第565話 迫り来る暗い本物の魔物
「モアーーーー!」
一方魔物はその飛び出しに、正確に拳を当てさせようとロードの移動速度を考え、最適な位置を拳で狙う。
が、ロードはその一歩前に行く寸前、かかとで進行を止め、まるで魔物の攻撃を読んでいたかのように、拳擦れ擦れの位置で回避、ついでに持っていた剣で魔物の腕を斬る。
しかし魔物はその腕を斬られながらも、前に向かってロードに突進する。
それをロードは上に飛んで躱し、魔物はロードの下を通り過ぎる。
そう見えたが、その魔物は尻尾を使って頭上を通るロードを叩きつけようと逃げ場のない空中を狙う。
なのでロードは剣を魔物の頭に突き刺し、それ以上の進行を止めて、ついでに足で思いっきり魔物を踏ふみつけて、地面に顔から倒れ伏せさせる。
僅わずか、三秒ほどの出来ごとだった。
頭を刺したロードが勝負を制したはずだった。あとは両手で力を加えるだけ、それだけで魔物の頭や顔を切り裂けるはずだった。
「――!?――」
剣を突き刺したその魔物の傷口から、暗い煙が噴き出したのをロードが見た瞬間、その剣を抜いてその場から飛んで離なれた。
「 ! 」
ロードの持っていた剣、その剣先が欠けていた。それは先程、魔物の頭部を突き刺した長さと丁度同じくらいだった。
ムドウもその現象を見て、訝しむ。
「モアーーーー!」
魔物がその大きな目でロードを見据えたまま殴りかかって行く。
ロードは左からの拳を下がって、その後から――本命だったのだろう――右から大きく振るわれた拳を上に後転するように飛んで回避、魔物から離れた。
(いくらなんでもやり過ぎじゃないか? あの魔物……戦い方が今までの魔物と全然違う……それに剣が炭化したのか?……ロードの武器は一本だけ、あれがなくなったら戦えないぞ……)
ムドウは、魔物の攻撃を躱し続けるロードを見ながら思考を巡らす。
(それで追撃までしてくるのは、流石に厳しすぎやしないか?)
ムドウが冷静に、ヴィンセントが作り出したであろう、その魔物を放った意図を考える。
すると、魔物の全身から何やら暗い蒸気に似た何かが噴き出すのが見える。
(ん? 煙が傷口から出て……!)
ムドウは気付いて、そこから先は声に出す。
「ロード離れろ! 傷口から煙が来るぞ!」
ムドウがそう言った瞬間、
「モアーーーーーーーーー!」
その煙は一気に魔物の全身の傷口から放出される。
「――!?――」
間近で戦っていたロードが遅れて知るが、放出された煙に包まれた。そしてロードの持っていた剣、その刀身が煙に触れると、剣は炭化するように崩れた。
その剣が崩れていく様に気を取られたロードは、それが隙になった。魔物が一気に間合いを詰めてきて、正面からロードを殴りにかかる。
それに気づいたロードが地面を軽く蹴って後ろへ飛ぼうとするが、間に合わない。
魔物のハンマーのような拳が、ロードに直撃した。
そのまま飛ばされ、数十メートル後ろの小さな高台に背中から激突する。
「ぐっ……!」
ロードはダメージを受け倒れそうになるも、すぐさま魔物の居いた方を見る。
案の定、こちらに向かって魔物がハンマーのような両手を振り被りながら、突撃して来るのが見える。
ロードはその位置から動いて魔物の攻撃を避ける。魔物の両手の攻撃はロードの背後にあった高台に直撃し、その一部を砕くだいた。
対してロードは避けたまでは良かったのだが、
「――!――」
進行方向に高台があった為に、思いっきり頭を――ゴン!――とぶつけた。
「うっ!」
ロードは額の痛みで出血したのが分かった。しかし休む暇はない。すぐ背後で魔物がハンマーのような拳を振り被っていたからだ。
そのとき、ムドウが持ってきていた弓で矢を放ったが、その大きな目にはしっかりと見えていたのだろう、矢に視線を向けず避けた。
(視野も広い、まさかコイツ……!)
ムドウはそれでも矢を放ちながらロードの方に向かうが、
「――ロード!――避け――」
そして魔物のハンマーのような拳が、目の前に居たロードを背後の高台ごと殴りつけた。
「モアアアアアアアアァァァァァ!」
魔物は拳が直撃したことを感じで叫さけんでいた。
攻撃を受けたロードの方は流石にその場に座り込んだ。そして実感した。
(わかった……ぞ……コイツ……)
息も絶え絶えに、頭から血を流すロードが思う。
そして二人がその魔物を改めて見て、確信する。
((コイツは……本物の魔物だ……))
「モアアアアァァァァァ…………」
魔物が叫ぶ中、その大きな目で ロードを正確に認識した途端叫ぶのをやめた。
その目が間近でロードを見つめる。
その魔物は何度か目を動かして確認する。本当にそれなのか、よく顔を見て、考えるように、思い出すように、
「?」
(そうだ、この魔物憶えてる。こいつが現れてからめちゃくちゃになったんだ)
青年のロードが思う。
ロードの方も息を整えながら、その魔物が何をしているのか考えてみるが、その大きな一つ目の魔物はすぐにこう言った。
「………………ミツケタ………………」




