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第554話 教室に集まる10人の子供たち

 広大な金色の湖に聳え立つ勇卵の城には、大きな銀の鐘がある。――学びの鐘――と呼ばれるものだ。城の上層部の方に取り付けられ、今はまだ鳴る時を待っている。






 城には、そこで暮す子供達が学ぶ為ための教室がある。


 黒い面がある壁を前方として、左の開放感溢れる窓から朝の光が差し、その向こうにバルコニーが見え、広い教室の後方は本棚や教材が埋め尽くし、右に扉がある。


 子供用の数人で使う机が前に二つ、間を空けて並べられ、三つずつ椅子が、その中間に位置する後ろにもう一つ机と四つの椅子が、合計、三つの机と十の椅子がある。


 ちょうど真上から円を描くように、卵のようなランタンが浮いて明かりを灯す。教室を暖める役割も持っている。






 少年ロードは後ろの席、窓側から二番目に座って、本を読んでいる。静かな教室を独り占めにして、しかし、それは複数の足音が教室に近づいて来ることよって、終わりを告げた。ざわざわとした話し声と共に、教室の扉が開かれる。


(誰か近づいてくるそれも複数か?)


 青年ロードが思う。



「……ん? ……なんだロードいるじゃないか……寝坊じゃなかったか」




 薄い紫髪の少年の声だ。




「だからさぁ……先生言ってただろ?……朝は先に食べたって……」




 桃色の髪の少女の声だ。




「……早く入ってくれ」




 背の高い少年の声だ。




 その勇卵の城でロードと共に暮らす九人の子供達がやって来たのだ。教室に子供達が続々と入って来る。各々が動きやすそうな服装にマントを羽織っている。彼等は皆十歳だ。




「おはようムドウ」


「ああ、おはよう」




 まず一人、ロードに挨拶を返して、その左隣の席を目指すのはムドウ。肩まで伸びた輝やく銀髪は、首の後ろ辺りで縛られ、前髪は顔の右半分を隠し、きめ細かい毛先が鋭さを持って気品を感じさせた。


 男とも女とも判別できない顔は、将来の美形を約束されているようで、幼いながら凛々しい目つきに金の瞳が綺麗だった。


 その人物からは、優雅と高貴さを感じさせた。


(ムドウ……そうだオレの親友だ)


 青年ロードが思い出す。



「私を起こさず、先に朝食を取ったのは、何故なんだ?……一緒に食べても良かったんだぞ……」




 涼しい声がロードの耳に滑すべり込む。




「別に理由はない……夜中に喉のどが渇かわいて起きただけなんだ」




 読んでいる本のページをめくりながら、平淡な声で言う。




「フーン……まぁいい、何を読んでいる?」




 席に腰こしを下ろしながら聞く。




「魔物大図鑑、虫魔編、第四部」




 またページをめくりながら平淡に言う。




「また朝からそんな気色の悪いものを。しかも第四部って、よく耐たえられるな。私は苦手だ、そういうの……」




 ムドウは席に着くと荷物から知恵の輪を取り出し、挑戦し始める。




「情け無いな。たかが虫などで。足が多いからなんだと言うんだ……」




 二人目、前の席に座り、会話に割って入ってきた少年はカイザル。オレンジ色の髪を刈かり上あげに、前髪が目にかかるくらい長い。愛想の欠片も無い顔は常に眉を釣つり上げ、眉間に皺を寄よせている。


 難しそうな表情と少々圧迫感のある口調は、おそらくガリョウ先生の影響だろう。


 腕を組んで座っている。


(思い出したカイザルだ!)


 青年ロードが思い出す。



「カイザルはキノコが苦手だっただろ?……」


「それは……馬鹿にしてるのか?……」




 その返しに、カイザルは睨んでみると、ムドウは横に首を振る。




「ボクには、キノコの克服はどうなったんだ? って質問に聞こえたけど……」


 三人目、席に着いて、カイザルの勘違いを冷めた口調で返す少年はサシャープ。その黄緑の髪は、サラサラと柔らかく伸び、毎日しっかりと手入れをされているのが窺える。色白とした童顔は品格を備え、どこか冷さめた表情は落ち着きの現れだ。


(サシャープ)


 青年ロードが思い出す。


「サシャープの言う通りだ……それに馬鹿にするような言い方は、オマエの方だったぞカイザル」

 

 四人目、同意したのは、子供達の中で飛び抜けて背の高い少年ダイグラン。焦がした茶色のような髪は短く、真ん中で分けられ額が強調されている。たくましそうな顔をしているが、優しそうな細い目と堅固な表情には、まだ幼さが残っている。


(ダイグランだ)


