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第437話 ドノミの事後報告

 林の中。

 ロードたちはベラッタ調査員や荷船の置いてあるテントの前まで戻って来るが、


「誰かいるぞ……」


 ハズレがテントの前に整列する同じ制服を着た複数の男たちを見つける。


「何なんだ? あの人たちは……」


 ロードが呟く。


「たぶん私の要請した、密猟団確保の戦闘員だと思います」


 ドノミがコソコソ言う。


「どうする。触れると面倒なことになりそーだぜ」


 グラスが言う。


「ですね。ロードさん、昨晩話した大事な話、覚えてますか?」


「ああ、覚えてる」


「これを返します」


 ドノミがロードの手にある物を握らせる。


「――――!! 境界破りの鍵……」


 ロードがドノミに預けたこの異世界に入った時の鍵だった。


「あとは手はず通り、何も言わず黙っていてください。上手くやって見せますから」


 ドノミが真剣な面持ちで言う。


「……………………」


 ロードは黙っていた。


 ドノミは無視してテントの方に戻る。


「何あの人たち私の荷船に何もしてないといいけど……」


 スワンがぼやく。そしてその肩をロードに抱かれる。


「スワン、頼みがある。大事な話だ」


「えっ……?」


 赤くなるスワンだがロードの話しを聞くことにした。



 ▼ ▼ ▼



 林の中・テントの前。

 テントの入り口に立っていた管理局の制服を着た男の前にドノミが立つ。

 そして、捕えていた密猟団のフットチームを水を解いて解放するスワン。


「この方たちは違法な手段でこの異世界に入り込んだ。咎人です。校則をお願いします」


「わかりました身元を確認したのち拘束します。その前に――」


 制服の男が身だしなみを整える。


「管理局第3516界拠点所属ナンバー05、ドノミ・モズローネストです。中に入る許可をください」


 ドノミが口に出す。


「モズローネスト氏、お待ちしておりました。中でお待ちかねの方がいます。ごゆっくりお話しください。それからお連れの方々もどうぞ」


 まったく表情を崩さない男が言う。


「わかりました。行きましょう皆さん」


 ドノミはテントの中に入って行く。その声に応じて、ロードたちもテントに入って行くが、スワンだけは止まった。


「スワンさん?」


 ドノミが何故足を止めたのか訊く。


「私、荷船が心配だからそっちには行けない」


「ふぅーーわかりました。ですが荷船の点検が終わったらこちらにいらしてください」


「はい」


 スワンは素直に返事した。そしてドノミがテントの中に入るのを確認して、


 この時、

(ロードは人が良すぎる。まぁそこが取り得なんだけどね。私も後悔したくないから、その頼み受け付ける)

 スワンは何かロードの頼みを聞き入れた。



 ▼ ▼ ▼



 テントの中。


 相変わらず資料が山のように積まれ、地面にばらまかれていた。


 そして、ベラッタと管理局の制服を着た優男が椅子に腰掛けテーブル越しに話していた。


 ドノミたちが入ると会話が中断される。


「……お父さん」


 ドノミが呟く。


「違うよ。今は仕事中だ。デコド・モズローネストだ。ベラッタ氏、4人分の椅子はないかな?」


 ドノミの父親らしき男が訊く。


(ドノミさんのお父さん)


 この時、

(グラスの言った通りややこしい話になりそうだ)

 ハズレは思った。


「椅子は2つしかありません。モズローネスト部長」


「そうかい、悪いけど、ミス・モズローネスト、並びに異世界からの客人。椅子が足りないみたいだ。立ったまま話をしようじゃないか……」


「はい」


 ドノミが答える。


「まず、ミス・モズローネスト。報告書は読ませてもらった。異常の事、密猟団の事、事故によってこの異世界に足を踏み入れた者たちの事。これらの報告書は事実かな?」


「はい」


「結構、では密猟団の件はどうなった?」


「異世界の客人によって――――」


「密猟団はどうなったかを聞いているんだ」


「………………フットチームのメンバー、リーダーメットを筆頭に、グロウ、マーア、パドを捕縛、先ほどそちらのチームに引き渡しました」


「結構、では、スライム達、および無害認定の魔物の異常行動の件はどうなった?」


「はい、突如現れたホラー系スライム、通称バグバニッシャーと名乗っていたスライムが本能の秘宝玉を所持し、その力を使用し巻き起こした事件でした」


「そうか、スライムがこの異世界の魔王祭で使われる、理性の秘宝玉とは別の秘宝玉を使っていた。という解釈でいいのかな?」


「はい」


「そのスライムはどうした?」


「はい、あまりの凶暴さの為、独断で駆除させていただきました」


「デフォルメスライムを殺害したということかな?」


「はい、本能の秘宝玉の力は周囲のスライム達に影響を及ぼし、暴走及び魔物化させられた為、個人で有害と判断これを駆除しました」


「そうかい」


 デコドは指でテーブルをトントンと叩き始めた。


 そしてロードもあることを思い出す。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 それは昨日の夜のこと。ハンモックに寝そべっている時だった。


