第496話 召喚士のシルベ
ロードの目には魔王の少女が映っていた。
自分に手を伸ばして来る魔王の少女。
そこでロードは覚醒した。今見ていた物が夢だと実感した。
「…………ん? ここは?」
ロードが重いまぶたを開けると白い天井が見えた。
「起きたかい?」
女性の声が聞こえて来る。
「な、誰だ?」
ロードは身体を起こし周りを見る。白いベッドに白いカーテン。壁には古時計があり、12時を示していた。
「あたしかい? あたしは……しいて言うならキミの命の恩人」
「命の恩人?」
ロードが訝しげに聞く。
「そう、お連れさんから聞いたよ……キミ大魔王と戦っていたんだって?」
「……あ、ああ!! そうだ!! あの魔王はどこだ!? 一体何があってこんなところにいる?」
「まぁまぁ、落ち着きなよ。ここだけは安全なんだから……」
ロードをいさめる女性。
「キミは一体誰だ?」
「おっ、やっと訊いてくれたね。あたしはキミの命の恩人。そして名前はシルベ・バウエッヘン。皆は召喚士のシルベと呼んでいる。よろしくね~~」
乱れた真っ赤な髪を後ろに束ねポニーテイルにしている女性が名乗る。
「よ、よろしく。オレは……」
「ノンノン、知ってるよロード・ストンヒューでしょ、幾体もの魔王を倒し、ハオストラ武闘大会の優勝者……」
ロードのベッドに座っていたシルベが両手を絡ませ上に伸びをする。
「何で知ってるんだ?」
「だからキミのお連れさんに聞いたんだよ……えっと確か、スワンとミハニーツって人がよく説明してくれた」
「スワンとミハニーツ……――待った、彼女たちは!? ハズレやグラスやブケンとドノミさんはどうなった!?」
ロードが大魔王と戦っていたときのことを思い出す。
「落ち着いて、落ち着いて……少しずつ説明するから……まず彼女たちは無事だから安心しなよ」
シルベはロードをどうどうと両手で落ち着かせる。
「無事? あの大魔王はどうしたんだ?」
「ミハニーツさんって人から聞いたけど……その大魔王は倒していないらしい。ひとまず逃げようと思ったんだって……」
「逃げようと思った?」
「ほら、さっきあたしが自己紹介したでしょ? 召喚士のシルベって、あたしの召喚術で大魔王と戦っていたキミたちをこの異世界に召喚したんだよ」
「召喚? 何の話だ?」
ロードは不可解に思った。
「まず、キミたちは大魔王を倒せなかった。それは覚えてる?」
シルベの問いにロードが大魔王との戦いを思い出す。
「あっ、オレは全身全霊の技、最初の一撃を放ったんだ……その時爆発が起きて、大魔王には通用しなくて……」
「そうそう、その大魔王に勝つ算段のなかったミハニーツって人が、たまたま召喚の陣の描かれた場所に立っていたから、皆で逃げ出すことを選択した」
「逃げ出す……あの大魔王は倒していないのか?」
「ん~~~~倒せてないみたいだよ。むしろあたしの召喚の陣に助けられたって言ってたし……」
「そうか、倒せなかったか……」
ロードは掛け布団をぎゅっと握る。
「まぁ詳しい話は本人としてよ。あたしは直接その大魔王を見たわけじゃないんだしさ……それより、みんな心配してたよ……キミが目を覚まさなかったこと」
「――!? オレが目を覚まさなった? どれくらい寝ていたんだ?」
「丸一日は眠っていたよ。昏睡状態で、ハズレって人だったかな? 一時的な疲労で眠っているだけって推測してたけど、ミハニーツは何度もキミの顔の様子を見に来たよ」
ベッドから立ち上がるシルベ。
「ミハニーツが……」
「それでここまで言ってみたけど質問はあるかな?」
「皆は今どうしてる? この異世界にいるんだろ? ハズレ、スワン、グラス、ドノミさん、ブケン、ミハニーツは?」
「キミが目覚めるのを待ってるよ。質問がそれだけならここを出ようか……肩を貸してあげるから歩くよ?」
シルベがロードの身体を支えて、ロードの腕を自分の肩にまわす。そして一気に起き上がる。
「済まない」
「そこはありがとうだよ。まず食事を取ろう。それから皆のいるところへ案内する」
シルベが言うと、ロードはゆっくり立ち上がり、シルベに身体を預ける。そしてゆっくりゆっくりと歩いていく。
シルベがドアノブに手を掛けてガチャリと回す。そして真っ白な医務室のような場所から出た。




