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第556話 授業風景

「では、最初は異世界学の話から……」




 黒い面によってハッキリ見える、宙に浮いた光る単語のような文字列を、指でなぞると、


 黒い面と机や椅子、子供達やヴィンセントを残のこして、






 教室全体が、広大な草原に変わった。






 天井は青空に、床は草原に、遠くには山や川が、風で回る風車の群むれが見える。鹿や羊などの動物もいるようだ。


 それは実物ではなく、単なる映像に過ぎず、実際にはそこは教室なのだが、そのあまりに鮮明な光景は、本物の草原を錯覚させた。




「勇者となったキミ達が最初にすることは、何をおいてもまず……キミ達の今暮くらす世界から別の世界へ移動だろう。そして世界はいくつもある。数億、数兆、それこそ無限と言える数で存在そんざいする。これを――無限大世界――という」




 空中にいくつか景色の映像が浮かぶ。どうやら別の世界のようだ。




「この無限にある世界はそれぞれ、法則、環境、生態、人種、文化、歴史、技術など、様々なことが違っていたり、似ていたりもする。それが異世界というものだ」




 ロードと子供達は、それらの景色を見ながら、ヴィンセントの話を聞く。




「キミ達がそうした別の世界へ行くとき、行く先の世界の知識がなくては、環境に適応出来ず、身体を壊してしまったり、命を落としてしまったりするかもしれない。……そうしたことを防ぐ為、事前に情報は収集しておくことを心がけてください……」




 子供達は各々の、頷いたり、適当に返事をした。




「異世界の例としては、やはりここの説明がいいかな」




 ヴィンセントがそう言うと、また光る単語のような文字列を指でなぞる。


 すると、広大な草原は消えて、円盤の床が、ヴィンセントと子供達、黒い面と机や椅子はそのままに、ある世界の上空に滞在したような錯覚を受けた。その光景はもちろん映像ではあるものの、誰一人臆することはない。


 円盤の真下には、金色の湖に聳え立つ白い城、子供達のよく知る勇卵の城があった。




 そこは様々な異質な景色が連続性も規則性もなく並べられた世界だった。




「色合界・ガークスボッデン、キミらもよく知る、ボク達が暮くらしてるこの世界は、ありとあらゆる自然、環境、地形、現象を一つの世界に無造作に詰つめ込こんだような世界だ……七色の宝石の山、炎が風のように走る谷、形を崩くずさない水の森もり、大波のように動く大地、帯のような霧が集まって花が咲く巨大な生け花ばな……それらの地は、隣接しながらも、影響し合うことなく区分くわけされている」




 ヴィンセントや子供達は上空から、何度見ても飽ることがない、その世界の景色を眺めながら授業をする。




「しかし、たしかに、一つの世界として構築の材料になっている…………このように見ると無限大世界も様々な世界が無限にあって構築されている一つの世界に考えられるかもしれないが、そこまで単純なものではない頭の片隅に留めておくように」




「先生ぇーまたどこか旅行に行きたい……スゴイところがいい」




 凄すさまじい光景に目を覚ましたヨルヤが提案した。




「その内ね、ヨルヤ」




 笑顔で流された。今は授業中なのだ。




「でも、この色合界・ガークスボッデンはさっき言った通り、多数の地がある。それはここが無限大世界の一種の災害だからだ。つまり、たくさんの異世界が衝突し合ったことで、津波や嵐のように自然発生し、様々な異世界の影響が混りあった結果、出来た。珍しい世界だ。災害故に数十年で消えてしまうため生命体は生まれないし、ボク達もそうなる前に立ち去るが、ここにいるだけで数万単位の世界を巡るに等しい体験が出来る…………そして数万もの特殊な環境は、キミ達の身体を強く育てるし、勇者となれば、あらゆる環境で戦いを求もとめられるから、その練習にもなる。これほど修練を積つむに相応しい場所をボクは他に知らない。それを経験出来るここは最高の修練場と言えるだろう…………なにせ、自然の脅威は魔物よりも遥に恐ろしい。何も知らずに飛び込めば戦いどころではなくなる……台風の中でいきなり戦えと言っても無茶な話だ……しかし、キミ達はその過酷と言える環境に対応する術を既に学んでいる。きっとここでの修練はキミ達にとって、誰にも手に出来ない大きな財産となるだろう」




 長い話を終えたヴィンセントはまた、単語の文字列を読むように指でなぞって、色合界・ガークスボッデンの景色を消し、今度は静かな木洩れ日び溢れる林に景色を変える。




「たしかに苦労した覚おぼえがあるが……今は昔ほどではないな」




 ふと、カイザルが呟く。




「オレは未だに砂嵐は無理だと思うが」




 つられてレールが、誰に言うでもなく声こえを漏もらす。




「火山とか氷山とかキツくね?」




 それら声がした方に向けてクラッカが言う。




「先生、文化の大きい異世界の話も聞きたい」




 ムドウが控えめに手を挙げて申しでた。




「ムドウ、町や催しものの話はまた今度にしよう」




 ヴィンセントはいつものように優しい口調で却下した。




「ロード、勇者になったら一緒に精霊の世界に……」




 ミハニーツが表情は崩さず、自信なさげに声をかけて途中で切った。




「ん?……ああ、行こうって約束か、覚えてるよ」




 ロードは、途中で切られたが、容易に察せられる話の内容に答えを返した。




「うん」




 それを聞いたミハニーツの表情が少し緩んだような気がした。




「先生ーミハニーツがロードを攫って家出しようとしてまーす」




 聞き耳を立てていた訳ではなく、距離的に聞こえていたファンタが、先程の一件の仕返しをするようヴィンセントに言った。本人のいる前でだったが、悪意があって言った訳ではない。ちょっとしたジョークのつもりで言ったのだ。




「勇者になったらです……何かいけませんか?」




 刺すような口調はヴィンセントというより挑戦してきたファンタに向けられたものだ。




「二人共、静かにしてくれ」




 二人の見えない戦いの間にいたサシャープがうんざりするように言った。




「サシャープの言う通りだ」




 もう一人、間に挟はさまれていたダイグランがしっかりと注意して言った。




 パンパンとヴィンセントが手を叩たたき、皆が静まると、




「まず、ありがとうダイグラン、サシャープ……それからミハニーツさん、質問に対しての答えは、キミ達が立派な勇者として旅立ったのなら、誰とどこへ行っても構かまわないよ……あとはファンタ、席を取られたことを根に持もってはいけないよ。彼女も明日は変わってくれるそうだ」




 ヴィンセントは順番に、誰に対してもきちんと、後にわだかまりにならないように気をつかって返答した。何故か席の件を知っていた。ここに来たときに、ファンタが立っていたので予想はつく。




「そうなのか?」




 先生の言葉を聞いたファンタがミハニーツに向いて聞く。




 ミハニーツは一度ロードを見てファンタの方を向いて、




「やっぱり明日だけはダメ……明後日にして……」




 先延しの提案だったが、その声はいつもの刺すような口調ではなく、お願いするような言い方だった。


 明日はロードにとって大事な話がある。どうしても聞き入れて欲ほしかったからだ。




「……まぁいいか……さっきは悪かったなミハニーツ」




 ミハニーツの切迫した願いとは裏腹にファンタは軽く了承した。


 ロードのもう片方に座れば解決する訳ではない。これは二人の問題なのだ。ちゃんと両者の間で納得させなければ、仲直りにはならない。




「……ありがとう……」




 聞き入れてもらったことに、何とか感謝出来た。


(仲直りできてよかった)


 青年ロードが思った。

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