第388話 病気になったスワン
森の中。
木を背中にもたれ掛かるスワン。病気になったと言い、ドノミが診る。
「その……昨日からちょっと体が熱くて、けど、大したことはなかったんだけど……さっきの戦闘の後、急に痛くなってきて……身体に力入れて動こうとすると……焼けるような、しみる様な痛みが出る」
スワンが包み隠さず言う。
「口の中は?」
ドノミが訊くとスワンがアエーーと舌を出して口内を見せる。
「異常なし……吐き気や頭痛は?」
「ない」
「腕触りますよ」
ドノミがスワンの左袖を捲り上げる。
「ひっ」
痛かったのか声を上げ、腕にいくつかの染みが出来ていた。
「お腹……見せてもらってもいいですか?」
ドノミが訊く。
「……………………」
スワンがロードたちを見る。
「向こう向いててください」
ドノミがスワンに気を利かせる。
「オイ、ロード」
ハズレが背中を向ける。
「あっ、ごめんスワン」
ロードも急いで背を向く。
「うん」
静かに言うスワン。そしてドノミに腹部を見せるスワン。その素肌には複数の染みがあった。
「――はい、もういいです。そいえば精霊の術を使ってましたよね」
「そういう精霊と似た体質なんです」
「これはマキショク病ですね」
「?」
一同はポカンとした。
「マキショク病?」
もう向こうを見なくていいロードが訊く。
「はい、風邪や熱中症ではありません魔物の放つ気に当てられたんです」
ドノミが言う。
「魔物の放つ気?」
「こういう魔物しかいない異世界では多いんです。焼ける様な、しみる様な痛み、そして体の各所が薄く変色します」
「変色!」
ロードが驚く。
「それは移るのか?」
ハズレが訊く。
「いえ、それは大丈夫です。多分スワンさんしかこの中ではならないでしょう。それにこの異世界でマキショク病が発生した例はありません……スワンさんは精霊の性質があったからだと思います。精霊って魔物の対極の位置ですから……」
ドノミが説明する。
「身体の方がこの異世界に拒絶反応をおこしているのか ?」
ハズレが訊く。
「近いです」
「じゃあ、この異世界から出さないといけないのか?」
ロードが言う。
「それが一番、処置として早いですけど、この病気そんなに重くはありません」
「というと?」
「一時的な山場さえ乗り切れば、耐性が出来て良くなるはずです」
「一時的なものならオレの道の秘宝玉の力で何とかならないか?」
「あの回復はやめた方がいいです。彼女の体に耐性をつけさせるためには、このままにしておく方が……回復では治してもまた同じことが繰り返されるだけです」
「命に危険は?」
ハズレが大事なことを訊く。
「ないです。精霊でも同じことです。まぁもっと凄い環境ならですがこの異世界ではないはずです」
「………………ハァ、ハァ」
スワンが静かに呼吸する。
「とはいえ今は安静にさせないと――」
「命の心配がないなら大丈夫……早く出発しよう」
スワンが息を切らしながら提案する。
「何を言ってるんだ? スワンがそんな調子で出発なんて出来ないだろ」
ロードが傍に駆け寄る。
「でも早くしないと密猟団が……」
「わかってる。だが」
「だったら私を置いて先に行って、ドノミさんについて貰えればいいから」
「………………」
「うう――うう」
その時スワンは胸を抑えた。
「スワン!!」
「だ、大丈夫」
スワンは強がる。
「やっぱりダメだ。こんな状態のスワンを置いて先に行く気になんかなれない」
「……ロード」
「ドノミさん、直ぐに良くする方法はないのか?」
「えーーっと、そうだヒエタイヨ草……ここから半日かけたところに、その症状を和らげる薬草があります。それを薬にすれば今より楽に行動できるはずです」
「よし、それを手に入れよう」
ロードは言う。
「オレとドノミさんでドルフィーナに乗ってすぐ取って帰ってくる。それでいいかロード?」
ハズレが決めた。
「ハズレが?」
「ロードはスワンの側についてやれ、何かあった時その回復は役に立つかもしれない。それに看病は得意だろ?」
「分かった」
「グラスも待っててくれ、ロードとスワンの二人を頼む」
「どの道あの生物には二人までしか乗れねーだろ……」
グラスがドルフィーナを見て言う。
そしてハズレとドノミは、荷船から解放されたドルフィーナに跨って即座にヒエタイヨ草を取りに行った。




