第497話 最後の砦ホーウッドの街
ロードとシルベは食堂にいた。
いくつもの長テーブルが並び、幾人かのガタイのいい男が食事をしていた。
「はいよ、お待ちどさん!」
シルベが料理を持って来る。それはジャガイモと玉ねぎスープというあまり裕福とは言えない貧しい食事だった。
向かい側にシルベが座り、ロードにスープとスプーンを渡してくる。
「ありがとう」
「いやいや、あたしは食事を持って来ただけ、感謝するなら食物を育ててくれた農家の人と、それを調理した料理人に言っておくれ」
「分かった。いただきます」
ロードは両手を合わせて食事の儀式を行った。
「はい、いただきます」
シルベは挨拶と同時にブラックペッパーの入った容器を手に取り、スープにふりかけに行く。
「何だそれは?」
「調味料だよ。使ってみるかい?」
シルベが手を差し出し、ロードが受け取る。
容器にはいくつかの小さな穴が開いており、そこからブラックペッパーというものをふりかける物だった。
ロードは少しだけスープの中心部にさらさらとかけていく。
そして一口スープをスプーンですくい飲む。
「おいしい……ブラックペッパーの辛みとコクの強いスープがいい味してる」
ロードは素直に感動した。
「おお、キミは意外としたが庶民派なのかな? まぁ私もこの組み合わせが好きだけど……」
それからロードとシルベはスープの味を楽しんだ。
◆ ◆ ◆ ◆
ホーウッド・砦。
昼食が終わるとロードとシルベは外に出た。
日差しが照り付ける清々しいほどの青空。しかしどこか浮いている雲の位置が低い。
(この異世界にも日の光が照り付けているのか……)
ロードはすっかり元気を取り戻し、まともに歩いていた。シルベに連れられて木材で組み立てられた砦の街を歩いていく。
「ここはどういうところなんだ?」
「この異世界に名前はないよ。あるとすればこの街はホーウッド。この異世界、人類の最後の砦さ」
スタスタとシルベとロードは歩いていく。
「人類最後の砦といったが、この異世界に何かあったのか?」
「まぁ、その話はみんな揃ってからにしよう。今はキミが回復したと伝えたい」
シルベは先頭を歩く。ロードがそれについて行く。周りからは武器を打ちつく音や鎧の仕立てをする者、身を守る大小さまざま盾が売っていた。
「ここには武器や防具しか売っていないのか?」
「ハハハ、このご時世だからね~~、武器や防具は必需品なんだよ~~」
「このご時世ってどういうことだ?」
「まぁ、詳しい話は皆で集まってからにしよ。しかし歩くのも疲れるな~~ここらで空間転移しよっと……」
シルベが持っていた杖を二、三度、地面をたたき、円形の陣が現れる。
「さぁ、この陣な中に入って……」
ロードに手を差し伸べるシルベ、ロードはその手を取り円形の陣の中に入り、空間を転移した。
◆ ◆ ◆ ◆
ホーウッド・教会前。
ロードとシルベは空間を転移した。そして行き着いたのは神秘的な教会だった。
「キミのお仲間はこの中で、キミが目を覚ますのを待ってくつろいでる。早く元気な顔を見せておいで……」
そのシルベの言葉を聞きロードは教会の扉を開こうとしていた。
そこへ丁度、スワンがドルフィーナの引く荷船を連れて帰ってくるところだった。
「ロ、ロード!」
「スワンか、おはよう」
「おはよう。っていつ目を覚ましたの? 私たった今、あなたの顔を見に言ってたのに、何であなたの方が先に教会についてるの?」
「おっとスワンさん、あたしのことを忘れてもらっちゃ困るな……」
シルベが名乗りを上げた。
「ああ、空間転移してきたわけか……」
「スワン、分かるのか?」
ロードが開きかけた教会の扉へ手を止めてスワンに聞く。
「分かるも何も――――」
「詳しい説明は教会の中でしよう。入り口にいると教会に教えを請いに来る子供たちの邪魔になる。スワンさんはすぐに荷船を隠して、ロードはそのまま扉を開いて……」
スワンはドルフィーナを指輪の形に戻し、隠者の指輪で荷船を透明化させていく。
ロードの方は教会の扉を開き中へと入って行った。その後ろからシルベとスワンが続いていく。
▼ ▼ ▼
中はキレイなステンドガラスといくつもの柱や長椅子が並び、教会の奥には壇上と女神の像が配置されていた。
ハズレが長椅子の上に眠りこけている。グラスが柱の隅で草を食べている。ドノミが椅子に座って管理会社のマニュアルを読んでいる。ブケンが空気相手に格闘している。ミハニーツが扉が開くのに気が付いてすぐさま心配していた男の名を呼ぶ。
「ロード! 目が覚めたの!」
ミハニーツが叫ぶとみんな視線をこちらに向けて来た。
「ようやく起きたか……」
ハズレが身を起こす。
「貧弱なかかしだ」
グラスが減らず口を叩く。
「ロードさん、顔色もよさそうで……」
マニュアルを閉じるドノミ。
「なんだ? もう身体の不調はないのか?」
空気と格闘しながら訊くブケン。
「ああ、皆心配かけたな」
ロードがお詫びする。
「さぁ、ロードも目を覚ましたし、皆待ちに待った本題に入ろうか?」
「やっとか……」
ハズレが言う。
「いつまでも待たせやがって……」
悪態をつくグラス。
「これで皆揃ったね」
スワンが開いている椅子に座る。
パンパンと手を叩くシルベは、気が付くと壇上の上に腰掛けていた。
「さてと……クレアさん、みんな揃ったよ」
その時、カツンカツンと靴を鳴らし壇上に近づく者がいた。
「……シルベさん。神聖な主の目の前で非常識なふるまいはおやめください」
「はいはい」
シルベは仕方なく壇上から降りる。
(今度は誰だ)
ロードがシルベに話しかけた声の主を見た。
「ようこそ、ロードさん。私はこの異世界の教会を取り仕切るシスター・クレアです」
シスターの装束に身を包んだ女性がそう話しかけて来た。




