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第559話 勇者とは?

「立て! ロード!」




 ガリョウがロードに近づきながら指示する。それを見たムドウは構えを解いて、ただその場でガリョウが離れるまで待機する。


 ロードは倒れた状態から、片膝を着いた姿勢になって立ち上がる。一瞬だけフラついたが大したことはない。




「ロード! 勇者とは!!」




 立ち上がったロードにガリョウは竜のように低く大きな声を響かせ問いかける。




「……どんなに恐おそろしい魔物を前にしても、道を切り開く勇しき者……」




 武器を両手に構え直したロードが、息を整えながら呟く。




「勇者とは……!!」




 まるで、目の前にいるロードの声が聞こえなかったように、ガリョウがもう一度問いかける。






「……どんなにおそろ――」




 ロードは先程よりも声量を上げて解答をしようとするが、






「――発声しろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」






 ガリョウの竜の咆哮のような声が修練場全体の空気を震わし、ロードの声を吹き飛ばした。


 激しく戦っていた他の子供達の動きまでも中断させる程の叱咤だ。


 皆がロードとガリョウに注目して、その場に静寂が訪ずれる。


 ロードが深呼吸して、




「どんなに恐ろしい魔物を前にしても、道を切り開く勇ましき者!!」




 力の許ゆるす限り、大きな声でロードは解答かいとうした。




「なら、オマエはなんだ!?」




 ロードの声の響きを受け、さらにガリョウが大きな低い声で問う。




「勇者のたま――」




 ロードが答える最中、






「――発声しろぉぉぉぉぉ!!」






 ガリョウがロードの小さな声を遮るように、竜の咆哮のような声が空気が震わせた。




「勇者の卵です!!」




 深呼吸してから、ロードは勢い任せな大きな声で言った。




「その勇者の卵がいつになったら剣を振る!」


「……けど先生! ムドウは人で、勇者は人と戦うためにいるわけじゃ……」




 ガリョウの言いたいことが何かを、ロードは理解して大きな声で話をしようとしたが、




「勘違いしてんじゃねーぞ! ロード! 勇者だろうがなんだろうが人と戦うことはある! しかも避けることの出来ない戦いが外の世界に行けばいくらでも起きる! ……ムドウはその時のためにオマエの練習相手になってんだ! ……他の奴もそうだ! 本気で立ち向かい、互いを高め合う! それが練習相手に対しての礼儀にもなる!」




 ガリョウは厳しく叱咤するも言葉は選えらんで理解させる為の努力をする。




「だがオマエのは、相手への気遣いでも優しさでもなんでもない! 人間が恐ろしいだけの、傷付けることが恐ろしいだけの、ただの逃避だ! むしろ相手に怪我を負わせるくらいやらなければ意味がない、実戦はこんなものではない! 魔物は得体のしれない戦法を使って来る! その為にここで準備しろ! 攻撃に手応えを覚え、怪我をしないように防御を覚えろ! 人間にも魔物にも通用する戦い方を編み出せ! ……それがこの模擬戦の意味だ!」




「………………」




 ロードは悔しいとも辛そうとも見える表情を浮かべた。それはガリョウに叱咤されたからではない。どうしても受け身以外の行動が取れないからだ。


 それでも剣をしっかりと握り締めたままだったのは、自分なりの応え方だった。




「魔王が人の形をしていたら、そうやって戦うことから逃るのか!」




 その言葉はロードの逃避の核心となっているものを掠めた。しかしそれよりも、




「逃げません!」




 ロードはその言葉だけは、即否定した。魔王という言葉に反応した為だ。




「ならばムドウに向かって見せろ! オマエのその意気込みに応える為ため、怪我をする覚悟は出来ている!」




 ガリョウに言われ、ロードはムドウの方を見てみると、真剣な顔つきで覚悟を決めている友人が、自分に向かって頷いた。ロードが来るのを剣を構えて待っている。




「………………」




 ロードがムドウを見つること数秒、剣を構えてみるも、しかし、思わずその友人から顔を背けてしまった。




「ばかやろぉーーーー!!」




 相手から目を背けたロードに対し、ガリョウは足元にあった木刀を掴むと、それを素早く振り、ロードが構えていた剣に当て、その身体ごとぶっ飛ばした。


 相手、すなわち敵から目を背けるという行為は――こういうことになる!――とその身体に教えたのだ。


 数十メートル飛んで、ロードの身体が修練場の隅にあった武器の山に突っ込んだ。いくつかの武器が辺りに飛散する。ロードに怪我はない。そんなに柔やわな鍛え方はしていない。




「ロード! そんなことで勇者になれると思うな! ……そこでコイツらの戦いを見て考えろ!」




 ガリョウがそう言う間に、ロードが武器の山から起き上がり顔を上げた。




「オマエ達! 何をしている! 続けろ!」




 ガリョウが、模擬戦を中断し、ただ呆然とそのやり取りを見ていた子供達に向かって叱咤しする。


 その声で、我に返った子供達は、今自分のやるべき事を思い出し――はい!――と思う大きな声で返事をして模擬戦を再開した。




「ムドウ……オマエの相手はオレがする……来い!」




 ガリョウが木製の武器を左手に持って、特に構えるわけでもなくムドウの前に立ち、厳しい表情で言った。




「は、はい……よろしくお願いします」




 ロードの方を見て心配そうな顔を浮かべていたムドウは、ガリョウの声を聞き返事をして、そちらに向いて律儀にお辞儀をした。


 左手に剣を持って真剣に覚悟を決めた表情でガリョウに向かって剣を打ち込む。




「勇者とは!」




 ガリョウが大きな声で問うと、




 ――どんな恐ろしい魔物を前にしても道を切り開く勇ましき者!!――




 子供達が一斉に大きな声で答えた。






 木製の武器と武器が打ち合う音が重なって、連続して修練場に響き渡る。






「逃げている……」




 武器の山で膝を抱えていたロードがポツリと呟いた。




「オレは勇者の道から……逃げているのか?」




 友人達の激しく戦う姿を見ながら呟く。




「でも……もう、あんなことは、起きてほしくないんだ……先生」


(あんなこと?)


 青年のロードが疑問に思う。




 その後、ロードは複雑な気持ちで、ただ黙って、その模擬戦を見続けた。


 そのロードの様子にガリョウは、一瞬だけ目を移し、ムドウの相手を続ける。


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