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第566話 苦しむ友を前にして

 色合界・ガークスボッデン・積台地帯。


 今ロードの目の前には、大きな一つ目の魔物がいた。じっとロードを見たまま止まっている。




「オマエ……本物の魔物か……」




 ロードがその魔物に対して聞いた。だが返事はない。




「ロードに近づくなぁ!」




 ムドウが人間大の長い石を抱えて走って来る。見た目ほど重くはないがその先端は僅かに尖っている。突き刺させるほどではない。




「モアーー」




 魔物がその声がする方に目を向けて、ムドウの抱える長い石の先を掴み取る。


 そして勢いよく長い石を振って、ムドウを地面に叩きつけようとしたが、その途中、ムドウは長い石から身体を離して空中に投げ出された状態から背負っていた弓を持って矢をつがえて放った。


 しかし、魔物には通じなかったようで、ムドウは空中からの着地と同時に魔物が振るった長い石に殴り飛ばされた。数十メートル先の高台たかだいに激突していく。




「ムドウ!」




 思わずロードが叫さけぶ。しかし座り込んだまま立ち上がれなかった。




「モアァーーーー」


「!?」




 魔物がムドウの方に向かって歩いて行くのをロードが見て焦る。




「ムドウ! 逃にげろ! 立って逃げろ!」




 その声を聞いたムドウは倒れた身体を起こし、フラつきながらも魔物から離れる為に歩き始めた。




「うっ……くう……」




 ムドウは痛む身体を抑え、引きずりながらも歩く。徐々にその足取りは速くなる。


 それを歩いて追っていた魔物は、手に掴つかんでいた長い石を、逃亡者に向かって投げた。




「――うあっ」




 石は地面を抉りながら進み、ムドウと接触その身体を弾はじき飛ばした。ムドウが倒れ伏す。


 魔物がムドウに着実に近づいて行く。




「待て! 魔物待て!」




 ロードが魔物に追い付こうと無理に立ち上がろうとしたが、また地に両手と膝を付け倒れる。なかなかにダメージは深いらしい。だが、もう一度、気をしっかり持てば、歩けないほどではない。




「!?」




 しかし、ロードは倒れた瞬間に気が付いた。その手を見て、正確にはその手が握にぎっている物を見て気が付いた。それは魔物との戦いで炭化した剣。




 刀身の無くなった柄のみの剣だった。これでは戦えない。




(武器! 何か武器になりそうな物!)




 ロードはそう考えて辺りに目を向けて探さがして見るが、折れた矢か掴めるほどの大きさの石くらい見当たらない、この積台地帯はそれほどに何もない。ムドウが拾ってきた長い石のような物はなかなか見つからない。




「――!!――」




 そこでロードは、思い出す。握り締めたままの柄を思い出す。刀身の無いそれを見て、出来ることを思い出す。




(生命の力なら……アレを、あのときみたいに出せたなら……)




 ロードは手に持った柄を見て決断する寸前だったが、判断を鈍らせた。




 自分の手が赤く見えたのだ。




(いやダメだ!……ムドウに傷を負わせたんだ……アレは人を殺す力だ……オレはもう二度と……)




 首を振ってロードは別の方法を考えようとした矢先、




「うああああああっ!!」




 魔物に追いつかれ、その手に捕えられたムドウが叫び声を上げていた。




「モアァーーーーーー」




 魔物がムドウを握り締めている手に力を入れていく。




「ムドウ!」




 ロードは結局武器も見つけられず、ムドウの元へ急行する。




「ゆう……しゃとは……」




 魔物の手に顔以外の全身を握り締められながら、ムドウが声をなんとか振り絞って口に出す。




「どんなに恐ろしい魔物を前にしても……道を切り開く……勇ましき者!」




 言い聞かせるように勇者の心得を口にし、最後の一文と同時にムドウは魔物に締め上げられながらも、持っていた剣を魔物の腕になんとか突き刺した。まさしく恐ろしい魔物を前に道を切り開かん者の姿だっただろう。


 しかし、その魔物の腕からは確かにムドウの持つ剣が突き出しているが、手の力を緩めることはなかった。それどころか、やはり傷口から煙が噴き出し、刀身を炭化させた。




「うああああああああ!!」


「モアアアアアアアアッ!」




 魔物の手がさらにきつく締まるムドウを潰すと言わんばかりの力を入れていく。


 その魔物の手に石が当たる。次に身体に頭に当たる。




「こっちだ! 魔物こっちだ!」




 ロードが痛む身体に耐えながらムドウは助ける為、魔物の注意を引こうとする。しかし魔物は大きな目も動かさずムドウを締め続ける。




(くっ! もう使うしかない! アレをもう一度!)




 ロードは決断した。過去に何があろうとも使えるものは使うべきだ。


 その両手で刀身の無い剣を前に突つき出し、目の前の魔物を倒す為、それを今、




「――!?――」




 自分の両手が赤く見えた。




 そして何故だか涙が溢れた。あの日の光景が、自分の勢いだけの行動から目を覚まさせる。




(バカ……ムドウが近くに居るんだ……巻まき込まれるだろ……何を考えて……)




 剣を持つ手が震え始めた。




「ああぐううううう!」




 ムドウが魔物の締めつけに耐えながらも声を押し殺す。




(いや使うんだ!!)




 再びロードは刀身の無い剣を魔物に向かって構えるが、気がつくと全身が震えて次の行動を起こせなくなっていた。




「くっ……なんで……」




 使おうとしても使えない。ムドウが視界に入ったからだ。




「ああああっ! ……ああ……ああ……………………………」






 そこでムドウの声が止まってしまった。






「…………………………ムドウ……ムドウ!……ムドウ!」




 返事はない。


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