第457話 策を弄した勝利
ハズレとアニエスの戦いは続いていた。両者ともに一点づつ。
「私をあまり舐めない方がよろしくてよ」
アニエスがスネイクウィップ、右手の方を振る。
ガキンと甲高い音が鳴る、ハズレが炎の剣を振ってはじき返したのだ。
「どうして舐めてると思う?」
「あなた、モードレット界出身でしょう? それならアビリティーアクセサリーの一つや二つ持っているはず、使いなさい」
「残念ながら、うちの家系では買う財産が無くてね」
「そうなら、私の勝ち早くギブア――――」
ハズレが炎の剣を後ろ手に構え、火薬玉を炎の剣の方に放り投げる。すると火薬玉が爆発し、自分の身体を前へと吹き飛ばす。そうアニエスのいる前へとやって来た。
「二点目!」
ハズレがアニエスの首元めがけて剣を振る。
「ハズレ二点!」
審判が叫ぶ。
「驚きました! ハズレ選手、爆発の爆風を逆手に取ってスピードを上げて一気にアニエス選手の元まで近づきました!」
「この攻撃はびっくりです。プロテクトオイルを塗ってないとできない芸当ですが、うまくやりましたね」
実況と解説の声が響き渡る。
「舐めているのはそっちだろう? アビリティーアクセサリーがないと戦えないんじゃないか?」
「くっ――――!」
アニエスは至近距離にいたハズレの身体をムチでぐるりと縛り付けた。そして締めあげていく。
「……確かに私の方があなたを舐めていました。しかしアビリティーアクセサリーがないのなら、あなたは敵ではありま――――」
スネイクウィップで縛っていたはずのハズレの身体が消えた。と言うよりムチの方が体をすり抜けた。
そしてアニエスの喉元に炎の剣が食い込んで行く。
「がぁ――――!」
「今のはとっておき、熱によるオレの陽炎だよ」
ハズレがそのままアニエスを下がらせる。
「ハズレ三点!」
審判が叫ぶ。
「くっ、陽炎……やりますわね」
「出し惜しみしないで、どんどんアビリティーアクセサリーを使うがいいさ」
ハズレが炎の剣を構える。
アニエスはまだ残っていた爆煙の中へ姿をくらました。
「お嬢さん本気で戦いなれしていないな!」
爆煙の中へ飛び込むハズレ、しかしアニエスの足音も呼吸音も聞こえなかった。
この時、
(しまった――罠か――)
ハズレは理解した。
その瞬間――ハズレの横っ腹に次々と光の矢が撃ち込まれた。
「ぐああ!!」
ハズレが爆煙の中から出てくる。
「アニエス二点!」
審判が叫び、ハズレが態勢を整える。そして見た。アニエスが移動してきて両手のスネイクウィップを振るのを、
ガキンガキンガキンガキンと炎の剣で鉄のムチを弾いていく。
「もの凄い物を見てしまいました! アニエス選手が爆煙の中に飛び込んだかと思えばハズレ選手の背後に現れたのです」
「アビリティーアクセサリーのワープホールピアスですね。上手く隠れて、空間転移しましたね。それに加えて攻撃まで転移させました」
この時、
(流石に二本のムチを捌ききるのはきついな。かと言って近づけばまた空間転移させられる)
ハズレは考えに考えた末、
片手で炎の剣を持ち、捌きながら、懐からオイルを取り出した。そしてオイルの瓶栓を口で開け、鉄のムチにぶっかけていく。そうすると炎の剣が鉄のムチに塗られた、オイルに引火して、鉄のムチを所有するアニエスへと火線が伝っていく。
「な――――! あああああああああああ!!」
アニエスは火だるまになった。
「ハズレ四点!」
審判が叫ぶ。
「おっとハズレ選手スネイクウィップを攻略した!」
「これでアニエス選手はスネイクウィップを使うことが出来ませんね。また火だるまにされる可能性がある」
解説者キートが言う。
そしてアニエスはスネイクウィップを元の腕輪に戻して胸元のアビリティーアクセサリーに手を付ける。
「これはまだ使いたくはなかったのですが、そうも言ってられませんね」
「今度爆煙の中に移動しても追わないぞ……?」
「ええ、それくらいわかってますわ。ですからこれを使うのですの。ビーストバースト!」
その瞬間ハズレに風の獅子が突っ込んできて会場のふちにまで吹き飛ばした。
「がはっ!!」
「アニエス三点!」
「おっと、これはどうしたことか! ハズレ選手が場内の壁に吹き飛ばされていきました!」
「ビーストバースト、風の獅子が敵に食らいつき攻撃するという、結構レアなアビリティーアクセサリーです」
「くっ、きっつ――」
「ビーストバースト!」
アニエスが続けざまに風の獅子を放って来る。そしてハズレが近づいていくころには空間転移で離れる戦法を取った。もはやハズレがアニエスに近づけることはない。
この時、
(だから、戦いなれてないって言ったんだ)
ハズレはそう思った。
火薬をありったけ出して、次々と爆発を生み出した。
「ビーストバースト!」
風の獅子が構わず爆発を吹き飛ばしていく。爆風が吹き飛び、爆煙が晴れていく。
しかしハズレの姿がなかった。爆炎に気を取られ見失っていた。
アニエスがキョロキョロと探しても見つからない。一度空間転移をしてその場から移動すると、ハズレはアニエスのいた頭上から攻撃しようとして、失敗に終わった。
「そこでしたの……誰が戦いなれていませんの?」
「そこ、罠だよ」
ハズレが指を差すと、アニエスの視線は地面に突き刺さった炎の剣に目が映るそして、大量のオイルのたまり場に立っていたことを知ると、
「――――!!!?」
炎の火柱が上がった。アニエスに逃げる暇などなかった。
「ハズレ、ご、五点! 勝者ハズレ選手!」
「おおっとこれはどういうことだーー!」
「恐らくハズレ選手はアニエス選手の空間転移の間合いを見計らって計算し、不足の事態が起きたことであの場に誘導したのでしょう。あの大量の火薬の爆発は罠を張るための目くらましだったという訳です」
ハズレとアニエスが並ぶ。
「あなたと戦えてよかったですわ」
「いや~~策を弄するのに苦労したよ」
「礼!」
審判の一言で両者はお辞儀をし、踵を返し、その場から立ち去った。
「何が何だか分からなかった」
ブケンが言う。
「妙な攻撃してくる相手だったな」
グラスが言う。
「ハズレの戦い方、プロテクトオイルが無ければ、大惨事だったな」
ロードが言う。
こうして、次々と試合が進み、Bブロックの試合は終わった。




