第392話 優しさエンカウント
空き家に戻って来たロードは早速スワンに水を渡した。
スワンはコップに唇を付け、少しずつ少しずつ、水を喉に通していく。
「水、美味しいか……」
ロードが恐る恐る訊く。
「うん、美味しい……元気出る」
「良かった」
その時、トンガリが空き家の入り口から入ってくる。トンガリはロードに頼まれてグラスたちを自分たちの居場所まで案内させたのだった。
「ロード! みんな連れて来た……レベルアップした!!」
「ありがとうトンガリ、レベルアップだ」
「わーー! やったーー! 30だーー!」
「何なんだこのスライム達は敵かと思ったぞ……」
ハズレが空き家に入り込むなり、ロードに愚痴る。
「すみません。近くにホラー系スライムの町があったこと言い忘れていました」
ドノミがそそくさと入ってきて謝罪する。
「いいんだ。それよりも薬草は見つかったか……?」
ロードが確認する。
「はい! 取ってすぐに熱湯に浸したヒエタイヨ草を数時間つけておくことで、ヒエタイヨポーションが出来るんです。スワンさんこれを、熱さや痛みが少し和らぎます。厳密には治るわけではなく症状を和らげる薬ですので……」
ドノミがヒエタイヨポーションの瓶を渡す。
「は、はい」
スワンが薬を受け取り、早速飲んで行く。
「どうだ? スワン」
ロードが薬を飲んだ感想を聞く。
「スッキリするけど不味い」
スワンが感想を言う。
「あとは日に3回に分けて服用し続けてくだされば、明日にでも出発して大丈夫です」
ドノミが淡々と説明する。
「そうか」
ロードが安堵の息を漏らす。
「スワンの件も片付いたところで、オレたちも何か食べないか?」
ハズレが提案する。
「ハァ? あるじゃねーか、食いもんなら」
ホラー系の持って来たお見舞いの品に手を付けるグラス。
「ん? なんの冗談だ?」
ハズレがいびつな形の食べ物を見て言う。
「ああーーーー」「ああーーーー」
ホラー系たちが落ち込む。
「――――!!」
ロードが落ち込みに気づく。
「流石にこれ、口に運べるものじゃないだろドノミさん」
「いえ、食べられますが、私は遠慮します」
ハズレとドノミがそんな会話をしていたところ――
「オレは食べよう。見た目が悪くても……このスワンのお見舞いの品はスライム達の優しさなんだ。とても美味しい物を選んできてくれたはずだ」
ロードは果物らしきものを一つ取りかじる。
「グラス、一つ取って……」
弱々しい声のスワンが果物を要求する。
「……………………」
何も言わずスワンに果物を投げるグラス。
「ありがと……」
スワンは果物を受け取ってかじる。
「あああ」「まずい?」「あーーごめんねーー」「ああ~~」
「うん、大丈夫……おいしいよ。私の為に皆、ありがとね。お見舞いすごく嬉しい。お花もありがとう」
スワンは最大級の笑顔でお返しした。
ロードとグラスが歪な形の果物を食べている。
「仕方ない……新しい味に興味がないわけでもない」
ハズレも観念して果物を食べ始める。
「う、よく、食べられますね……」
ドノミが引いていた。
「ドノミさんも皆も食べていいんだぞ、スワン一人じゃ食べきれない」
ロードがホラー系達にも勧める。
「ああーー」「ああーー」
ホラー系たちはムシャムシャと果物を食べ始める。
「うわあーーーー、気持ち悪いよーー」
トンガリが感想を言う。
「トンガリ、レベルアップのチャンスだぞ。新しい味を完食してみろ」
ロードが励ます。
「レベル、アップ……うん。あっ、美味しいぞ、これ……オレ好き」
「ああ、よかったーー」「ああ~~~~」
「ドノミさんもホラ」
ロードが果物を勧める。
「えっ私は――」
「皆で食べよう新しい物」
ロードに言われるがまま、困った顔で差し出された果物をかじるドノミ。