「ロードさん大事なお話があります」


「何だ改まって」


「明日、魔王祭でスライム達が暴走したら真っ先に飛びだして行ってください。私が許可します」


「いいのか? 何十万匹のスライム達がいるんだろう? 絶対見つかるぞ!」


「構いません。私が許可します。それから、万が一スライムが凶暴化して最終段階の魔物化まで行ったら駆除の対象として抹殺を許可します」


「駆除!?」


「はい、もしロードさんの力が働かず、周りのスライム達に被害が出たらの話ですけど……」


「そんな無害なスライムを殺害するなんて……」


「ロードさん、そのお優しい気持ちはわかります、しかし時には犠牲を出して助かる命もあるのです。ここは一つはいと言ってください」


「答えられない」


「……………………分かりました。好きにしてください。全責任は私が取ります」


「いいのか? スライムに姿を見られても、トンガリに会っても……」


「はい、私が許します。だからロードさん。どうかこのスライム達の世界を救ってください。お願いします」


「……答えよう」


「ありがとうございます。それから私が合図したら異世界へ渡る鍵を使って逃げてください」


「返してくれるのか?」


「はい」



 ◆ ◆ ◆ ◆



「つまり、ミス・モズローネスト氏、キミは独断で有害な魔物と決め、デフォルメスライムを殺害したと……」


「はい」


「それでどのような成果を出したのかな?」


「魔王祭に参加していたあるスライムの力を借りてこれを撃破、暴走及び魔物化したスライム達はすべて元に戻りました」


「その際に起きた失敗はあったのかな」


「多数のスライムに自身の姿を見られ、魔王祭で新たな魔王となったスライムに名前と顔を記憶されました」


「………………分かった。このことは上に報告する。随分重い罰を受けるだろうが、覚悟はあるかな?」


「はい」


「よろしい、そして次だ。後ろの客人は何者か聞かせてもらおうか」


「報告書通り事故によってこの異世界に迷い込んだ魔物狩りです」


「そうか……その人たちにこの異世界の常識は教えたのかな?」


「はい」


「そのうえで、何かをさせたりしたかい?」


「はい、スライムの暴走を止めさせ接触させたり、密猟団に捕らえられたスライム達に顔も隠さず撃退させ、名前と顔を覚えられました」


「それをキミは違反としてわかってやっていたのかな ?」


「はい」


「自分の判断が正しいと思い勝手に動いたわけか――」


「はい」


「よくわかった。キミの身柄は我々、有害認定魔物特殊戦闘員が一時保護する。キミの処遇を本部に戻って決めよう」


「わかりました。どんな処遇でも甘んじて受け入れます」


 ドノミが両手をだらりと下げながら差し出した。


 それに答えるようにデコドは、懐から手錠を取り出す。


 しかし、その時――――――


「スワーーーーーーン!! 来ーーーーーーい!!」


 ドルフィーナがテントを突き破って侵入してきた。荷船も引いている。


「う、うわあああああああああああああ!!」


 ベラッタが叫んでいた。デコドも携帯していた武器を手に構える。


「ロード来たよ!! ハズレ!! グラス!! 乗って――――」


「よし!!」


 ハズレが状況を理解して荷船に飛び乗る。


「わけわからねーが乗ればいいんだな」


 グラスも言われた通り荷船に乗り込む。


「さぁ、ドノミさん!! 行こう!!」


「――行こうってどこへ!?」


「――いいから早く捕まる前にここから逃げるんだ!!」


 その時、テントの入り口から武装した男たちが入って来た。


「止まれ!!」「何だあの生き物」「精霊か?」


 武装した男たちが言う。


「スワンの水のリングで一気に別の異世界へ行く」


 ロードはそう宣言した。


「話が違いますロードさん!! 私は罰を受けなければいけないんです!!」


「ドノミさんは何も間違ってはいない!!」


「――――――!!!?」


 ドノミは力を抜いてロードに身を委ねた。


 ロードはその身体を支え荷船に飛び乗る。


「それでは皆さんごきげんよう!!」


 スワンが言い残して、ドルフィーナを水のリングの中に入り込ませこの異世界から脱出した。


「急いで追いかけよう」「けど、転移装置がここにはない」「奴らがどこへ行ったかも――」


 男たちが慌てふためく。


「追う必要はない」


 デコドが言った。


「ですが部長」


「逃がしたのは私のミスだ。キミたちに責任はないことにしよう。それでどうだ?」


 このデコドの一言に部下たちは黙り込んだ。


 この時、

(たくさんの異世界を見てきなさいドノミ)

 安心した笑顔を浮かべていた。

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