと言って、それだけで魔王を倒せると思うほど馬鹿ではないはずだ……」


「…………先生の助けになりたかったんだ」




「ふっ、なるほど、オレが情けないところを見せたせいか」




 ガリョウが鼻で笑って軽く言った。




「……先生」


「なんだ」


「……勇者とは違うのかもしれないけど、これは戦いから逃げているのかもしれないけど……」


「……言ってみろ」




「…………人を助ける為になら剣を振れる。人を傷付ける為に剣は振りたくない」




「だからなんだ?」




「だから、それでも、勇者になってたくさんの人を助けたい」




「…………それは勇者になる以前の話だ。人と戦うことを恐れているだけのただの逃避だと言ったはずだ。それではアイツらと同じような勇者にはなれない」




「…………」




「だが、ロード、勇者になる道は一つだけじゃない」




「えっ?」




 ロードは驚いた。まさか勇者の心得を教えて来た本人が言うのだから。




「先生、それってどういうこと」




「ロード、勇者とは?」




「どんな恐ろしい魔物を前にしても道を切り開く勇ましき者」




「そうだ。だから魔物を倒したオマエには教えておこう……勇者の心得、その意味を」


「意味?」




「デカイ目の魔物が居ただろ……アレは勇者となったオマエ達が戦う魔物の中の魔物の王」


「魔王」




「そうだ、そして勇者とは、どんな恐ろしい魔物を前にしても道を切り開く勇ましき者のこと。それはアレに対しても例外ではない。だがこの心得は実際はただの建前だ」


「えっ」




「オレがそれを普段から言い聞かせてきたのは、奴らとの戦いの中でその心得をオマエ達が口にすることで絶望的な状況でも動けようになる原動力とする為だ……オレがさっき声を上げただけで、オマエ達二人を奴の威圧感から解放したときのように」




「でも勇者は魔物と戦う者に変わりない……」




「戦って倒せるならいいが中には強敵だっている。そういうときは逃げることも必要になるオマエ達が魔王に倒されてしまえば奴らと戦う者が居なくなるんだ」




「そっか」




「だが、それでも魔王達と戦い続ける限り勇者だ。そしてロード、オマエの言う通り勇者は人と戦う為にいる訳ではない。戦えずとも勇者にはなれる」




「それって」




「オマエが進みたい道を行くことで誰かの目に勇ましき者と写ればそれはもう勇者だ……」




「……オレが進みたい道……」




 ロードはここへ迷ず来た。今ここにいるのはそう言う事。誰かを助けるの道を行く。




「ロード、生命力はもういいか?」


「あ、うん!」




「よし、なら見せてやろう……オレが進む道を」



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