「ああーーよかった」「皆で食べるの楽しい」「おいしくなる、オレ、美味しい」
ホラー系たちが言う。
「皆で食べると? うん……悪くはないみたいです」
皆で食事をするのもまんざらではないドノミだった。
「……」
ロードは口角を吊り上げた。
「ロード、ハズレ、グラス、ドノミさん、トンガリ、ありがとう」
スワンが皆にお礼を言った。
「ハン……」
グラスが食事を続ける。
「おう」
トンガリが返事をする。
「ど、どういたしまして……」
ロードが言う。
「スワンの得意技満面の笑みか~~威力あるな~~」
ハズレがぼやく。
「薬のおかげかな……身体が楽になって来た。お礼を込めて皆に水の踊りを披露します。私のこの気持ちを今すぐにでも伝えたい」
ベッドから起き上がったスワンが踊りの準備をするが、
「「「今日はダメ」」」
皆が言う。
「えっ! でも何か感謝したい」
スワンが言う。
「満面の笑みで十分、今は美しい寝顔の方が感謝になるだろ」
「美しいはやめてよ~~」
「オレとロードの公認だ。喜んでいいぞ」
「もう」
そんなハズレとスワンの会話を聞いていたある人が、
「いいなーー」
ドノミが吐露した。
「ん?」
真横にいたロードが聞いていた。
「あっ! 何でもありません!」
ドノミが慌てて誤魔化す。
◆ ◆ ◆ ◆
深夜のホラー系の町。
ロードたちはスワンを寝かしつけて空き家から出てきていた。
「スワンも寝たことだし、オレたちも寝よう」
ロードが言う。
「というか、済まないな~~、ドノミさん、こんなスライムの村に堂々と立って」
ハズレが飾りだけの謝罪をする。
「それは今後の働き次第です」
ドノミがメモ帳を取り出し、今回の件をメモしている。
「……………………」
グラスは何も言わない。
「うち来る?」「あーー寝ていいよーー」「そういえば、ああーーどこから来たんだ?」「変わったスライム何系?」
集まったホラー系たちが訊いてくる。
「有難い申し出だけど……遠慮しておくよ」
(ドノミさんの後ろからの圧が凄い)
「それより最近、何か変わったこととかないか? 誰か暴れたとか……」
ハズレが話題を切り替える。
「変わったこと……」「今日、谷でウィング系スライムが倒れてた」「朝起きたら飛びたくなったって言ってた」
「ああ、あのスライム達か」
ハズレが思い出す。
「無事帰ったのかな」
ロードが言う。
「他には……」「オレらも皆朝起きたよ」
「えっ? 皆?」
「どうしたんだドノミさん? 何かおかしいか?」
「それがデフォルメスライムのホラー系は夜行性なんです。朝は普通寝る時間で、一匹や二匹はともかく……全員となるとおかしいです」
ドノミが不審がる。
「起きただけか? 誰か暴れたとか……?」
ロードが訊いてみる。
「ん?」「覚えない……」「でもないと思う」「でも、確か、ちょっと元気になった~~」「うん、身体が楽になった」「朝なのに眠くなかった」
ホラー系たちが情報を整理していた。
「こいつらが元気ねーー不吉の予兆か?」
グラスが冗談を言う。
「暴走じゃなくて元気なら問題ないな」
ロードは問題なしと判断する。
「……………………(朝、元気……? 何か引っかかる)」
ハズレは思考をフル活動させたが答えは出なかった。
「ロードさん……またトンガリさんの記憶を消しますね……」
「ああ」
「ん? 何?」
トンガリが反応する。
「何でもない、最後まで一緒だ」
ロードが言う。
そして、ドノミはトンガリを抱きかかえ森の方へと戻っていく。
「また野宿?」
「はい」
ドノミとトンガリは何気ない会話をしていた。
「どうしたハズレ?」
ロードは考え事をしているハズレに気づく。
「――! いや、なんでもない。ケンカや暴走じゃないから思い過ごしだ」
「何の話だ?」
「お互いスワンの心配しすぎたって話さ」
その夜スワンは心地よく眠っていた。




