第433話 トンガリの初めての体験
あらゆるスライムがベラッタの言っていた暴走の最終段階と至った。
もはやロードの生命力を奪うという方法も使えない。
更に魔物化したスライムは全部で数十万匹。
絶望的状況だった。
「トンガリーーーー!! トンガリーーーー!!」
ロードが魔王バグバニッシャーの中から聞こえてきた声に反応して呼びかける。
▼ ▼ ▼
そこはバグバニッシャーに食われた者たちがいる異空間の中だった。
密猟団フットチームと何匹かのデフォルメスライムが存在していた。
そしてトンガリだけがその異空間で覚醒し、声を張り上げた結果。
「トンガリーーーー!! トンガリーーーー!!」
という声が聞こえて来た。
「誰!? どこにいるの!?」
「オレのことはどうでもいい。それよりお前はどこにいるんだ!?」
ロードは名乗らなかった。
「えっと、何か不思議な場所にいる!」
トンガリはまるで虹がごちゃ混ぜになった空間を見て言う。
「魔王祭はどうなった!?」
ロードが訊いてくる。
「えっと、魔王は決まった。卵の殻を被ったスライムが新しい魔王に――――」
「騙されてるぞ!! そいつは新たな魔王じゃない魔王祭の秘宝玉ではなく、元から持っていた自分の秘宝玉を使っているんだ!!」
「――――えっ!!!?」
トンガリは驚いた。
▼ ▼ ▼
「ごちゃごちゃと話すなあああああああああああ!!」
魔王バグバニッシャーは触手を差し向ける。ヒラヒラした腕に指のようなものがいくつも生えてる触手だった。
ロードはその触手を斬っていく。
「新しい魔王はお前たちを騙そうとしている!! 秘宝玉を奪ったんだ!! 自分こそが魔王になるために本物の理性の秘宝玉と本能の秘宝玉を入れ替えたんだ!! お前がまだそこにいるなら隠された理性の秘宝玉がその中にあるはずだ!! 探せ!! 探して使いこなすんだ!!」
ロードはトンガリに言う。
「り、理性の秘宝玉だと!?」
魔王バグバニッシャーは驚く。そして、口を開けて何かを吐き出そうとしていたが、ズバンと首元をロードに斬られる。しかし、それではバグバニッシャーは倒せず、斬られた首の顔の口から新たなバグバニッシャーが現れた。
「トンガリは吐き出させない。吐き出したいならオレを止めて見ろ」
「ええい、魔物たちーーかかれ!!」
温厚なスライムだった魔物たちがロードに襲い掛かっていく。
▼ ▼ ▼
トンガリは異空間の中を彷徨い秘宝玉を探していた。
そして、きらりと光る透明色の丸い宝石が発見された。
「あ、あった――――!!」
トンガリはその秘宝玉に近づいて行く。その時、異空間の中からヒラヒラの腕をした触手がいくつも伸びてきていた。
「小さきスライムそれはお前には勿体ない代物だ。諦めろ!」
異空間内にバグバニッシャーの声が聞こえた。
「うるさいオレは、オレの世界に平和をもたらす魔王になるんだ!」
「オレにレースで負けたくせになれるわけがない。そもそもオレとお前が対等に秘宝玉を扱えると? うぬぼれるのも大概にしろ子供スライム!」
トンガリの元に触手が巻き付いてくる。
「う、うわあああああああああああああ!!」
▼ ▼ ▼
「トンガリーーーー!! くっ!!」
ロードの方も足を触手に絡めとられ、それをきっかけに切ろうとすると、今度は両手が縛られて、魔王バグバニッシャーの背中の上まで引き寄せられた。
「このまま取り込んでやる。そうすれば二度と出られまい」
魔王バグバニッシャーが背中の口を開ける。
「トンガリ!! 受け取れ!!」
ロードが赤い剣を開かれた口の中に落とす。そしてそれはトンガリの目の前に現れた。
トンガリは縛られたまま、剣を咥える。そして――――
「――――――!!!?」
トンガリはその剣の手のぬくもりを感じていた。
そして思い出す。初めてであったこと、初めて川を渡ったこと、初めて洞窟に入ったこと、初めて崖を登ったこと、初めて魔物に乗ったこと、初めて体当たりを成功させたこと、初めて密猟団という悪者からスライムを救ったこと、初めて他のものを守り抜いたこと、初めて魔物に立ち向かったこと、初めて仲間が出来たことを思い出した。
(ロ、ロード……そうだ、声が聞こえたんんだ)
(いつも心の中から聞こえてきた声、アレはオレの声だと思っていた)
(けど、違った。この声だ。見えないけどわかる)
(アレはロードの声だった。いつも勇気をくれるロードの声だった)
(そうだ、だから今日の魔王祭にも頑張れた。だってロードの声が聞こえて頑張れと言っていたから)
トンガリは受け取った剣を振りまわして、絡まった触手を斬る。
(秘宝玉ーーーー!! オレはここまで来たぞーーーー!!)
口に剣を咥えながら心の中で叫ぶ。そして――――トンガリが秘宝玉に触れる。
すると――
▼ ▼ ▼
「ここはもう俺様の異世界だ!! 道の秘宝玉もいずれオレの眷属使魔の物になる。だからここでお前を終わらせる!!」
バグバニッシャーがロードを背中の口に引きずり込むとき――
光がバグバニッシャーから漏れ出した。
「ぐ、ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
バグバニッシャーはたまらず顔の大きな口から自分を出して避難する。
そしてトンガリが、抜け殻となった魔王の皮から出て来た。
「ロード!! ロードだ!! そうだよロードがオレをここまで強くしてくれたんだ!!」
「トンガリ、お前記憶が――(もう決して会わないつもりだったが、思い出してくれたか、嬉しいな)」
「うん!! 何もかも思い出した!! それにほら見て!!」
トンガリは水色に輝く理性の秘宝玉を見せて来た。
「頑張ったな、それはもう、お前のものだ……」
「うん!!」
ロードとトンガリは笑い合う。そして――
「理性の秘宝玉だろうが何だろうが、この戦力差をどう補うってんだ!?」
一万以上も集まったスライムの魔物たちを味方につけ、バグバニッシャーが言う。
「お前の魔王像はオレが否定する。勝負だバグバニッシャー!!」
そこには新しい魔王の姿があった。




