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第51話 許そう

 カリフ王と兵士たちは少し離れ、竜とは一対一で話しをする。

 

「名前はあるか? オレはロードっていうんだ」

 

「名前……そのようなものはない」


赤い竜はそう言った。

 

「そうか、じゃあ何て呼ぼうか……まぁいい、ところでお前は本物の竜なんだよな?」

 

「ああ、そうだ、ただの渡り竜だが、お前たちからすれば伝説の竜だろうな」

 

「そうか、本当にいたんだなぁ……竜」

(おっと! 話だ!)

 

「お前はどこから来たんだ?」

 

「……伝わるか分からないが、こことは異なる世界だ」

 

「? かなり遠い国から来たってことか?」

 

「違う。この世界、お前たちが今住んでいるこの世界とは異なる世界から来た。世に言う無限大世界の向こうから渡ってきた」

 

(? 何を言ってるかわからない)

「……それでお前はこんなことをするためにここに来たのか?」

 

「……違う。」

 

「じゃあ、どうしてこんなことに」

 

「わからない」

 

「えっ?」

 

「済まない、苦しみと痛みと戦い続け、思い出そうにも頭が混乱する。とりあえず聞かれたことに答えよう」

 

「わかった。じゃあ、お前が暴れていた原因はこの剣にあるのか?」

 

「そうだ、その剣から出た黒い靄がこの身を包み、我は正気を失っていった覚えがある」

 

「そういえば、竜だから浅く刺さってたんだろうけど傷は大丈夫か?」

 

「何ともない」

 

「そうか…………で、この剣は一体何なんだ?」

 

「剣に関しては思い出せないが、誰かに刺されたのは確かだ」

 

「誰か?」

 

「誰かと戦っていた。その時に刺された。だが、よく思い出せん」

 

「この剣のせいで暴れていて、お前はそれを何とかして抑えようとしていたんだな?」

 

「ああ」

 

「けど……竜殺しの剣をオレに持って来いと言ってたけど?」

 

「近くの山に忌々しいが竜殺しの剣があることは分かっていた。我らの天敵だ、本能がそれを知らせてくる。そして竜殺しの剣を持てる者は、竜を前にしても逃げることのない心の強さを持つ者だけだ。あのとき我は微かな正気の中、お前を見て、何とか言葉にしてあの場から去った。剣を手にするのは誰でもよかった。だが、本当に竜殺しの剣を携えられるものが見つかるとは思ってなかった」

 

「やっぱり、そういう意味だったのか。けど、黒い剣を引き抜けば済む話だったじゃないか。どうして自分を倒せと言ったんだ。助けてくれと言ってくれれば……」

 

「助けるよりも倒してしまうほうが簡単だからだ」

 

「そんな……いや、難しかったけど」

 

「我はここに暮らす者たちに、この場にいる者たちに、償い切れないことをしたはずだ。そんな者たちに助けを求めるなど虫のいい話ではないか? ならば、悪の竜として命を散らせた方が少しは気も晴れて償いになるかと思ったのだ」

 

「嫌な考え方するなよ……」

 

「!?」

 

「もう少しでオレはお前の命を奪うところだったんだ。オレも皆も誰かが犠牲になる間違った道に進むところだったんだ……」

 

 一滴の涙が頬を伝ってしまった。

 

「そうか、命を奪わせる酷い役回りを押し付けたのか。それはすまなかった。お前の言う通り間違っていた。なんとか他の者に危害は加えない様に努力したが、この惨状ではそうもいくまいな…………」

 

「いや、命を落とした者はいなかった。安心してくれ」

 

「そうか、我は剣による支配に抗えたか」

 

 竜から、表情には出てこない嬉しさを感じた。

 

「もう、身体がおかしくなることはないんだよな?」

 

「ああ、もう暴れることはない。お前のおかげだ礼を言う」

 

「うん……お前は悪い竜じゃないのはわかった」

 

(もう、十分わかった)

(あとは)

(カリフ王を呼ばないと……)

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

 もう一度、カリフ王たちに竜の前に集まってもらった。

 

「皆に納得させる言葉を言ってほしい。彼ら、ここに住んでいたレオリカンの民たちに」

 

「わかった……レオリカンの民たちよ、まずは詫びよう。皆の国をこのような有様にしてしまったことに対して、このような争いごとを生み出してしまったことに対して、わざとではないにせよ恐怖を植え付けてしまったことに対して深くここに詫びよう。我がこの度しでかした悪行の数々は許されざるものではないであろうが、これ以上皆に迷惑をかけることはないと約束しよう。本当にすまなっかった」

 

「聞いての通りです。カリフ王、衛兵の皆さん……竜に悪意はありません。すべてはこの悪しき剣によるもの、これ以上の糾弾に意味はありません」

 

 兵士たちはそれぞれ顔を見合わせる。

 

「皆で竜を許してあげましょう」

 

『『『……………………』』』

 

静まり返るレオリカンの衛兵たち。


「ふっ…………確かに、誰の命も失われていないのは凄いことかもしれん」


 カリフ王は笑った。

 

「このようなことになるとは想像もしていなかった。許そう。レオリカン王国の全ての民に代わって竜を許すと王の名において宣言しよう」

 

 竜の正面に歩み出て言った。

 

「これほどのことをしでかしたというのにか?」

 

「竜よ。こちらこそ許して欲しい我らがお前の討伐に何の疑問も持たずに実行したことを……危うくお前の命を奪いかけたことを……」

 

「気にも留めていない。頭を上げられよ」

 

「そうか」

 

 言葉を受けて振り返って、兵士たちに宣言する。

 

「皆の者、聞いた通りだ。ここにもはや敵などいない! ここにいるのは戦友たちと新たな友のみだ! 戦いは終わった! よくぞ戦った。よくぞついてきた。我らは成し遂げた。故郷を取り戻したのだ!!」

 

 

『『『オオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』』』

 

 大歓声がその場で沸き上がった。

 

「ここにレオリカン王国の再建を宣言する!!」

 

「ふう~~」「やったチュウ」「バンザイチー」「疲れたチャア」

 

「これほどのことをした竜を許すとは、この世界の住人は変わっているな」

 

『『『オオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』』』

 

 戦いの終わりに、国を取り戻した成果に、傷を負いながらも誰一人犠牲にならなかった事実に、誰もが喜んでいた。

 

(実際に起きてようやくわかった。あの絵本の何が面白かったのか。何が凄かったのか)

(こういうことだったんだ……)

(こういう終わりが好きだったんだ)

 

 そこにある光景はまるで絵本と同じもの、悪いことをした竜を許す優しい皆の姿だった。

 

第一章完結まで読んでくれてありがとうございます!


第二章は後編になりますので、もう少し動物たちの異世界を堪能してくれると嬉しいです。

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