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第5話 使用人としてすべきこと

 ロードが早朝のジョギングから帰った後のこと。

 

 

 ストンヒュー宮殿・ロードの部屋。

 

 

 時刻は7時過ぎ。

 仕事のために使用人服に着替える。

 全身鏡の前で紐のネクタイを締め、身だしなみを整える。

 寝床で眠っていたはずの3匹のネズミたちの姿は部屋にない。

 どこかに出かけたようだ。

 

(あいつら、オレが見習いから卒業した途端遊び始めたな~~)

 

 彼は少年時代からストンヒュー宮殿で住み込みで働いている。

 親がいなくて住むところがなかったところ、宮殿の王様や大臣たちが部屋を与えてくれたのがここでの生活の始まりだった。

 その時に3匹のネズミが親代わりとして、手助けし見守る、お目付け役を任されていた。

 それからは宮殿で勉学に勤しみ、一方で使用人見習いとして色々な仕事を手伝っていた。

 そうして時は過ぎて19才となり、晴れて見習いを卒業、正式にストンヒュー宮殿の使用人となった。

 それと同時にネズミたちのお目付け役も解除され、昔のように一緒にいる時間は少なくなった。

 

(この時間どこ行ってるんだろ。朝ごはんか?)

 

 べつに寂しいから呟いたわけじゃない。朝ごはんを食べに行ってるのは当たっている。

 3匹のネズミはお目付け役が解除された今でも夜になれば帰ってくる。

 一緒に住んでいるうちに、ここはネズミたちにとっても自分の部屋になっているようだった。

 

(よし! 行くか)

 

 服装がビシッとき決まるのを鏡で確認し、踵を返して部屋の扉の前まで歩く。

 ドアノブに手を掛けガチャリと回しギィィィと開き、自室を後にする。

 

 今日も新人使用人としての一日の仕事が始まる。

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

 ストンヒュー宮殿で働く使用人は500名に及ぶ。

 仕事は主に宮殿内と宮殿外の敷地全域とその他に分けられる。

 新人使用人の彼はというと、昔から手伝っていたこともあって宮殿内の仕事を任されている。

 

 今は宮殿の広い客間を一人で掃除している。

 家具の配置を完璧なまでに調整し、花瓶の水を取り替えて、拭いた窓には一切の曇りも残さず、脚立に乗ってシャンデリアに積もった埃を拭き取る。

 最後に真っ赤な絨毯を取っ払って、床をサッサッと箒で掃き、雑巾で水拭きからの乾拭きでピッカピッカに磨く。

 真っ赤で華やかな絨毯は専門の店で清掃してもらい、それまでは真っ青で美しい絨毯を敷いておく。

 

「よし終わり! もういいぞ、ナマケモノたちさん」

 

「「「ナァ~~ナァ~~」」」

 

 テーブルの上で待機させられていた数匹のナマケモノたちがダラダラと降りて、真新しい絨毯の上でゴロゴロし始めた。

 容赦なく体毛が落ち、汚されていく絨毯を目の当たりにして表情が引きつる。

 

「……まぁどうせ明日も掃除するからいいんだけどさぁ」

 

 片腕で脚立を抱え、バケツを空いた手に箒を腋に挟んで、客間から出て行く。

 

 ▼ ▼ ▼

 

 時刻は10時過ぎ。

 掃除を終わらせて宮殿の回廊を歩いていると、柱の陰で座り込んでいる7才の女の子を見つける。

 その子は宮殿で暮らす大臣の娘だ。

 座り込んでいる姿が気になって声をかける。

 

「どうしたのかな? お嬢さん。何か宝物でも見つけましたか?」

 

 子供に合わせた口調を使う。

 問いかけに対して大臣の娘は首をブンブンと振っていた。

 

「宝物、こわれちゃった……」

 

 ちょっと涙声で言う大臣の娘は両手で持っていた物を見せてくる。

 ジャラリと音を鳴らしたのは、いつも首にかけてた高価なネックレス。

 だが、鎖が外れて掛けられていた貴金属はバラバラになり首にかけることが出来なくなっていた。

 

「転んで、こわれちゃった……どうしよう直せないよ」

 

 鎖はいくつか破損して修復は難しそうだ。

 

「それかぁ……ん~~んっ!? そうだ! ちょっとネックレス貸してみて」

 

 ピカーンと頭でひらめいたことを試してみる。

 

「……うん……はい」

 

 ネックレスを受け取ると鎖に掛けられた貴金属をすべて取り外し、襟元の紐のネクタイを引っ張ってほどいた。

 

 そうしてあることをする。

 

「はい! これでどうだ!」

 

 ネックレスをかけてあげた。

 鎖の代わりに紐のネクタイに貴金属を通して、ほどけないようにしっかりと結ぶことでネックレスを直してみた。

 見た目だけなら十分機能は果たせていた。

 

「すごーい、直ったの!?」

 

「まぁ、これでご納得していただけるのでしたら直ったとういうことで……ほどけたら……また、誰かに結んでもらいえばいいよ」

 

「うん! ロードお兄さん、ありがとうございました」

 

 深々と礼儀正しくお辞儀をしてくれた。

 軽く手を挙げてその場から去り、壊れた鎖をポケットに突っ込んだ。

 

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