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第47話 だけど皆は生きている

「カ、カリフ王! アレを――!」

 

 そのときタカの衛兵が見たものは、悪しき竜が口から灼熱の炎を上空に向けて吹き上げる姿だった。

 全てを焼き尽くす破壊の炎は異様な揺らめきを見せて形を変えていく。

 

「ロード迷ってる暇はないぞ! このままで皆が命を落とす!」


 カリフ王が叫ぶ。

 

(っ!!)

(そうだ……オレはもう誰も傷つかせないためにここまで来たんだ)

(迷ってる暇はない)

 

「ルロウ!頂上へ」

 

 王国で一番高い場所にあるレオリカン宮殿まで駆け上がってもらう。

 

「な、なんだ。あれは?」

 

 上空に大きな炎の球体が出来ていた。

 竜よりも遥かに大きい炎の球体が王国を照らしていた。

 悪しき竜の本当の力を誰もが垣間見た。

 あまりにも大きな炎の球体は、そのまま落ちれば一面焼け野原になることだろう。

 逃げ場所はない、誰も逃げきれない。

 

(あれは全滅する)

 

 炎の球体をどうにするしか皆が助かる道はなかった。

 

「なんで炎に近づくチュウ」「も、もうおしまいチー」「チャアアア」

 

「これしかないんだ!」

 

 一番高い場所に建てられたレオリカン宮殿の傍に来られた。

 まだ炎の球体が落ちる気配はない。

 

(届くはずだ!)

 

 ブン!! と腕と肩の力を使って竜殺しの剣を悪しき竜に向かって投げ飛ばす。

 赤い剣は線を引きながら上空にいる竜を目指して進む。

 しかし、竜は身を翻して竜殺しの剣を避けてた。

 

(狙いはそっちじゃない)

(行った……)

 

 竜殺しの剣はその先の炎の球体へ突き進んだ。

 

 シュウゴウウウウウウウウウウウウウウ!!

 

 竜殺しの剣が炎の球体を消し去った。

 だけど、同時に手元から剣も離れてしまった。

 阻むものさえなくなってしまえば竜は遠慮なく攻撃できる。

 悪しき竜は逃げ場も切り札も失った僕らに襲い掛かって来た。

 

「しまった剣がない!!」

 

「うおっ!!」「「「チュー!!」」」

 

 だが、寸前のところで停止する。

 

「グウウウウウウウウウ」

 

「えっ」

 

(また、止まった……)

(これで何度目だ)

(流石に変だ)

 

 バサッと翼を広げ再び上空へ竜は飛ぶ。

 その時、空で竜殺しの剣を掴み全速力で竜に向かう兵士がいた。

 

「これで終わりだ!」

 

 勢いよく突撃を仕掛けたタカの衛兵たちであったが、バシン!! と竜の長い尻尾に叩き落とされた。

 竜殺しの剣が遠くの方に突き刺さる。

 

「ルロウ! 剣の元へ」

 

 そこからすぐに剣の落ちたあたりに向かってもらう。

 

「ま、まただチュウ」

 

 竜はまた炎の球体を作っていた。

 

(まずい二回目は間に合わないぞ!)

 

「この!! ちょっと待てよ!!」

 

 全力で走るが剣にはまだ遠い。

 そして、先に炎の球体が完成した。

 

(や、)

 

「やめろ! 竜! やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇ!!」

 

 叫ぶんだが止められなかった。

 炎の球体が一斉に花が咲くよう爆発した。

 火の雨となってレオリカン王国に降り注いでいく。

 

(誰も助からせない火の雨が来る)

(谷も街も燃やし尽す、ここにいる兵士たちを全滅させる火の雨が――)

 

 と思っていた。

 

(えっ)

 

 しかし、レオリカンの王国に火の雨は降りかかることはなかった。

 火の雨が降りかかったのは王国のの外周、直接中には落ちて来なかった。

 

「チ、チュウ」「落ちて来なかったチー」「でも外に出れないチャア」

 

「は、ははははははははは」

 

「なんで笑ってる!」

 

「オレの声が届いた! 竜は言葉が通じるんだ! きっとこんな事をする理由が、悪いフリをする理由が何かあるんだ!」

 

