第384話 ドノミとの交渉
ドノミの頬はロードの手にそえられていた。ロードは生命力を受け渡してドノミを治療しているところだった。
「あのー聞いてませんでしたが……どうしてここに?」
ドノミが目の前にいるロードに質問してみる。
「――?」
ロードは眉を吊り上げた。
「私を追ってこなければこんなタイミングでここへは来られないはず……どうして追って来たんですか? あのまま私を連れ去られたままにしておけば、あなた達は逃げられたはず……調査員ではないんでしょう?」
ドノミが至極当たり前のことのように言う。
「――! 外のスライム達の頼みもあるがこれかな」
ロードはドノミが落としたマニュアルを見せる。
「私のマニュアル? こんなものを返すために?」
「ああ、大切なものだと思ったんだ。ずっと持ち歩いていたからないと困るかなって」
ロードがドノミにマニュアルを返す。
「……はい、困ります。助かりました」
ドノミはマニュアルを抱きしめる。
「良かった。凄い分厚い本だな、オレじゃあ、覚えきれない」
「私もです。ないと仕事になりません」
ドノミが笑みを浮かべる。
「でも、最後のページのは覚えたよ」
「えっ!!!?」
「頑張って、その努力はきっとなりたいものに辿り着く道になるから……」
「ちょっと忘れてください!」
「何でだ?」
「それは私が書き加えた文なんです!」
「ドノミさんが?」
「負け惜しみみたいな……恥ずかしいモノで!」
「いいや、恥ずかしくない。カッコいいよ」
ロードは笑みを浮かべた。
「……………………」
ロードの純真無垢な瞳から目を逸らすドノミ。
「ドノミさん」
ロードはその名を呼ぶ。
「……はい」
「オレたちがここに来たのは別の異世界で、暴力をふるっている魔王を倒すための、手がかりを探しに来ているからなんだ。だからスライム達の異世界を壊しに来たとか、ドノミさんたちの迷惑をかけに来たとかじゃない。気を付けるようにするけど、身体が勝手に動くのは止められないんだ。だから少しの間……許して欲しいんだ」
ロードは優しく語りかける。
「私の仕事はスライムの異世界を守ることです。立場上許すことは出来ません」
「そっか」
「はい……助けてもらったのに力になれずごめんなさい」
「分かった、この鍵を渡しておくよ」
ロードは境界破りの鍵を出した。
「何の鍵ですか? コレは?」
「この異世界に来るのに使った鍵だ。それが無いとオレたちはここから出られない。預かっていて欲しいんだ」
「どうして私に?」
「今はまだ捕まるわけにはいかない。けど、全部が終わったら、ドノミさんの言う通り然るべき場所に行くよ」
「全部……」
「スライムの異常も……あの密猟団も捕まえて解決し、オレたちの罪を軽くする。その時はドノミさんの言葉が欲しい」
「つまり、あなた達を私が悪い人ではなく、スライムの世界を救ったって証人が欲しいんですね? 真面目な人」
「引き受けてくれるか?」
「ええ、どの道あなた達よりあの密猟団の方が問題です。私一人では捕まえられませんし、力を貸していただけるのなら、私からもぜひ協力を頼みたいです」
「ありがとう」
「それに実は、このマニュアルには密猟団や不法侵入のことは書いてありますが、スライムを助ける人をどう扱うかまで書いていません。当分は保留ですね」
ドノミがホッと息を吐く。
「よし治った」
ロードがドノミの頬から手を離す。
「――!! ホントだ」
ドノミはほっぺたを触るがもう痛みはなくなっていた。
「これもいるよな」
ロードが強引に管理委員の帽子を被せる。そして二人は立ち上がる。
「ロードさん、助けてくれてありがとうございます」
ドノミがペコリとお辞儀をする。
「ん? ああ」
「おおーー仲直りしたのか? よかったーー」
トンガリが喜ぶ。
「別にケンカしてたわけじゃないぞトンガリ」
