第495話 皆で倒そう
ミハニーツが魔王の少女に向かって走り出した。
「ハァーーーーーー!!」
ミハニーツは鞘から剣を引き抜いた。剣を引き抜くその余波が金髪の魔眼を持った少女に襲い掛かる。
「……………………」
魔王の少女は接近するミハニーツに気が付いた。そして即座にミサイルのごとくその華奢な身体で迎え撃つ。
「――蜜の針!!」
ミハニーツが叫ぶと蜜が硬化した鋭い針が魔王の少女に向かう。
対して、魔王の少女は飛行速度も緩めず、向かって来る蜜の針を縫ってかいくぐる。
「――――ハァーーーー!!」
ミハニーツが剣を振り、その余波で近づいてくる魔王の少女を吹き飛ばそうとするが、髪や衣がたなびくだけで意味がなかった。
ロードたちはミハニーツに向かってくる魔王の少女の正体をやっとその目に捉えた。
朱色の衣に黄金の襟、まぶたに朱色の紅が塗られた人の目とは思えない瞳。
その袖口から、5メートル程の尾羽のような剣が飛び出した。それも両口からだ。
魔王の少女がミハニーツに接近戦を仕掛ける。ガキキキキキキン!! 甲高い音の連続が響き渡った。
凄まじい威力の剣戟にミハニーツは防戦一方だった。
ミハニーツが完全に力負けして後ろへ下がっていく。
(――――オレにあれだけ圧倒的実力を見せたミハニーツが押されている!?)
ロードは内心穏やかではなかった。それはすぐ行動に現れた。
「倒しに行こう」
ロードが口ずさむとその場に居た全員が驚く。そしてすかさずロードは動いた。
「ロード! 待て!」
ハズレが後に続く。スワンもグラスもドノミもブケンも茂みから飛び出す。
「――――――!?」
ミハニーツは視界にロードを捉えていた。そして信じることにした。心強い援軍が来たと目に力が入った。
ミハニーツは剣戟で後ろへ下がる身体を抑え込む。
「ミチル! 飛ばせるな」
ロードが青い剣を投げ放った。その剣は真っ直ぐ飛び、魔王の少女の背中を突き刺した。
「――――!?」
魔王の少女の動きが止まった。ロードと目があったからだ。
(――――!? この魔王から出る違和感は一体?)
ロードはその魔王の目を見続けた。
そして、ドノミが鉄棒を振り被ってフルスイングした。魔王の少女に直撃し――
「飛べミチル!!」
魔王の少女を突き刺した青い剣がフルスイングの勢いを殺さず飛ばす。
不意打ちだったが上手く魔王の少女をミハニーツから遠ざけた。
「や、やりました!」
ドノミが手ごたえを感じていたが、
「まだ油断しないで――」
魔王の少女は空中で態勢を整え、ロードを見る。そして何かを呟いていた。
ロードはその口の動きを見逃さなかった。
(…………誰のことだ?)
ロードは呟きに対しそう思った。
その時、グラスが飛んだ。その理由はかつて貧困の世界で自由を手にしようとしていたフリフライという魔王から手に入れた羽根のチケットを使っていたからだ。
「十六夜!!」
グラスの渾身の手刀が魔王の少女に突き刺さる、その距離だったがくるりと踊り躱された。
「水霊の抱擁!」
今度は黄金の湖の水を使った精霊の攻撃が魔王の少女を包み込む。
「衝撃流――二石波紋!」
ブケンが両腕を砲弾の様に構え、その両腕から衝撃波が走る。
捕らわれた水から解放された魔王の少女は、二つの砲撃をまともに食らった。
吹っ飛ばされた魔王の少女は湖の中に落ちた。
「や、やれたの? あんな小さな力しかないあなた達が、あの魔王に攻撃を加えた?」
ミハニーツは驚いていた。
「共闘しよう」
ロードが提案する。
「うん――――」
ミハニーツが頷いたその時、湖の中からミサイルのごとく魔王の少女が飛び出す。
狙いはミハニーツではなくロード。その手を伸ばそうとした時、爆発が起きた。
「やれやれ、怖い物知らずにもほどがある」
ハズレが炎の剣を構えてやって来ていた。
「ハズレ……」
ロードが呟く。
「こうなったら皆で倒そう」
ハズレが言う。
その時、爆煙を振り払って傷も滴る水も汚れの一つもない魔王の少女が君臨していた。
「どういうことだ!? 傷口がない!!」
ロードが確かに青い剣で突き刺した傷口を探す。
「それだけじゃない。衣服に染み込んだ水も乾いてる!」
スワンが驚愕する。
「あれだけの攻撃で汚れ一つ見当たらないぞ」
ブケンが構える。
「テメーら手は抜いてないだろうな……」
グラスが降りてくる。
「爆発を受けて、服すら焦げ目がない。こいつも秘宝玉所有者」
ハズレが推測する。
「皆、気を引き締めて」
ミハニーツが剣を構える。
風にたなびく衣と金髪の長髪が魔王の少女の異常性を現していた。10才ぐらいに見える少女。
「これならどうだ! 最初の一撃!」
ロードは剣を片手に振り上げて、生命力を剣の刀身に集めていく。およそ50メートルの長剣ができ――
魔王の少女も尾羽の剣を50メートル程に伸ばしていき対抗する。
そして光の剣と尾羽の剣が激突する。その激突時の爆発の余波がミハニーツどころかロードたちも飛ばしていく。
「くうぅ……」
ロードが体力切れになる。
「大丈夫か?」
ハズレがその身体を支える。
「下がって――!!」
ミハニーツが全員を庇うように剣を構える。
爆煙が晴れていく。そして同じくらい攻撃の余波を受けた魔王の少女を一同が見て驚愕する。
(バカな……今の一撃で、まるで何事もなかったかのように傷も汚れも表情も変わらず君臨している)
そして魔王の少女がゆっくりと近づいて行く。
その時、ロードたちの足元に陣が描かれた。
「何だこりゃ!」
グラスが言う。
「大魔王の攻撃!?」
ドノミが言う。
「これは転移の陣!? 皆、これに身を任せて一旦逃げよう」
スワンが提案する。
「逃げるだと? そんな真似――」
ブケンが聞き捨てならなそうだったが、
「分かった。これに乗ろう」
ミハニーツが決断する。
その時、ロードは魔王の少女と目が合った。手を伸ばしてくるその手はどこか――
(オレを捕まえようとしているのか)
そういう風に捉えられた。
そしてロードたちは転移の陣に乗っかって一度ガークスボッテンから身を引くことにする。
魔王の少女の手は空虚を掴んだ。
「……………………」
そしてその目はギラつき、奥歯を噛み締めて、怒りを露わにしていた。




