第386話 トンガリ隊として選ぶべき選択
日が昇り出発の時が来た。ロードたち一行に光が差し込む。
「んーーーー」
眠りから目覚めるスライムがいた。トンガリである。
「起きたかい、トンガリ……おはよう」
挨拶をしたのはロードだった。
「――――えっと、誰さん?」
トンガリは寝ぼけている訳じゃなくて本気で訊いていた。
「……………………」
ロードは少し寂しい顔をした。
◇ ◇ ◇ ◇
昨日の話し合いの最中だった。
ドノミには管理人として譲れないものがあった。
「これまで皆さんが会ったスライム達は問題ですが、あれくらいならすぐに忘れるでしょう。ちょっと変わったスライムくらいだと思ってくれているはずです。もし覚えていても噂程度で流されます。ところが1日以上も一緒にいると対処した方がいいです」
「昼間言っていた、トンガリにオレたちのことを忘れさせるっていう話か?」
ロードが訊く。
「はい、ここでトンガリさんとは別れるべきです。今ならちょっとした思い出程度の記憶で済ませられるでしょう。ホーン魔王国なら私が案内できます。この子の記憶を消す必要はありません」
「……………………」
ロードが眠るトンガリを見る。
「本当は記憶は消すべきなんですけど……」
ドノミが譲歩している。
「ロード、真面目なドノミさんの気が変わる前に決めよう」
ハズレが言う。
「私はここで別れたくないけど、記憶を消さないで一緒にいられないのかな。なんだかもやもやするなんとかならないかな……?」
スワンが名残惜しそうに言う。
「スライム達の世界でオレたちの記憶が悪影響になるのなら仕方がない。ドノミさん、トンガリはまだ旅をしないといけない」
「記憶を消す方向でいいですか……?」
「別れるだけなら記憶を残しても、今はトンガリ隊なんだ。一緒にホーン魔王国に行く、それまで別れないトンガリはオレたちの仲間だ」
ロードがトンガリを撫でながら言う。
「わかりました皆さんがよろしいのならそうしましょう」
◆ ◆ ◆ ◆
「誰さん?」
トンガリがロードを見て訊く。
「何だいトンガリ寝ぼけているのか?」
ハズレが話しかける。
「えっ、誰? なんでオレの名前わかちゃったの?」
「何言ってんだ仲間だろ」
「仲間?」
「そうそう一緒にホーン魔王国に向けて旅をしようってトンガリ隊になったでしょ」
スワンも話を合わせる。
「んーーーーそうだっけ? でも覚えてないなーー」
トンガリが難しい顔をする。
「しょうがない……オレはハズレ、後ろで突っ立ってるのがグラス、隣に座ってるのがロード」
「私はスワン、こっちはドノミさん……後ろにドルフィーナ」
「お前のレベルは27だぞ覚えているか?」
ロードが口にする。
「え、オレが27!!」
「そうだ顔に掛けてあるホルンの角も取って来たんだ」
「うわホントだ角笛がある! そうかーオレの仲間かーごめんなー全然思い出せないよ。やっぱりオレじゃ魔王になんてなれないのかなー」
自信を無くすトンガリ。
「その為に昨日あんなに頑張ったんじゃなかったか……」
「えっ?」
「そんなお前にこの言葉を送ろう。頑張ってその努力は無駄なんかじゃない。いつかあなたを助ける為の力になるから」
「オーーーーカッコいい」
とんがりが憧れの眼差しで見るが、
「ちょっとロードさん!!」
ドノミさんは顔が真っ赤になった。言うまでもなく今の言葉はドノミのマニュアルに書き加えられた一文である。
「ど、どうしたの? ドノミさん」
動揺するドノミを見てスワンが訊く。
「おおーー、わかった! 今日も頑張るぞ!」
「さぁトンガリ、フルーツをどうぞ、朝食だよ」
スワンがトンガリに取ってきたフルーツを差し出す。
「うわーーありがとうスワン」
「む~~~~~~」
顔を真っ赤にしたドノミさんが鉄の棒で何度も何度も地面をカンカンと突っついていた。
「恥ずかしがることないのに……」
ロードが言う。
「ああ、さっきの言葉彼女が書いたものだったか……?」
ハズレが言う。
そして一行はトンガリの食事を終えるとホーン魔王国に向かうのであった。