「じゃあなんだったんだ?」
「仲間になるための前置きかな」
「おおーーーー! 仲間ーー仲間ーー! やったーー増えたーー! よろしくな誰かさん」
「ドノミです」
「よろしくなドノミ、今から仲間だ」
この時、
(仲間…………)
その言葉の響きを心地よく思うドノミだった。
「ロード! こっちは終わった!」
スワンが100くらいのスライムを解放して連れてきていた。
「こっちもだ。皆、外に出よう」
ロードたちは密猟団の待ち合わせ場所から出ることにした。
◆ ◆ ◆ ◆
山の中。
外で待っていたフルーツ系のスライム達は、家族、友達、恋人と感動的な再開をしていた。
「助けてくれてありがとう」「パパーーママーー」「誰も怪我してないか?」「良かった無事で」
「気を付けて帰ってくれ」
ロードが忠告する。
「はい」「ありがとう」
「何だこれ、スライムが集まってる」
その時、ハズレとグラスがやって来た。
「ハズレ、グラス」
ロードが二人の名を呼ぶ。
「やっと来た」
スワンが言う。
「やっとだってよ」
グラスがハズレに言う。
「分かってる足の速さでは負けたよ。で、どういう状況だ? ドノミさん説得できたのか? 一緒にいるみたいだが……」
ハズレが状況を確認する。
「ああ、全部終わったら大人しく捕まるって感じで……」
「捕まる!!」
ハズレが驚く。
「オイ、ジョーダンじゃねーぞ!」
グラスも反論する。
「ロードそれ聞いてないけど――」
スワンも抗議する。
「つまり、キミの方が説得されたのか?」
ハズレが言う。
「落ち着いてくれ! 全部解決すればドノミさんがオレたちの証人になってくれるんだ! きっとうまくいくさ」
ロードが説得する。
「確かにアイツらを捕まえれば許してくれるかも……」
スワンが呟く。
「ハァ? 意味がわからねー」
グラスが口に零す。
「まぁいい、場所を変えて話そう。今回は疲れたよオレ」
ハズレが提案する。一行は山を下山することにした。
「……………………」
ドノミがロードたちの後姿を見ている。
「ドノミさん行こう」
ロードが呼ぶ。
「あっ、はい!」
すぐさま後を追うドノミ。
この時、
(そうだ、私は自分の仕事をこなさないと、まずは密猟団を――)
ドノミはロードたちと協力する道を選んだ。
◆ ◆ ◆ ◆
夜空。
それは空を飛ぶ機械、ボールのような形をし、片手でぶら下がる取っ手がついていた。
「あーーせっかく苦労して集めたのにーー」
坊主頭の黒い男が言う。
「たかがスライムに苦労も何もなかったでしょパド」
オカマ口調の黒い男が言う。
「そだね」
「キャプテン妙な話じゃないか……精霊の女にあのやけに強い管理人……こんな世界に配属されるか?」
ドレッドヘアーの男が言う。
「オレが知るか」
先頭を行くメットが言う。
「じゃあ、グロウは何者だと思う?」
「さぁな」
「それよりスライムはどうするんだ? また集め直しだよ?」
パドが訊く。
「もうスライムはいらん」
キャプテンメットが言う。
「「「――――!!」」」
「代わりに良いことをスライム共が言っていた……秘宝玉がこの異世界にある」
「それはいい」「やったね」「確かにスライムより破格の値だ」
「そいつ一つ見つけて奴らの移動装置でも使えばもうポットはいらん」
「キャプテンに賛成」「スライムも人質にすれば上手くいくね」「当然のことを口にするなパド」
「でも、まずはフットメテオに帰らない?」
オカマ口調の黒い男が言う。
「ダメだ、マーア、奴らの応援が来る前に全部終わらせる」
グロウが言う。
「で、場所はどこかな?」
パドが訊く。
「探す。フットチーム全力を持って探せ! その秘宝玉のある魔王祭が起こる場所を探し出せ! また1日後フットメテオで落ち合おう」
メットが答える。
「「「了解」」」
散会する密猟団フットチームだった。




