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第405話 正しいことと間違っていること

 そしてドノミは高校生の頃の話をし始める。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 学校の廊下。

 ドノミの学校は小中高一環だった。


「モズローネストさん」


 クラスメイトに呼ばれる。


「はい?」


 ドノミが振り返る。


「あ、あのーーまた、一位おめでとうございます」


 緊張して言う女子生徒。


「はぁーー」


 何を言ったらいいか分からないドノミ。


「それで私たち、一度モズローネストさんとお話してみたいなって……」


「すみません。忙しいので……」


 ドノミはその場から立ち去った。


「あっ」


 残された女子生徒たちはヒソヒソと話していた。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 食堂。

 ドノミが食事を取っていると、


「あ、あの~~モズローネストさん……」


 小声で声を掛けてくる女子生徒。


「やめときなって迷惑だよ」


「あの人いつも一人だし」


「勉強以外興味ないんだよ」


「何か、話しかけにくいよね~~」


 数人の女子の集まりが小声でヒソヒソ言っていた。


 ドノミは食事を終わらしてサッサと立ち去って行った。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 ある日。

 学校の廊下。


「あなた達――静かにしなさい。皆さんの迷惑でしょ」


 ドノミは騒いでいた女子たちに注意した。


「あっ、モズローネストさん」「ご、ごめんなさい」


 女子生徒たちが謝る。


 そして階段でも、


「階段の踊り場で話し込まないで! 皆の迷惑でしょ、下校時間だし帰りなさい」


 ドノミが女子生徒たちを叱る。


「モズローネストさん」「は、はい」「すみません」


 女子生徒たちは解散したが、



 ◇ ◇ ◇ ◇



 ある日。

 学校・談話室。

 ドノミはマダムに呼び出されて一対一で話をしていた。


「ドノミさん。生徒たちからあなたに苦情が来ていますよ」


「?」


「ただ教室で話していただけで注意されたり、道を走っただけで注意されたり」


「そういう規則だったので注意しただけです。他意はありません」


「あなたはそうかもしれませんが、もう少し周りの視線を気にしてはどうですか……?」


「私は正しいことを口にしたまでです。規則にもしっかりと書いてあります」


「人は規則やルールに従うだけの生き物ではありませんよ、誰もがあなたのようになれるわけではないのですから」


「それではダメです、正しいことをしなくては、正しい管理なんて出来ません。そんな人たちに管理は相応しくないと思います。私の様にならないと――――」


「モズローネストさん、あなたはどうやら管理について勘違いをしているようですね。勉強も大変よろしいですが、まずはそこから考えてみてはいかがですか? 今のあなたではとても管理の職に向いているとは思えません」


「――――!!」


 尊敬していたマダムに言われて驚くドノミだった。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 自室。

 レポートを書いていたドノミ。


(管理職に向いてない?)

(そんなはずはない……私はちゃんと自分を管理してきた。たくさんのルールを守った)

(そして何より一番を取った)

(私は正しい……正しい答えを出したから一番になったんだ)



 ◇ ◇ ◇ ◇



 ドノミの実家。

 久しぶりに帰って来たが、


(今日もお父さんもお母さんも仕事か)


 机の上に置かれた置手紙を読む。内容はドノミと会えないことを謝るものだった。


(魔物たちがきっと手に負えないんだ。早く私も手伝えるようにならないと……)



 ◇ ◇ ◇ ◇



 ジョギングをするドノミ。


(健全な精神は健全な身体から……)



 ◇ ◇ ◇ ◇



 ある日の講義。


「よろしいですか皆さん、明日から管理委員会の方が視察に来られます。成績優秀者の講演会も見に来るのでくれぐれも粗相のないよう、節度を持って接してください」


 マダムが言う。


(とうとう来た。この時が……)


 ドノミは真剣な面持ちになった。



 ◇ ◇ ◇ ◇


 

 講義会場。

 その日は成績優秀者による講演会が行われていた。


「い、以上が……私の夢です。き、聞いてくださってありがとうございました」


 お辞儀をする女子生徒。軽い拍手が会場から湧き上がった。


「では次――ドノミ・モズローネストさん」


 タタタッと階段を上がり壇上に上がるドノミ。そして――


「私はドノミ・モズローネストです。管理職に就く上での私の意気込みを語りたいと思います」

「私は子供の頃から管理の仕事に憧れて、勉強や大人の人たちの言うことを聞き守って来ました」

「私は正しいことを学び、規則やルールを守ることが大切なのだと学びました」

「その経験を今私が住む故郷の管理を行うことで生かしたいと思います」

「正しい行為にしたから私は一番になれました。なので、私はこれからも今ある規律とルールを大切に――」


 その時、会場にいた管理職の男性が手を上げた。


「すいませーん。質問いいですか?」


「はい」


 ドノミは即答した。そして――


「あなたの言う。正しいことってなんですか?」


「それは規律とルールを守ることで……」


「その正しい規律とルールというのは?」


「毎朝同じ時間に起きて、規則正しい食事を……」


「それは、基本的なことですよね。あなたの考えを聞かせて欲しいんです。あなたが間違っていると思うことは何ですか? あなた以外の人のことですか?」


「……………………」


 ドノミは黙り込んだ。


「あのーーーー聞いてますかーー?」


「間違ってること…………それは……(分からない、正しい私しか知らない)」


 ドノミは困った顔をした。何も言い返せなかったのだ。


 そして時は過ぎ、講演会は幕を閉じた。


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