第50話 凄いこと
レオリカン王国。
レオリカン兵団に竜と一緒に囲まれた。
「この国の者達か。我を解放してくれたことに礼を言う」
「!?」「う、動いたぞ」「み、皆、気を抜くな」
衛兵たちはしっかりと武器を構え、いつでも戦えるようにしている。
「まだです! オレたちはこの竜が何なのか、わかっていません……」
ロードがカリフ王に意見する。
「何を言っている。周りを見よ。我が国をこのようにした者がその竜ではないか」
「我が、これを……?」
赤い竜が周りの光景を見ていた。
(こいつ……覚えてないのか?)
「確かに、やったのは竜ですが、見てください。今、竜は大人しくなっています。もう、戦う意思はきっとありません」
「どういうことだ?」
「竜にこの剣が突き刺さっていました」
原因と思われる真っ黒い剣を皆に見せる。
「これのせいで竜は暴れていたんだと思います」
「……それをどう証明する」
「しょ、証明……?」
(……………な、何も思い浮かばない)
真っ黒い剣には触れた時の痛みはもうなかった。
「武器を構えよ!!」
しびれを切らして命じた。
「カリフ王!!」
「――確かに、今は大人しくしているようだが、戦いに疲れて休んでいるだけかもしれん。あるいは、お前が竜に騙しているだけだとも……」
「騙されていません!」
「例えそうでも問題は、いつまた竜が暴れだすかだ。悪しき竜がいなくなればこの世界の平和は取り戻される。それだけのことだ」
衛兵たちはいつでも命令一つで竜にとどめを刺せるよう準備を整えた。
(これじゃ説得にならない)
(確かに、この剣を抜いても竜がいい奴とは決まってない)
(倒してしまえば、もう誰も怯えることはないけど……)
(そうすると、何もわからないままだ)
(この世界を壊していただけの竜のままだ)
「それで終わりだ――」
(やっ、竜にとどめを刺して終わりじゃダメだ!)
「皆の者――!!」
カリフ王が命令を飛ばそうとする。
「それだけではありません!」
ロードは大声で叫んで止める。
「!?」
「――カリフ王、オレはある話を知っています!」
「悪しき竜を目の前にする話などない!」
「話は悪い竜に関わるの話です」
「――!?」
(勘違いさせてすみません)
(悪しき竜の話じゃなくて悪い竜の話です)
(でも、関係はある)
「聞いてください。オレが知っている悪い竜の話を――」
カリフ王と衛兵たちにも注目される。
「この事態に関係のある話なのだな」
「……はい」
「構えを解け!」
衛兵たちが少しの間を開けてそれぞれ構えを解いていった。
「わかった。ひとまずお前の話を聞こう……」
「ありがとうございます」
胸に手を当て、うまく話ができるよう少し呼吸を整える。
(途中で息を詰まらすな)
口を開く。
「オレの知る悪い竜の話はこうでした」
「あるところに幸せな世界があって、そこで命ある者たちが平和に暮らしているという……」
「けど、突然その世界に悪い竜が現れて破壊の限りを尽くた」
「命ある者たちは悪い竜から逃げ伸びるしかなかった……」
「幸いにもこの時、命を散らせた者はいませんでした」
「そして、悪い竜を倒すため一人が立ち上がった」
「そいつは見事、悪い竜をやっつけて世界を平和に戻しました」
「しかし、立ち上がった者は悪い竜にとどめは刺さず、どうしてこんなことをしたのか聞いたんです」
「悪い竜は言いました」
『自分より強いやつに住んでいた世界を壊された』
『だからここの奴らが幸せそうなのを見て、皆の世界を壊してやろうと思った』
「立ち上がった者はそれを聞いて言いました」
『じゃあ、皆に謝って許してもらおう』
『君は本当は優しい竜なんだ、謝れば皆きっと許してくれるよ』
『君の住んでた世界がなくなったのなら、ここをキミの新しい世界にしよう』
「言われた通り、竜は皆に謝まりました」
「そして謝られた皆は言いました」
『国も街も村もまた作ればいいと、だから許してあげるよ』
「竜はその言葉に涙を流した」
「そして心を入れ替えた竜は新しい仲間として皆に向かえ入れられました」
「その世界はそうやって幸せを作り出していきました」
話を終えて深い息を吐いた。
とても静かに最後まで聞いてもらえた。
「……話はそこまでか」
特に話の内容については触れてもらえなかった。
「……凄い話だと思いませんか?」
「確かにな。まるで絵本ののような話だ」
(うっ……バレてる……?)
「だが悪い竜の所業を許すなど、決して納得の出来ないことだ。国や街を治すのも簡単ではない。戻せるからと言って全ての者の怒りが収まることはないのだ。特にレオリカンに住む我々の怒りはな」
「……許されたのが凄いんじゃありません」
「?」
「この話、誰も命を落とさなかったんです。竜は世界を壊していた。でも、誰一人命を散らせた者はいなかった。だから、今した話の皆は竜を許せたんです。竜の命を奪おうとしなかったんです……」
「それはどこで聞いた話だ」
(うっ……来たか~~)
(嘘はダメだ。バレときますます話がこじれるから)
(……白状するしかない)
「――オ、オレの好きな絵本の話です」
「話にならんな!! この世界は絵本の様にはいかんぞ!!」
カリフ王は怒鳴った。
「けど!! 皆生きてる!!」
ロードも負けないくらい大きな声で主張した。
「それは、皆が必死に生きようとした奇跡の結果だ」
「違う。この悲惨な国の景色を見ればわかります」
戦いで荒れ果てた王国を皆が見る。
「これほどのことが起きたんだ。奇跡や偶然じゃ説明できない。この竜がそうならないようにしていたんだ。この剣オレが引き抜く前は触れれば焼けるような痛みに襲われ、簡単に抜けるようなものでもありませんでした。なら、この剣が突き刺さっていた竜は、これが原因で暴れていたのだとしたら、竜も自分の身体を抑えるために戦っていたのではないでしょうか」
「……竜が我々を守っていたとでも言うつもりか? 都合のいい話だ」
「都合のいい話でも、誰も命を散らせていないのは凄いことだと思いませんか?」
「壊れた街は時間をかければ戻ります。でも、もし誰かが命を散らせればそれは戻らなかった」
「凄いでしょう? これだけ戦って、誰も命を落とさなかったんですよ。皆もも頑張ってくれていた。でも竜もそうだった。だから、こんなに凄いことが起きたんです。ここまでは絵本と同じです。だったらその話の様に…………オレたちも凄いことをしてみましょう」
「そんな話では、考えが変わることはない」
「…………それでは、」
「だが待て、とりあえず。竜の話を聞いてから判断を下そう。だからロード、手早くに済ませよ」
「あ、ありがとうございます」
ひとまず場を治めることが出来た。




