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第454話 ブケンの大好物

 イタンシック・ハオストラスタジアム前。

 空の色は夕焼け、風は人々に夜の静けさが近づいてくることを報せていた。

 ハオストラ武闘大会の第一回戦も終わり、会場を後にするロードたち。

 スワンはドルフィーナで荷船を引きながらガックリしていた。

 ハズレはというと、ずっとどこかに行っていたようで、集まりも一番最後にやって来た。

 ロードたちは集まると街の中を散策し、食べ物屋がないか見て回っていた。

 どこもかしこも大会出場者や大会を見に来た観客たちで店は大行列だった。


「ドノミさん残念だったな」


 ロードが口にする。


「はい、自分の未熟さを痛感しました」


 ドノミが自分の弱さを認める。


「いや、キミは強かった。なにせ俺から一点取ったのだから」


 ブケンが褒めたたえる。


「最初、私が契約書に書いたあの技をしたんですよね?」


 ドノミが訊く。


「おっとそこまでだ。まだここにはライバルたちがいる。とっておきの話はなしだ」


 ブケンが口止めする。


「それでスワン。今日はいくら売り上げたんだ?」


 ロードが話題を切り替える。


「……………………はぁ」


 スワンが長い沈黙の後溜息をつく。


「んなしけた面してんじゃねーよ」


 グラスが言う。


「その様子からして売れなかったらしいな」

 

 ハズレが推測する。


「うん、言語が伝わらなくて……銀貨7枚分」


「それではスワンさん、これをあげましょう……」


 ドノミが大会出場者の証イヤリングを手渡す。


「なにこれ?」


「言語翻訳イヤリング。それを付けていればあらゆる人種の言語を翻訳してくれます」


「翻訳するのはいいけど、こっちから話しかけるにはどうしたらいいの?」


「勉強あるのみです」


 ドノミが当たり前のように言う。


「今日はどうやって売ったんだ」


 ロードが訊く。


「なかば強引に、銀貨一枚を見せて、水を差し出した。受け取ってくれる人が少なかったけど」


「明日は私も手伝います。こう見えても5500万の言語を頭に叩き込んでるので……」


「助かる」


「まぁ、賞金100万枚金貨が手に入ったら、飲料店も続けなくていいだろ」


 ハズレが言う。


「違うぞハズレ、スワンは皆においしい水を飲んで欲しくてこの仕事を始めたんだ」


 ロードが言う。


 皆が皆で話していると、


「おい、空いている店がある晩飯はあそこで取らないか?」


 ブケンがいかにもおんぼろな塔を指差していった。


「誰も並んでないんだけど……」


 スワンが不安そうに言う。


「閉店してるのでは?」


 ドノミも言う。


「食えるもんが出て来るなら何でもいい」


 グラスがブケンについて行く。


「まぁ、他に空いてるところもなさそうだし、あそこにするか」


 ハズレが言う。


「おいしい店だといいが……」


 ロードが言う。



 ▼ ▼ ▼



 おんぼろ中の華店。

 塔の中は赤色のカウンターがあるだけでその向こうには無口の店主が立っていた。


「餃子、六人前」


 ブケンが言う。


「あいよ」


 無口な大将が言う。


 皆、小汚い店内を見渡す。


「大将、ここは創業何年目ですか?」


 ハズレが訊いていた。


「さぁな」


 餃子を焼きながら答える大将。


「ところでハズレ、情報収集の方はどうだったんだ?」


 ロードが訊く。


「ああ、忘れてた。優勝候補の名前を聞いていたのさ」


「優勝候補?」


「ああ、誰が優勝するかを観客たちに訊いてたんだが、その能力までは今日聞きそびれた。明日また訊いてくるよ」


「どこのどいつなんだその優勝候補ってのは?」


 グラスが訊く。


「ライズ、ターカウス、ネバーロング、マグマン、メイダー、ユキメ、フンカー、ムサロウ、ヴァーエンだってさ」


「ヴァーエン!?」


 ロードが驚く。


「ん? ヴァーエンとなんかあったか? 確かその選手まだ実力を隠してたような気がするけど……」


「ヴァーエンは予選の時、一緒に背中合わせで戦ったんだ」


「そんなことがあったのか……どんな技を使っていた?」


「背中越しだったから見ていない」


「なるほど……」


 しばらく皆で話していると、おんぼろ中の華の大将が餃子を差し出して来る。


「変わった食べものだな」


 ロードが言う。


「中に肉やら細ネギが入っているのが透けて見えるけど……」


 スワンが言う。


「いただきます」


 ブケンが両手を合わせて礼儀を示し食す。それに続いてロードたちも食べる。


「ん? おいしい……」


 ロードが言う。


「皮を噛んだとたんいい肉汁が出てますね」


 ドノミが言う。


 グラスの方は箸を使わず手でむさぼりつくしていた。


「人がいないから不味いお店かと思ったけど意外といける」


 スワンが言う。


「餃子って言うのか? この料理……」


 ハズレが訊く。


「ああ、オレの大好物の食べ物だ」


 各してロードたちは本日の戦いの疲れをその料理店で癒していた。

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