第420話 第3試練、空中待機
残りの魔王祭参加者スライムは223匹。
「高跳びを失敗したものは速やかに会場の階段から降りるよう」
衛兵長が近場の衛兵に敗者たちを誘導するよう指示する。
高跳びを失敗したスライム達は泣いていた。特にほとんどのホラー系がじっと固まり、涙だけを零していた。
この時、
(えっ、私ホントにここにいて言い訳? 退場していったスライム達を見てると居心地悪いんだけど……)
スワンは本気で観客席に向かうか悩んでいた。
「ガボ、オニブリ、頑張れよ」
シーボは泣きながら会場の下り階段を下りて行った。
「シーボ」
トンガリも見送っていた。
「よく頑張ったぞ!」「ドンマイドンマイ!」「すぐ立ち直れるさ!」「ここまでよくやったよ!」
一方観客たちの方はわーーーー!! わーーーー!! と魔王祭で敗退していった選手たちを励ましていった。
「さぁ、難関を突破した魔王候補たちよ。第3の試練に挑んでもらうぞ」
衛兵長が宣言すると、笛を吹いて合図を出した。
すると会場の周りから鳩のような魔物ポポが飛び立った。しかし、ただ飛び立ったわけではない4匹のグループに分かれて木の板にくくり付けている紐を、足に絡ませている。その木の板は丁度スライム一匹分。
この時、
(また無害認定の魔物ポポだ)
スワンは思った。
「魔王祭参加者諸君、ポポの引く木の板に乗りたまえ! ポポの数が限られてる為乗るのは早い者勝ちだ!」
スライムの衛兵長が言う。
ポポたちが会場に木の板を置いていく。ポポたちのグループはおよそ100はあった。
会場に集まったポポに怯える者もいれば、次の試練にワクワクする者もいた。
「よしこいつに決めた」「オレはこっちだ」「今度はどんな試練だ」
アニマル系たちは意気揚々と正方形の木の板に乗った。
「キミは大きすぎる今回は特別に不戦勝としよう」
「よし」
衛兵長がビッグスライムに言う。
卵の殻を被ったスライムも木の板に乗り込もうとしたが、
「悪いな、早い者勝ちなんだ」
オニブリが乗り込んだ。
「………………」
卵の殻を被ったスライムはブツブツ言う。
「トンガリ早く乗らないと……」
スワンが次々と木の板に乗り込むスライムたちを見て言う。
「でも板がない」
トンガリが言ったその時、
ピピーーーーと笛の音が鳴った。
「そこまで――第1回戦を行う。木の上に乗った者はしっかり掴まるように」
「何をするんですか?」
スワンが衛兵長に訊くが、
「それはこれから説明する。えーー木の板に乗り込んだら、合図とともにポポたちが空中に皆を浮かせる! そこで1分間耐え抜くのだ! もし無理ならギブアップと宣言するんだ。ポポたちがゆっくりと降ろしてくれる!」
衛兵長が言う。
「空を飛ぶってことか」「マジか」「こ、怖すぎるだろ」「無理無理、ギブアップします!」
魔王祭参加者が数名と木の板から降りていく。
「今ならまだ不戦敗に出来るが、もう覚悟は決まったようだな! でははじめ!」
衛兵長がピーーと笛の音を鳴らす。
すると一斉に空へ飛び立ったポポたち。それに引かれて木の板も水平を保って宙に浮く。
「うわわわわわわ!!」「おおおおおお!!」「まままままままま!!」「ひいいいいいい!!」
あわあわするスライム達、高度約5メートル木の板が上がって止まる。
「では、一分間耐え抜いてくれ!」
衛兵長が言うが、
「ギブアップ!!」
早速ギブアップ者が出た。静かに降ろされる選手。
「ギブアップ!!」
あと55秒のところでギブアップ者が出た。それは立て続けに起こり。30秒になる頃にはスイーツ系たちがギブアップして全滅していた。
そして、あと10秒のところでじっと固まっていたウィング系たちは、
「なんか居心地悪い」「オレたちは自由に空を飛ぶんだ」「木の板で飛ばなくていいんだ」
ウィング系のほとんどが自分の翼で飛び立ち、ルール違反を犯していた。
ピピーーーーと笛の音が鳴る。
「――空を飛んだもの失格! なんぴとたりとも木の板から離れてはいけない!」
そして、3、2、1、0秒になることで一回戦は終わった。
「はぁ、はぁ」「こ、怖かった」「何とか乗り切った」
試練をクリアしていった者たちが息を切らしていた。
「次――乗り込みなさい、そして敗者は早々に退場するように!」
衛兵長が言う。
「ガボ、クリアおめでとう頑張れよ」
「オニブリ、無理だったか?」
「ああ、怖くてギブアップした」
オニブリはそう言って退場していった。
「トンガリ大丈夫?」
「大丈夫だって、オレはいけるって心の中の声が言ってるんだ」
トンガリは空いた木の板に乗る。
「それでは、第2回戦はじめ――」
ピピーーーー!! と笛の音が鳴るとポポたちは一斉に飛び立った。
「無理ぃーー!!」「ごめん母ちゃん!!」「魔王になれそうにない!!」「降ろしてーー!!」
早速ギブアップ者が続出した。
「しがみつくだけ、しがみつくだけ」
トンガリはその言葉だけを繰り返し、目を閉じていた。高度5メートルはスライム達にとって恐怖だったようだ。
しかし、トンガリはしっかりじっと止まって、1分間を待っている。そしてもう一匹、卵の殻を被ったスライムも微動だにしなかった。
そして、あと10秒ほどのところで、ウィング系たちが木の板の居心地の悪さに耐えかねて、自分の翼で羽ばたいて失格となった。
ピピーーーー!! と笛の音が鳴るとゆっくりと木の板を降ろすポポたち。
「やった」
スワンがトンガリを見ながら言う。
「やった? やった……やったよ! スワンやったよ!」
トンガリが大はしゃぎで試練のクリアを喜んだ。
観客たちは成功者を称え、脱落者たちを励ました。
「では残り23名も乗りなさい」
衛兵長が第3回戦を始める。
そんな中、スワンとトンガリは話していた。
「トンガリ! よくやったね!」
「うん! 声が聞こえたんだ! しがみつくだけでいいって……」
「えっ、それって――(危ない名前を出すところだった)」
スワンはもうロードの名前を出さないことにしていたのだった。
この時、
(ロードの声を覚えてる?)
スワンはそう思った。
1分後。
「空中待機終了!」
ピピーーーー!! と笛を鳴らしポポたちがスライム達を降ろしていく。
残ったのはアニマル系40匹、ホラー系1匹、シンプル系10匹、ネイチャー系15匹、合計66匹になった。
ウィング系とスイーツ系はここで全滅した。




