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第571話 駆けつける少年ロード

 色合界は暗雲の魔王ラジルバフアに覆われていた。


 勇卵の城は金色の殻に守られ、空中では、スモルパフア万兵団と城族の守兵団の戦いが起きている。


 そしてガリョウはラジルバフアの暗雲の身体に取り込まれ、全方向からの暗雲の鈍器によって滅多打ちにされていた。










 色合界・ガークスボッデン、長く大きな橋の遥か下に鋼鉄の川が流れる。ロードとムドウは橋の上を走って勇卵の城を目指していた。




「……………………」




 ふと、ロードが立ち止まって振り返り、ガリョウとラジルバフアの戦っている方角を見た。




「――ロード !?」




 橋を渡り切ったムドウが、橋の上に取り残されていたロードに気付いた。


 ロードが魔王の方を見て立ち止まっている。




「待て! 戻る気か!?」




 ムドウはそう直感した。




「……先生が魔王に取り込まれた」




 不安の色を濃くしたロードが言った。




「先生なら大丈夫だ、負けやしない」




「オレもそう思うけど……」


「キミが行って何になるんだ! あんなのと戦えないだろ! 先生の邪魔になるだけだ、言われた通り城に戻ろう!」




 ムドウがロードを連れ戻そうと橋に行こうとすると、




「――ッ!?」




 その真上からロードとムドウの間に割って入るように橋の表面を赤い風が焼いた。色合界のどこかの地によっての影響だったが、暗雲の巨人が居る以上何が起きても不思議ではない。幸い橋は崩れず、ムドウも間一髪後ろに下がってこれを回避した。




「…………ロ、ロード! ここは危険だ早くこっちに!」


「ごめん、ムドウ、オレ行くよ」




 ロードは既に決めていた。




「――なんだって!?」


「あそこにいるのは、オレ達、勇者が戦わなくちゃいけない敵、魔王なんだ……あれから逃げちゃいけないんだ」




 そのとき、空中で戦っていた城族の守兵の剣が、その求めに応じるかのように上から落ちて来てロード目の前に突き刺さった。その剣をロードはもちろん引き抜いて手にした。その目が魔王を見据える。




「ロード聞いてくれ、私達はまだ勇者じゃない無理に戦う必要はないんだ。あんなとてつもない魔王を前にしたら道を引き返すのが私達、勇者の卵なんだ」




「…………ムドウが言うなら、きっとそうなんだろうな……勇者でもないオレがこの道を進んだらいけない。進んだらきっと卵が割れて勇者にはなれないかもしれない……でも、さっきムドウを助けられたとき、わかったんだ……あのときオレはムドウに居なくなって欲しくなくて剣を振った。それは魔物を倒す為じゃなくてムドウを守る為だったんだ……だからオレは誰にも、先生にも居なくなって欲しくないんだ」




「……ロード、でもそれは」




「うん、それは勇者じゃなくても誰にでも出来る、けど、オレはそれがしたい……先生を助けに行きたい……だから、この道を行くんだ」




 この道を行く、その決意と共にロードは走り出した。魔王を倒す為に来た道を引き返すのではなく、ガリョウを助ける為にその進むべき道を行く。




「――ロード!」




 ムドウは叫んで、魔王の方へ走るロードを連れ戻そうと、急いで橋に引き返して追いかけるが、




「――ッ!?――」




 上から大きな岩が降って来て橋に激突した。




「――ムドウ!」




 後ろに気付いたロードが友人の安否を気に掛けた。




「ロード、も、戻ってくるんだ、キミならこの距離なんてことはないだろ!」




 ムドウは無事だった。しかし、橋はロードとムドウの丁度、中間に位置するところに直撃し、崩れていた。ロードならば飛び越えられない距離ではないらしい。




「………………」




 しかしロードは、ムドウの言うことは聞かずその身体に怪我が無いことを確認すると、ガリョウを助ける道を進んで行く。




「ロード! ロード! ロッ――!?」




 ムドウが叫ぶ中、足場の橋は脆くなっていた為に崩れて、




「うわぁぁぁっ!」




 崩れる橋と共にムドウが落ちて行く。下まで何百メートルも続いている為、流石に鋼鉄の川に激突すれば死は間逃れられない。しかし、どうすることも出来ずムドウはただ落ちて行くだけだった。




