第431話 本能的に動く者たち
魔王バグバニッシャーが本能覚醒と言う能力を使った。
5対1の構図から、一気にロード対バグバニッシャーの構図となった。
ハズレは逃走本能で戦線を離脱、グラスは戦闘本能で辺りを破壊し、ドノミは母性本能で守り、スワンは本能覚醒に当てられ頭痛を起こしていた。
「…………皆に何をした」
ロードが訊く。
「人間にも生まれついての本能がいくつかある、それ暴走させた。もう自我は保ってられない。一人づつ倒して――」
その時、ロードは両手に剣を構えて飛び出した。そして魔王を斬ろうとするが、卵の殻にガードされる。しかしその圧倒的腕力で吹っ飛ばして、他の建物に激突させた。そして誰もいない地面に落とす。
「痛――――!?」
目の前に剣を突きつけられる魔王バグバニッシャー。
「皆を元に戻せ――」
ロードが怒りを静かにこめて言う。
「お前、俺様を舐めすぎだ――――戦闘形態――!!」
魔王バグバニッシャーの身体が変貌した、それはウーパールパーとクモを足して背中に数十本の触手を出した姿だった。
(これがこいつの戦闘形態)
「一匹づつ殺おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおす!!」
魔王バグバニッシャーが雄叫びを上げる。そしてロードに向かって大きな口を開き、食いちぎらんと迫る。
「――――!?」
ロードは後ろに下がって距離を取ったが、その時見た。バグバニッシャーの口の中から、もう一体のバグバニッシャーが現れてロードとの距離を一気に詰める。さらにロードは後ろに下がったが、また、バグバニッシャーの口の中からバグバニッシャーが現れた。ロードが避けたことにより建物は倒壊した。
(こいつ……分身か!?)
ロードは最初に口を開いた魔王バグバニッシャーの方へ向かい剣で斬りつけた。すると霧散化していった。
(た、倒した? ――――!?)
しかし分身と思われるバグバニッシャーは健在していた。
(どういうことだ)
「一匹づつ殺おおおおおおおおおおおおおおおおおおす!!」
またもバグバニッシャーの口の中からバグバニッシャーが飛び出した。十分避けられる距離だったが、その時、ロードを庇うものがいた。それはドノミ。
(何を――――!?)
「あなたは私が守ります」
鉄棒を構えてバグバニッシャーの攻撃を受け止めようとするドノミ。
「は、離れろおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ロードはドノミの方へ駆け寄り、ドノミを押し倒してバグバニッシャーの噛み付き攻撃を食らった。
「くっ――――!!」
ロードは何とか口を腕力でこじ開け、食い込む牙を身体から外した。
「ロードさん!」
ドノミが叫ぶ、しかし正気な目をしていなかった。
その時、バグバニッシャーの姿がスライムの姿に変貌した。
「フ、フハハハハハ、何だこの光景!? そいつを庇って、俺様の牙にやられたか? 母性本能だからな~~年下を見るとつい庇いたくなったんだろう、フハハハハハ、にしても、いいざまだ」
魔王バグバニッシャーがあざ笑う。
「どういうことだ……本体は斬ったはずだ。なんで生きてる?」
「ん~~? 何でだろうなああああああああああああああ!!」
魔王バグバニッシャーの姿が戦闘形態に変わる。そしてドノミがロードを守りに行くが、その時、ロードは後姿のドノミに手刀で首元を攻撃し、気絶させた。倒れたことで、バグバニッシャーの攻撃を避け、ロードも距離を取るが、無数の触手がもの凄い速さで迫ってくる。
「双剣乱舞!!」
ロードは双剣を素早く振り回して迫るすべての触手を斬り落とした。
(ふぅ~~何とかしのい――――)
しかしその時背後から建物が投げ飛ばされてきた。
「がはっ!!」
ロードは敵意なきグラスの大暴れに巻き込まれた。そして、魔王バグバニッシャーの牙が迫る。
「く――――ミチル!!」
避けきれないと判断したロードは青い剣の効果で空を飛び躱す。左肩と右わき腹から出血したままで、建物の陰に隠れることにした。
(傷口を俺自身の生命力を使って塞ぐか)
そう行動をとった時、ハズレが近くにやって来て同じく隠れた。
「ハズレ――――!? 一体どうしたんだ?」
「やり過ごすんだよ。あんな化け物と戦えないって――」
「何を言ってるんだ!? アイツを倒さないとこの異世界は――――!?」
その時、ロードは見た。震えるハズレの姿を、肩を抱いて怯えるハズレの姿を、
(これが逃走本能ってやつの原因か)
ロードはハズレに手伝ってもらうことを諦めた。代わりに、
「あの魔王の分身が何か分からないか?」
ハズレの頭の良さを借りることにした。
「分身じゃない……本体だ。多分……抜け殻、脱皮みたいなことをしているんだと思う。確か本能の秘宝玉だったし、戦闘形態時にある発動条件もあるんだろう」
「発動条件?」
「それは対象者を狙う。言って見ればあらかじめ目的を設定して、それに向かって本能のまま相手を狙う能力だ」
「よく分からない」
「例えば秘宝玉をアイツから奪ったとする。そうするとあいつは取り返そうとするだろう? その時本能のままに秘宝玉を取り戻すためが相手からがむしゃらに取り返そうとする能力だ。その間は本能のままに大暴れするって言った方がわかりやすいか……?」
(……秘宝玉を奪うと本能的に取り戻すまで狙われ続けるってことか、あのフットチームはもしかしたらこの力にやられたんだろうか)
ロードはハズレから情報を得た。
「ありがとうハズレ、後はオレに任せてくれ」
「ああ、頼む」
ハズレと別れる。ロードの傷はもう塞がっていた。
「どこだああああああああああああああああああああああ!!」
バグバニッシャーが建物を破壊し、木を切り裂き、ロードを探していた。
「オレならここだ!!」
ロードは建物の上からバグバニッシャーを見下ろした。
「そこかああああああああああああああああああああああ!!」
魔王バグバニッシャーが口を開いて、次なるバグバニッシャーを出現させる。ハズレの話によるとこれこそが本体という話だった。
「なら、避ける必要はない!! ミチル!!」
ロードは飛ぶ斬撃を放った。
「ぎゃあああああああああああああああ!!」
バグバニッシャーはもろにミチルの斬撃を食らった。そして元のスライム状態に戻る。
「くっ――――何だ? いってーな」
ロードはバグバニッシャーの落ちた地面に着地した。そして再び、15メートルの光の剣を宿して魔王に差し向ける。
「これで終わりだ。魔王バグバニッシャー」
ロードが剣を振り上げて、振り下ろす。
「守れ――――!!」
その時、ロードは振り下ろす剣を止めた。
「な、に……」
ロードは驚いた。目の前に無害認定のスライムの大群が現れたからだ。
(これでは光の剣を振るえない。振るうと罪なきスライム達を巻き添えにしてしまう)
ロードは光の剣を引っ込めた。
「フハハハハハ、何だーー? 絶好のチャンスを踏みにじって、ありがとよ。おかげで助かったぜ」
「礼ならスライムたちに言うんだな」
ロードは魔王バグバニッシャーの術中にはまりつつあった。




