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第562話 右手の約束を

「………………私は勘違いしていたよ……」




 ムドウはロードの悩みを理解した。




「キミは逃げていた訳ではなく、誰かが傷付くのが嫌だったんだね」




 ムドウは隣にいた友人の肩に手を回した。




「……それがロードの心の傷か」




 ムドウは優しく、その友人の身体を寄せて支える。




「!!」




 ロードは自分が今、何故泣いているのか気付かされた。




「キミも私と同じように深い傷を負ったのか」




 ムドウは左手で自分の上半身を撫で回し、あのときの傷を探す。




「確かに……あのときは痛かったよ……凄く凄く痛かった」




 ムドウは自分に与えられた傷の痛みを思い出す。




「でもさ……」




 左手を身体から離す。やはり探す意味はない。何故なら、




「その後……キミはすぐに、私の傷を癒しくれたじゃないか」




 ロードの顔のすぐ近くで、ムドウは笑顔を向けた。










 ムドウは今でも覚えている。


 薄れゆく意識の中、隣で大きな声を掛かけて何処かに行こうとする自分を呼び止める人と、すぐさま駆けつけて必死に自分の左手に縋りつくように、何を懇願するように、願っていた少年の温かい手を。


 ムドウはそういうことがあって、ここに命があるのだと、覚えている。










「それはキミの生命の力だった。だからキミは――」




 ムドウの顔を間近で見るロードは、まだ涙を流し続けている。




「絶対に私を救ったんだ」




 二人が座る崖の上を優しく風が吹き抜ける。




「そのとき私は確信したキミがいずれ……その力で何人も……いや、無限にいる人々を救う勇者になることを」




 目を閉じてムドウはその姿を想像する。




「だから私の、あの、もうなくなった身体の傷には意味があるんだ」




 ロードが顔を伏せる。まだ泣いている。




「そして次は私が、キミの心の傷を癒す番だ」




 その言葉を聞いてロードは友人に身体を預けた。その顔からは涙が止まっていた。




「ムドウ……オレは勇者になれるか? ……オマエを傷付けたオレでもなれるか?」




 ロードは優しい友人が何を言うか知りたかった。




「……そうキミが望めば必ず……」




 その言葉は優しく。まるでムドウの方が何かを決意けついしてるかのような強さがあった。




「…………」




 ロードの顔が少しだけほころび笑みを作った。










「そうだ……誓いをたてよう」


「ちかい?」




「昔、絵本で読んだんだ……そういう約束のたてかたが……世界のどこかであるらしい……やってみないか?」


「……よくわからない」




「簡単さ。教おしえるよ」




 ムドウが立ち上がって、ロードも立ち上がった。










 風の通しのいい、その高台でロードとムドウは向かい合って立っていた。


 お互、右手に剣を持ち、胸の前で突き立ている。左手はその鞘を持っている。




 二人が手に持った剣を上へ、丁度切っ先と切っ先を触ふれ合わせるようにして掲げて見せる。二人はその触れ合っている切っ先に目を向けている。




「剣の約束を今ここに――――我ら、剣に触れ結ばれた者へと宣言する」




 ムドウが高らかに宣言する。




「我、ムドウ、右手の剣と共に、その先に在る剣の使つかい手に誓う」




 掲げた剣を見つめながらムドウが真剣に宣言する。




「――貴公は必ず、輝かしい伝説の王道を歩んだ勇しき者になることを――」




 ムドウが目の前にいる友人がそうなる人であることを他でもないロード自身に宣言した。そこには、自分もそれに協力するという決意も秘られていた。




「…………………………」




 じぃ――――――――――とムドウが見ていることに気がついたロードは、自分の番になったことを知る。




「わ、我……ロード……右手の剣と共に、その先に在る……剣の使い手に誓う……」




 誓いの作法を覚えたばかりのロードは歯切れ悪く言う。




「――我は必ず、輝かしい伝説の王道を歩んだ勇しき者になることを――」




 それでもロードは最後まで言い切った。






 キンッ!!






 宣誓を終えた二人は触れ合っていた剣先を鳴らした。




 そしてお互い、左手の鞘を、自分の前で水平に構えて、相手に剣先を向けず右手の剣を納める。


 一連の動きには乱れもなく、流れるような品のある納め方だった。




「……どうだった?……」


「スゴイことが……起きそうな気がする」




 ロードが剣の約束に感動していた。




「ハハハハハ……起きるさ……だって、伝説になるんだからさ」




 ムドウは満足そうに笑っていた。










「さてそれじゃ……魔討訓練を再開しようか」




 ムドウが高台の崖の方へ歩いて行く。




「休憩はいいのか?」




 ロードも崖の方に歩いて行き、ムドウの隣に立つ。眼下は二○メートルほどあるだろう。




「ああ、充分さ…………ロードはここで見ててくれ。私もキミくらい強くなりたい。後でアドバイスを聞かせて欲しい」




 ムドウは崖から背せを向けて、ロードに目だけを向けて言った。


 何かの拍子で一歩足を踏み間違えれば、下へ真っ逆さまに落ちていく崖があるのにも関わらず。




「わかった見てる」




 対してロードはそれだけ言った。




「頼んだ」




 そしてムドウは目を閉じ、そのまま後ろへ、まるでベッドに倒れるかのように、落ちていく。その顔には笑みがある。




 落ちていくムドウの身体は、真っ直ぐに膝を曲まげない姿勢で、数度回転した後、崖を背に綺麗に両足を揃えて着地した。


 そして鞘から左手で剣を抜き駆け出す。とても素早い動きだ。




 ムドウの目の前に獣を人の形にした毛むくじゃらの魔物がいた。まずそれを倒す為に走って向かう。










 ロードは魔物と戦い始めた友人を崖の上から見守る。




「……オレも、もっと強くならないと……」




 自分の右手を見る。その手は赤くはない綺麗な手だ。その手を強くに握り締しめ、ロードはまだ遠い自分の道に思いを馳せる。


(そうだムドウはこういうヤツだった)


 青年ロードが思い出す。








 色合界・ガークスボッデン・積台地帯では、不吉をもたらす暗い影が歩いている。


 それは、その火が灯っている城に向かっていた。


 暗い影は確実に勇卵の城を目指していた。


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