「――うっ!?」




 その落ちて行くムドウを、白い何かが飛ん出来て攫って、もとい助けた。


 それは光りの翼を広げて飛んでいた城族の守兵の一体だった。ムドウを助けて、迷うことなく勇卵の城に向かう、十人の子供達を安全な場所に帰す役目が最優先だったからだ。




「ま、待ってくれ! まだロードがいるんだ! 戻ってくれ!」




 ムドウがロードの居る方角を指差し、叫ぶが、生憎くと守兵には声を聞く器官は無いのでムドウの意図は汲み取れない。


 ムドウを抱えた守兵が空高く飛ぶ、それに気付いたスモルパフア達が後を追うが、別の守兵達がムドウを抱える守兵を逃す為に前に立ちはだかる。




「ロード! ロード! ロードォ!」




 ムドウの声が虚しく暗雲の空に響く。










 魔王ラジルバフアは自らの体内にガリョウを閉じ込め、身体の内にある暗雲で鈍器を形成し全方向から滅多打ちにしていた。




「――ぬっ!? ぬおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」




 前のめりに身構えてガリョウを閉じ込めていたラジルバフアの巨大な目から赤い何かが突き抜けた。


 それは暗雲の鈍器に滅多打ちにされていたはずのガリョウだった。体内に閉じ込められていた彼は鈍器の嵐の中をひたすら突き進んで脱出を試み、成功したのだ。


 空中に勢い良く飛び出したガリョウは落下して行き――色合界の鋭利な岩山の地――に激突げきとつ! 盛大に土煙を上げた。




「モアーー」「モアッ!」「モ、モア」「モアー」




 巨大な目の傷口から、血が噴ふき出すように暗雲を天に昇らせるラジルバフアの元にスモルパフア達が心配して側に来る。




「何を取り乱している。行け! 行って奴らをオマエ達の数で覆い尽くせ!」




 暗雲の身体を持つラジルバフアには、その程度の傷は問題ではないので直ぐに治った。




「……ふん」




 赤い剣を握り締めたままのガリョウが起き上がって魔王ラジルバフアを睨みつけた。その立ち姿は、暗雲の鈍器に滅多打ちにされようとも、地面に激突しようとも、揺らぐことなくしっかりと大地を踏みしめている。




「モアアアアアアアアアアアアアアア」




 スモルパフア達がガリョウを全方向から囲むように押し寄せる。


 一方ガリョウはその場から動かずに大きく息を吸い込み、




「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」




 大きな雄叫びを上げ、全方向から来るスモルパフア達を吹き飛ばし、更に赤い剣を無造作に振り回すことで生まれる斬撃の嵐が、スモルパフア達を消し飛ばす。そしてガリョウは地面を強く蹴って飛び上がる。




「ウオオオオオオオオオオオオオ!」




 ガリョウが宙を飛ぶスモルパフアに飛び乗って踏み砕き、そこから高く飛び上がって何体か両断し、落下を防ぐため、スモルパフアを足場にして歩くと同時に連続して踏み砕き、集団で固まっていたところは豪快な斬撃で消し飛ばした。




「ハア!」




 そこにラジルバフアの暗雲の拳がガリョウに向けて振り下ろされる。宙を飛ぶガリョウはスモルパフアを蹴って回避を試みるが、そのあまりに大きい拳からは逃げられず――直撃! そのまま殴り飛ばされて勢いよく岩山の谷間を通過し撃墜して行くも、地面に両足を押し付けて飛ばされて行く勢いを殺し踏み止まる。




「くっ、古傷には利きやがるか……」




 暗雲の拳の一撃に流石さすがのガリョウも片膝を突いて呟いた。




「モアアアアアアアアアアアアアアア!」




 間髪容れずスモルパフアの一体がガリョウに接近して行く。無駄とわかっていても狙いはもちろんその命。




 ――ズガン! 何者かが跳躍して、迫るスモルパフアの顔面を蹴り飛ばした。ガリョウではない。




「モアッ」




 スモルパフアが地面に激突した。何者かは地面に着地してガリョウに駆け寄る。




「先生! 大丈夫ですか!?」


「ロード!? まだこんなところに居たのか!? さっさと城に戻れ!」




 ロードの姿を見て驚いたガリョウが言った。




「でも、先生一人じゃ……」


「モアアーーーーーーーー」




 ロードに蹴られたスモルパフアが起き上がり暗雲の魔王に繋がれた身体を引いて二人に向かって行く。




「アレはオレが、先生は魔王を倒す為に力を温存して」




 ロードは両手に剣を構かまえて、自分の力を、生命力を込める。


 すると、剣から眩しいほどに輝く光りが放たれ、大きな剣の形に伸びる。




「ロード、オマエ……克服したのか」




 ガリョウは向かって来るスモルパフアよりもロードの光の剣に目を奪われていた。その出現した意味を理解してこの状況の打破を任せる。




「モアアアアア!」


「………………」




 スモルパフアがロードの真正面から光の剣に構わず突撃して、ロードはそれを静かに剣を振り被かぶり、下ろすタイミングを見極める為に集中する。そしてロードの間合いにスモルパフアが入ると、




 ――ズバン! 真上から振り下ろされた光の剣がスモルパフアを両断した。




「モッアアアアアアアアアアアアアア!」




 両断されたスモルパフアが断末魔を上げながら霧散した。




「よし、やっ……」




 ――ドサッ! 振り下ろした剣から光が消えた瞬間、ロードは全身から力が抜けて前に倒れた。




「あれ? 身体が重い……」




 うつ伏せになったロードは上手く動けなくなっていた。




「バカヤロー! 生命の力を放てば、その分の力が身体から無くなると教えたはずだ! 動けなくなってどうする!」


「そ、そうだったっけ……」




 ロードは力を消耗し動きが鈍くなりながらも、何とか腕を立て自力で起き上がろうとする。


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