「何言ってんだ! レオリカン王国を奪って街や村を襲う理由があってたまるか!」

 

「でも、オレたちを今守ってくれた!」

 

「おっ!? お前! 本気で絵本と同じ展開だと思ってるのか!?」

 

「だって! 皆生きているじゃないか!」

 

「!?」

 

「まだ誰も命を奪われていない。いや、ここだけじゃないオレたちが見てきた避難所も被害のあった街も村も、誰も命を落としてなかった」

 

「そいえば皆助かってたチュウ」「ぐ、偶然チー」

 

「竜の力を見ただろ! 偶然でどうにかなるか?」

 

「確かに何度も命を落としかけたチャア……」

 

「アイツは力を抑えてる。いや、誰も命を落とさない様に抑えてるんだ」

 

「何度か炎を吐くタイミングがズレていたな。あれってまさか抑えようとしてたってわけか」

 

「そうとしか考えられない。オレたちは生きているから偶然か何かと勘違いするんだ!」

 

 地に突き刺さった竜殺しの剣が見えて来た。

 

「ロード! 竜殺しの剣だ!!」

 

 走ったままなのでバシッと手で拾う。

 

「わ、悪い竜じゃないとしてどうするんだチュウ」

 

「それは…」

 

「何でこんなことするチー」

 

「わ、わからない」

 

「何かおかしなことはあったチャア?」

 

「おかしなこと……」

 

(たくさんあったような……)

(――剣!)

 

「剣が刺さってた! 真っ黒い剣が!」

 

「剣! だから何だ!」

 

「お腹に剣が刺さったままなんだぞ! 竜だって痛いはずだ!」

 

「そうだチュウ」「痛いはずチー」「その剣が原因チャア!」

 

「そいつを引き抜いちまえば解決すんのか!」

 

「まだわからないけど……」

(もしかして、竜が剣を持てって言ったのはそういう意味だったか?)

 

「どうするチュウ」

 

「ああ、やるよ。竜の怪我を見てやるのは初めてだけどさ」

 

「はん! 行くのは……オレだけどなぁ!!」

 

 また速度を上げて走っていく。

 

「どうやって空のアイツから剣を抜くチー」

 

「どうしよう」

 

 竜が鋭い爪で谷を裂き崩し瓦礫の雨を生み出して降らせた。

 

「うおん!! おおん!! がろあ!!」

 

 何とか避けていく。

 

『グウウウウウオオオオ!!』

 

 竜は炎を吐き出すしぐさを始める。

 だが頭を振り、身体を暴れさせている。

 

(抑えているのか?)

「竜!! やっぱりお前は本当はいい竜なのか!!」

 

 しかし、竜の口から灼熱の炎が吐き出された。

 正面から炎の波が迫ってくる。

 

「そのまま前に走ってくれ!!」

 

 ルロウは炎を恐れず速度を上げて走ってくれた。

 その背でロードは竜殺しの剣を震えなくなった両手で構え、正面に切っ先を向ける。

 炎の波に飛び込んだ。

 剣が加護するかのように竜の炎を消し去って道を作っていく。

 炎を抜けると丁度、竜の真下を通り過ぎた。

 そこでロードはルロウから飛び降りてズザザザザザーーと足を滑らせながら着地した。

 

(飛ばれたら敵わないな)

(まずは……)

 

 大きく息を吸い込んで宣言する。

 

「悪しき竜!! 望んだ通り竜殺しの剣を持って来た!! 降りてこい」

 

 竜がこちらを向いた。

 

「お前を倒してレオリカン王国を取り戻す!! 勝負だ!!」

 

 竜殺しの剣を突き付ける。

 竜はそれに答えるように目の前に着地した。

 

(降りて来た)

(とすると、オレと戦いたいらしいな)

 

 また、竜と対峙する。

 

(やっぱり絵本みたいだ)

 

 竜のお腹には何か刺さっている。

 

(アレは、剣だよな)

 

『グオオオオオオオオオオオ!!』

 

(痛いよな……待ってろ。すぐに抜くから)

 

 悪しき竜と戦いが始まる。

 

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