第396話 無害認定の魔物なのか?
クラゲ型の魔物にフィッシュ系スライムが取り込まれていくのを見た一同は驚いていた。
「どうすればいい? アレも無害なんですか?」
スワンがドノミに訊く。
「この異世界にいる魔物は全て無害な魔物です」
ドノミが考え込みながら言う。
「倒しちゃいけないのか?」
ハズレが問う。
「でもスライムが取り込まれていったけど……」
スワンも心配になる。
「グラス!! スライムを吐き出させてくれ!!」
目の見えないロードが叫ぶ。
「――――!!」
右手の指に5本、左手の指に5本、短剣を引っかけたグラスが構えるの態勢を取る。
グラスは短剣を飛ばし、魔物に突き刺す。そして飛ばした短剣からは糸が伸び、
「オラァーーーー!!」
グラスが強引に糸つきの短剣をを引っ張って、魔物を大きな貝殻の家に激突させた。
しかし、魔物に大したダメージはなく、それどころか刺さった短剣を触手で引き抜き、下部の口で捕食していく。
短剣を捕食されていくことで、糸に引きずられるグラス。
「オレのもんを取るんじゃねーー!!」
短剣を引っ張るグラスだったが、魔物の捕食には逆らえずどんどん引き込まれていく。
「待てグラス!!」
ロードが叫ぶ。
「離すと思ってんのか!! このタコが!!」
グラスは引きずり込まれないように耐えるが、その努力も無駄だった。
「皆さん、た、倒さないでください」
ドノミが言う。
「でもでもドノミさん」
スワンが現状を見て抗議しようとする。
「そんなこと言ってる場合じゃないぞ?」
ハズレも事の重大さに気が付いていた。
「うおおおお!!」
グラスがクラゲの魔物に捕食された。
「「「――――!?」」――グラス!!」
一同が驚き、その中でもハズレが引きずり込まれたグラスの名を呼ぶ。
「ハズレ! グラスがどうかしたのか!!」
目の見えないロードが訊く。
「食われた」
ハズレはそれだけ言う。
「――――!!」
「何でこんなことが……」
ドノミは不審に思う。
「どんな魔物だハズレ」
「見たことないけど……クラゲのようなトゲと触手だらけの魔物だろ」
ハズレが見たままの姿を言う。
「どうしたのロード、フラフラしてる」
立ち上がったロードを見てスワンが言う。
「目が見えない」
「何!?」
ハズレが驚く。
「突然の光にやられた……」
ロードは目を抑え、まったく関係のない場所を向いていた。
「ドノミさん、ロードを連れて離れてくれ」
「な、何する気です?」
「奴を倒す」
「そんな――――無害認定の魔物は倒せば罪になって……」
「このままグラスを見捨てるわけにはいかないだろ!? 後で罪でも何でも書いてくれていい、だから今は止めないでくれ! ――ここはオレに任せろロード!」
ハズレが走り出す。
「私もやる!」
スワンも走り出す。
「動けるかスワン」
「平気だって」
「待ってくださいハズレさん! スワンさん! この異世界の魔物を倒すことはさせません」
その前にドノミが立ちふさがる。
「どいてくれドノミさん」
「そういう訳には――――ひゃあ!!」
ドノミが魔物の触手に絡まれた。
「ドノミさん!!」
スワンが叫ぶ。
「ちっ!」
ハズレが純銀の剣シラユリヒメを引き抜いて触手をぶった切る。
ドノミは何とか絡まった触手から抜け出した。斬られた触手は霧散化していく。
「危ないぞ! 食われたいのか!」
ハズレがドノミの方向を向いた時、ハズレの腕に無数の触手が絡みつき引きずり込む。
「――――!!」
「水霊の剣」
スワンが辺りの水を剣の形に変えて、両手にその剣を纏わせて振り被っていく。そしてハズレを絡みつかせた触手が切られていく。
「ドノミさん、ロードをお願い!!」
スワンが言う。
「ハァ!! (グラスが中にいるから焼くことは出来ない。気を付けることはロードの言ってた光ってのは何のことか)」
迫る触手を斬りながら考えるハズレ。
「水霊の手!」
スワンが両手を上げると、周囲の水溜りが腕の形に姿を変える。
そして、クラゲの魔物をガッチリと水の手で掴む。
「ハズレ! 捕まえた! 後は頑張って!」
「わかっ――――!?」
その時、クラゲの魔物は異様な行動に出た。煌びやかに装飾された4本の触手を差し向けて来た。
「スワン! 目を閉じろ!」
ハズレは直感だけで言う。
「えっ!」
スワンは反応に遅れてしまった。
クラゲの魔物はカアーーーーっとハズレとスワンに光を浴びせる。
「えっ……何? 景色が白く」
スワンは目の前が真っ白になった。
「わっ!」
スワンが触手に絡めとられ引きずり込まれる。
「スワン!」
ハズレがサポートに向かう。
バシャーーーーっと水溜りの上を滑るスワン。そして引きずり込もうとする触手を斬るハズレ。
「大丈夫か! スワン!」
「ハズレ何が起きたの!? 何にも見えない!」
スワンが訊くが、またしても触手に絡めとられたスワン。
「わーーーー!! ハズレ何が起きてるの!! ちょっとスリルがあって楽しいけど!!」
「スワン! (届け!)」
引きずり込まれるスワンの手に、ハズレは手を伸ばして掴んだが、
この時、
(届いたはいいが、どうにもならない。済まないロード)
ハズレはスワンと共にクラゲ型の魔物の中に引きずり込まれた。
「――あっ!」
ドノミがその光景を見ていた。
「あわわわわわ」
トンガリが恐れおののく。
「どうしたドノミさん!」
ドルフィーナに跨るロードが訊く。
「ハズレさんとスワンさんが食べられました」
「何だって!」
クラゲ型の魔物がこちらに向かって触手を伸ばしてきていた。
「とにかく一度離れましょう。触手が来ます」
ドルフィーナに跨るドノミ。トンガリもドノミの頭にしがみつく。そしてその場から離脱する。
「ダメだ! 降ろしてくれドノミさん!」
「何を言ってるんですか! 今のあなたは目が見えないんでしょう!? 何も出来ずに食べられてしまいます!!」
「逃げよう逃げよう!」
トンガリも言う。
「トンガリまで……だけどスワンとハズレが!」
ロードは抗議した。
「一度目の状態を見せてください。それからもう一度戻ってこればいいんです」
「待ってくれ! たしかあの魔物は!」
「待てません……こうしてる今も触手が来ています……あなたまで食べられたら終わりでしょう! 体勢を立て直して作戦も考えましょう!」
ドノミが説得する。
ドルフィーナに乗ってクラゲ型の魔物から離れるロード、ドノミ、トンガリだった。
(スワン、グラス、ハズレ……)
ロードは一度、見捨てなければならない状況に涙が零れそうになった。
クラゲ型の魔物はスワン、ハズレ、グラスたちを取り込んだことで肥大化していった。