 青年ロードが思い出す。


「侮辱に聞こえたなら詫ようムドウ」




 友人の指摘してきにカイザルは、思い改めて言った。




「別にそうは取ってないさ……昨日今日の付き合いじゃないんだし……気にしなくていいよ」




 ムドウは余裕の笑みを浮かべながら言い、知恵の輪を外して置いた。次の輪に挑戦する。




 ――そのとき、前の席に着こうとしていたダイグランに、




「ダイグラン、オマエはデカイんだ……後ろ行けって……」




 五人目、友人に軽く投げるような声を放はなった少女はクラッカ。その桃色の長髪は、バサバサと乱れたり荒立ったりして腰まで伸び、首の後ろ辺りで二つに縛しばって、箒のようになっている。健康的な顔色には、元気と明るさが見て取れる。


 ツリ目にキツさがあるものの真まっ直すぐで無垢な瞳ひとみがそれを和やわらげる。


 がさつさが目立つものの全体的に動物のように可愛らしい少女だ。




「ん?……ああ、だな。すまんクラッカ」




 言われてダイグランは、荷物を持ち、自分のいつもの席へ向かう。


(クラッカ懐かしい)


 青年ロードが思い出す。



「まったく、イスに座ったときに気づかないか?……オマエ用のがあるってのに……」



 クラッカは、その空いた席に腰を下ろして、荷物の中にあった棒の付いたキャンディを、口に入れ噛かんで食べる。




「許してやれ、まだ寝ぼけているんだろう」




 冷めた口調のサシャープが本に目を通しながら言う。




「おはよう、レール」




 席に着こうと目の前に来た少年に対して、ロードが挨拶した。




「よぉ」




 六人目、キザったらしい返事と共に手を軽く上げた少年はレール。紫を白で薄めたような髪は肩まで伸び、顔にもかかって隙間から涼しい目が覗く。気取ったように細い顔つきを持っていた。歩くたびに髪が揺ゆれる様さまはポケットに手を入れる姿と合わさって格好良く見える。


(レールか)


 青年ロードが思い出す。



「……なぁ、ロード明日何があるか教えてやろうか?」




 席に着くなり、とっておきの情報でも持って来たような口振りで、レールは話しかける。




「ヴィンセント先生が、オレ達の故郷の話をしてくれるんじゃないのか?」




 ロードは、本に目を泳がせながら解答した。




「なんだ……知ってたか……」




 驚く顔か、喜ぶ顔を、話す前に期待していたレールは、ガッカリしたように、机に肘をついて顔を支えた。




「だからさぁ……ロードにも話したって先生言ってたろ」




 キャンディを食べながら呆れたようにクラッカが教える。




「あぁー……あぁー」


「おはよう、ヨルヤ」




 ロードは自分の前を、眠たそうに、だらしなく腕を揺らして歩いていた少年に挨拶をした。




「んぅ?……はよ……あぁー……あぁー」




 七人目、適当に返事をしてまた呻きだし、窓際の席に向かった少年はヨルヤ。短くきめ細かい毛先に、夜中のように深い青い髪が印象的だ。砂漠で焼いたような褐色の肌に、本来の緩く気品と余裕のある顔は、今は気怠そうな表情をしていた。




「……あぁー……ねむぅ……」




 ヨルヤは、席に着くなり顔を寝かせた。窓から光が差す席を選んだのは、単純に外に近い方が好きだったからだ。


(ヨルヤか……いつも眠そうにしていたな)


 青年ロードが思いをはせる。


「やぁロード……オマエの持って来てくれたこの本、参考になったよ、ありがとう」




 八人目、荷物の中から二冊の本を取り出し、ロードに渡した少年はファンタ。少し乱れてオシャレな短い茶髪に、引き締しまった顔はどこか緩ゆるく、誰にでも友好的に見える明るい表情だ。




「それはよかったファンタ……」


(ファンタか)


 青年ロードは思い出す。



 ロードは読んでいた本を閉じて、二冊の本を受け取った。




「……何の本だ?」




 既すでに知恵の輪をいくつも外して、今度は全てをめちゃくちゃに繋ぎ始めたムドウが聞いた。




「えっと、剣技の習得法と、来て素人!! 双剣使手教えます、だ」




 表紙を見せてから、ロードは本を荷物袋に仕舞しまい込んだ。




「……ロード、隣り空いて――おぉ!?」




 ファンタはロードの右隣の席に座る為、一応、確認しようとしたが、横から滑り込むように少女が座った。




「ロード、隣に座すわるね……」




 九人目、肩にかけた荷物を下ろしながら、ロードの右隣りに座った少女はミハニーツ。美しい黒髪が清楚さを持って肩まで伸び、前髪が綺麗に切り揃そろえられ、後頭部には大きな黄色いリボンを付けている。整った凛々しい顔に、座る姿はとても姿勢しせいが良い。麗しい乙女になるだろう未来が約束されていた。




「お、おはよう、ミハニーツ……」




 ロードはとりあえず挨拶をし、不満そうに、立ち尽くすファンタの方を見た。




「おはよう」




 一方、ミハニーツはそんなことは気にせず、ロードに対して、蜜のように甘い声で返した。


(アレが9年前のミハニーツ、うん、だんだん思い出してきた)

 

 青年ロードが10人の子供を思い出した。


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