第435話 魔王祭のフィナーレ
ホーン魔王城。
トンガリが気絶していた皆を起こしに来ていた。
「お姫様、お姫様……」
小さなシンプル系のスライムが呼んでいた。
「ん……もう少し……寝てたい」
スライムのお姫様が言う。
「夜に眠れなくなってしまいますよ」
「………………それは困る。夜中は怖いの」
「だったら目を覚ましてください」
「……分かった」
お姫様が目を開く。そして見た、自分を起こしてくれた者の顔を、ごくごく普通のシンプル系スライムだった。
しかも、お姫様と同じように小さく幼いスライムだった。
「あなたは一体……」
「オレはトンガリ、ほら見て見て、秘宝玉、秘宝玉、理性の秘宝玉」
トンガリは水色の秘宝玉を見せた。
「それはまさしく私のお爺様が使っていた秘宝玉の色と同じ……では、あの方の真っ黒い秘宝玉は……」
「あの秘宝玉は魔王祭の秘宝玉じゃなかったんだ。元々自分の物だったらしい」
「そうだったのですね……アレ? あなた、最終試練で最後にゴールした小さなスライムですか?」
「そうだよ、あの卵の殻を被ったスライムは皆を操って悪いことを考えていたんだ。まぁオレたちが倒したからもう心配ないけど……」
「あの新しい魔王さまが悪いことを……?」
「そう」
「……………………」
キョロキョロと周りを見渡すスライムのお姫様。会場の皆も、観客席の皆も、姫のおつきの者たちも眠っていた。
「オレ、トンガリって名前なんだ……キミは?」
「あ、ああ、自己紹介がまだでしたね……私はティアーラ、先代魔王カンムリの孫娘です」
「そうか、よろしく」
「はい……」
「…………皆を起こさないとね……」
「そうですね……」
「ちょっと見てて試したいことがあるんだ……」
「はい」
「理性の秘宝玉よ! 皆を覚醒させたまえーー!」
トンガリが秘宝玉に命じると、空間に波動が広がる。そして、ノッポ大臣たち、ティアーラ姫のおつきの人達、衛兵たちに、会場の魔王祭参加者、観客席にいたスライム達が目を覚まし、段々とざわざわして来る。
「――――お、おう、なんだ? 私としたことが眠っていたのか?」
「大臣、起きましたか?」
「おお、姫よ、ここは魔王城の会場ですな」
「はい、先ほどまで、壇上で秘宝玉の選定をしていて……」
「おお、そうだ。あのホラー系のスライムのお方を探さねば……新たな魔王の誕生だ」
ノッポ大臣が言う。
「違うんです聞いてください……理性の秘宝玉を手にして魔王になられた方は、側にいるトンガリと言う少年です」
ティアーラ姫がトンガリを見て言う。
「……姫よお戯れを、秘宝玉の輝きなら我々はすでに見て――――」
「どうやら、私たちは騙されていたようです。今皆を目覚めさせたのもこのトンガリと言うスライムです」
「――なんと、それはまさしく先代の魔王カンムリ様と同じ色の水色の秘宝玉!」
「オレ、トンガリ、これで魔王になれるんだよな……?」
「はい、トンガリ様、名実ともに今日からこの国、いえ世界中のスライム達を統べる新たな魔王です」
「や、やったーーーー!!」
ポフポフと顔に掛けられたホルンの角笛を吹き、わんぱくにジャンプするトンガリ、喜びは頂点に達していた。
◆ ◆ ◆ ◆
数分後、会場、観客のスライム達は落ち着いていた。
「皆のものよく聞いてほしい。先ほど、新たな魔王が決まったと言ったが、不正な行為があったため魔王祭から追放された。そして先代魔王の意思を受け継いだスライムが今日この場でとうとう決まった。紹介しようトンガリ魔王だ!」
『『『おおーーーーーーーー!!』』』
「トンガリ様何か一言……」
「うん」
トンガリは皆に注目されながらも冷静でいた。
「えっと、オレの夢、魔王になることは叶った。今度はその先、いつまでもスライム達が平和で幸せになる世界にするため頑張る。だから、これからはお願いします!」
トンガリは魔王として自分の考えを皆に伝えた。
『『『おおーーーーーーーー!!』』』
観客たちが盛大に声を上げ新たな魔王の誕生を喜んだ。会場にいた共に競い合ったスライム達も祝福の言葉を投げかけた。そして――
「トンガリ……」
ガボは感動のあまり泣いていた。
「いつの間にか、たくましくなってたんだな」
ニットが言う。
「すげー、すげーよトンガリ」
シーボが褒めたたえる。
「魔王トンガリか強くなったよなーー」
オニブリが昔のトンガリと今のトンガリを比べる。
▼ ▼ ▼
もう一組、トンガリを見守る者たちがいた。彼らは観客席から、トンガリを見ていた。
「川さえ渡れないって、言ってたのにな」
ハズレが喜びながら皮肉を言う。
「もう、アイツは何も怯えねーーあの魔王に立ち向かったんだからな」
グラスが言う。
「トンガリ、頑張った、ホントに頑張った」
スワンが感動する。
「…………これで異常は解決、魔王祭も無事、フィナーレを迎えました」
ドノミが言う。
「……………………」
ロードはトンガリと目が合った。優しく手を振ってやると喜んでジャンプをしていた。
「さて、行こう」
ロードは立ち上がった。ハズレらも後に続く。
「――――!!」
トンガリは去り行く仲間たちに気が付いた。
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草原。
ホーン魔王国を出たロードたちは元いた高台に戻っていく。
「待ってーーーー!!」
その時背後から声がした。
その声の主は魔王になり理性的になったトンガリだった。




