第494話 遭遇、復讐対象
ロードは育ち故郷、ガークスボッテン界に足を運んでいた。
それはハオストラ武闘大会で出会ったミハニーツの提案だった。
彼女の話からすると、ロードは記憶をなくしていたらしい。
ロード自身も記憶がないと自覚していた。
そこで、ミハニーツはロードの記憶が戻るようにと、この異世界に来ていた。
日差しがその世界の正体を暴いていく。
毒の池、雷の塔、岩石が浮く地、真っ黒な濃霧、他、様々な環境が混ざり合っていた。
そして、ロード、スワン、ハズレ、グラス、ドノミ、ブケン、ミハニーツは危険のない森を進み、遠くにそびえたつ勇卵の城を目指していた。
しかし、そんな時ロードの所持していた裏切りの瞳が反応した。黒く輝き、魔物が近くにいると教えて来た。
「「「――――!!!?」」」
ロードたちは廃墟となった勇卵の城を見てた。
その上空には何かが浮いていた。ロードたちは遠すぎてみる事すらできないミニマムサイズ。
しかし、一人だけその姿に震え上がった者がいた。
ミハニーツだった。彼女の形相は怒りを抑えているように見える。
「ふぅ~~~~こんなところに居たんだ」
息を吐きながらミハニーツは平常心を取り戻す。
「何が見えてるんだ?」
ロードが訊く。
「大魔王……かつて私たち家族の前に現れてその仲を引き裂いた元凶」
ミハニーツが声を押し殺しながら言う。
「前々から気になっていたが、その大魔王ってのは何なんだ? 普通の魔王とは違うのか?」
ハズレが訊いてみる。
「私も大魔王という存在は存じ上げません」
ドノミが言う。
「………………大魔王、魔王の中でも更に強大な力を持った魔王のこと」
スワンが答えた。
「んで、あそこにいんのは倒すのか?」
グラスが訊いてくる。
「こちらは7人、向こうは一体、断然有利なのはこちらだが?」
ブケンが状況を見る。
「相手は大魔王。私たち全員で対抗しても全員無事でことが治まるとは思えない」
ミハニーツが刺すように言う。
「どういうことだ?」
ロードが訊く。
「あなたたちは弱すぎる。私の足手まといにしかならない。ロードとの武闘大会の決勝戦で強さの次元が違うと感じたはず……」
ミハニーツが現実を突きつける。
「……オレたちが足手まとい」
ロードが呟く。
「悪い言い方をしてごめんなさい。けど、今のあなたたちを大魔王と戦わせるわけにはいかない。アレは私一人で対処する」
ミハニーツが森の茂みに隠れるよう促す。
「ミハニーツ、さっき言ったな? オレたち家族を引き裂いた大魔王だと……」
ロードが訊く。
「そう、あの大魔王こそがある日、私たちの住んでいたこの異世界に現れ、ヴィンセント先生が私たち九人を連れて、ガリョウ先生がロードと一緒にこの異世界から出たと先生は言っていたけど……ロードの近くにガリョウ先生はいなかったんだよね? その竜殺しの剣ももとはと言えばガリョウ先生のものだし」
「10才、時点で記憶をなくしていたから、何があったか分からないけど、初めてこの赤い剣を見たとき懐かしい感じがした」
ロードが赤い竜封じの剣を見ながら言う。
「…………多分、ガリョウ先生はロードの近くに居ないのなら亡くなっている」
ミハニーツが自分の剣の柄に手をそえる。
「……ごめん、何も思い出せなくて……」
ロードが謝る。
「ロードが謝ることじゃない。それに仇も見つけた。私たち家族を引き裂いた大魔王が今目の前にいる。これは復讐を果たす好機」
ミハニーツが茂みから飛び出した。
「待ってくれミハニーツ!」
ロードが引き留める。
「ロードたちは私がアイツを倒すまでここに隠れていて……」
「ロード、ここは一旦ミハニーツさんに任せよう」
ハズレが言う。
「だけど……」
「ありがとうロード、気持ちだけ受け取っておく」
ミハニーツが甘くささやく声で言う。そして茂みから飛び出し大魔王の前に出る。
(オレがもっと強ければ……)
「………………信じよう、ミハニーツさんを」
スワンがロードの手を握る。
そして、宙に浮いていた大魔王、もとい魔王の少女がゆっくりと降りてくる。
「ようやくあの時の雪辱が果たせる!」
抜剣して切っ先を向けるミハニーツ。その目は復讐を宿していた。
「……………………」
対して魔王の少女は無表情に冷徹無比な表情をしていた。
(オレを圧倒したミハニーツ対魔王を超える大魔王、どんな戦いになるんだ……)
ロードは手に汗握りながら、今始まろうとする戦いを見守ろうとしていた。




