第373話 助けの声
ロードたちは全員シャワーを済ませ、管理局専用の制服に着替え、トンガリを筆頭に村まで目指す。
いくつもの丘を越え、畑を越え、林を抜ける。
タンタンッとジャンプするトンガリに続くドノミさんも加えたロード一行。
今進んでいるのは地面がデコボコの岩場だった。
「レベルアップレベルアップ! 険しい道を通ってレベルアップ!」
トンガリが進んで行く。
「精霊まで持って来るなんて後で送り返していただきますからね」
ドノミさんが注意した。
「ハハハ、入界パスを見つけ次第すぐにでも」
ハズレが苦しいところを突かれる。
「トンガリーー離れすぎてるぞーー止まれーー!」
ロードが呼ぶ。
「この道はフーサ村の方でしょうか」
ドノミさんが呟く。
「どんな村なんですか?」
スワンが訊く。
「デフォルメスライムのアニマル系が集まっている村です」
ドノミさんが言う。
▼ ▼ ▼
草原。
トンガリが岩場から出た。タンタンと雑草の感触を確かめるようにジャンプしていた。
「よーし! レベル11にアップだ! やったぞ険しい道をクリアしたぞーー!」
喜ぶトンガリ。
「おめでとうトンガリ」
拍手を送るロードだった。
「ロードの言う通り簡単だったぜ」
「あの~~ロードさん?」
府とドノミさんが話しかける。
「?」
振り返るロード。
「スライムとの交流は控えてください。記憶を飛ばすと言っても禁止されていることに変わりはありません」
「そこまでのことか?」
「理由はなくても禁止です。それにこれから村の近辺に向かうんですよ。あのスライムを今、他のスライムと接触させるわけにはいきません。私たち人間の存在は万が一にでも知られるわけにはいかないんです」
「そ、そうだったな」
「お願いします。私たちはスライムの文化を守るためにここにいるんですから」
(守る……か……)
「村だぜ! アレがフーサ村だぜ!」
ピョンピョン跳ねるトンガリの向こうには家の群れのようなものが見えた。
「入界パスを探しましょう。一体どこに落としたんですか?」
ドノミさんが尋ねてくる。
「オイ、どうするんだ……?」
ロードがハズレに訊く。
この時、
(……………………)
(思ってた村と違う。トンガリサイズに丁度いい家じゃないか)
(こんな所じゃ、ドノミさんに気づかれず消えることなんて出来ない)
(とにかく皆で探すフリをして、ドノミさんの隙をついて逃げるか)
ハズレはそう考えた。だが――
「ロードさん……探してきてください。私たちは待ってます」
ドノミさんに取り仕切られた。
この時ロードはドキッとして、ハズレもつい口から、いっ! て言葉を発した。
「いやここは皆で探した方が……」
ハズレが提案する。
「何を言ってるんです。村はすぐそこです。スライム達に見つかるリスクを増やしてどうするんです」
ドノミさんは譲らない。
「もう気絶させた方が速いだろ」
グラスがヒソヒソと言う。
「それはバレてからの対処法じゃない?」
スワンがヒソヒソと言う。
「? 何か?」
ドノミさんが訊く。
「いえ、何でもないです」
冷や汗をかくスワン。
「行ってこいロード」
ハズレがロードの肩を抱き寄せる。
「だが……」
「適当に歩くだけでいい、後はスライムに拾われたということにする。そこで捕まる話になるなら強行手段だ」
ハズレが宣告する。
「ロード! 皆!」
ホルンの角笛を顔に掛けて、ポフポフと鳴らすトンガリが目の前にいた。
「――――!!」
「あれ! あれ!」
トンガリが荷物で指示した方向を見ると何やら騒ぎがあった。耳をすませば、うわあああ! という叫び声がした。わーーわーーとスライムがスライムに追いかけられていた。
「!?」
「スライムが騒いでる?」
スワンがポツリと呟く。
「またケンカでしょうか……?」
溜息を吐くドノミさん。
「助けてーーーー!!」
その時、その一言にロードは反応した。助けを欲している声だ。
ロードは即座に走り出して襲われているスライム達の元に向かう。
その移動速度にトンガリは驚いた。
「はぁ!!」
ドノミさんもその軽率な行動に驚いた。
「しまった」
ハズレが頭を抱える。
「がああああああ!!」
アニマル系スライムが同じ系統のアニマルスライムを襲っていた。
ネコ型のスライムが、羊型、リス型、ウサギ型のスライムを追い回していた。
「止まってよ~~」「だ、誰か助けて~~」「うわぁ~~~~」
スライム達は逃げていた。
そしてロードが駆けつけて襲い掛かるスライムを鷲掴みにし腕を上げ宙に捉えた。
「があああああ!! がああああああ!!」
捕まってなお暴れるがロードの力の前では逃れることは出来なかった。
「落ち着け、暴れるな――――そこのスライム! こいつはどうしたんだ」
「だ、誰?」「分かんない、いきなりそんなんなちゃった!」
アニマル系からは大した情報は貰えなかった。
「悪いスライムなのか?」
ロードが訊く。
「違うよ~~友達だよ~~」
友達と言われるそのアニマル系はロードの手の内でがああがああっと暴れていた。
(生命力がだだ漏れだな……吸い取れば大人しくなるか)
ロードは生命力の吸い取りを試してみた。スーーーっと力を吸い取るとダンダン、ネコ型のスライムが力を失っていく。
「う……」
暴れなくなったところでロードは生命力を吸い取ることを辞めた。
「よし、もういいか」
ロードはネコ型スライムを地面に降ろした。
「うわ~~どうしたんだ?」
友達のスライムが訊いてきた。
「眠っただけだ」
「ありがとう誰か知らないけど」「ありがとう」
お礼を言うアニマル系たち。
その時、シュッと玉ねぎ型の装置がロードたちの目の前に突き刺さった。その正体はスリープシード。
「――――なんだ!!」
その先端からシューーーーシューーーーと空気を変換しスライム達の眠気を誘う。
「う……」「くう……」「ぐーー」
眠りつくアニマル系。
「スライムの前に姿を現すなんて何を考えているんですか!?」
注意したのはドノミさんだった。
「――――!! 済まない助けてあげたかっただけなんだ」
ロードは顔を俯かせた。
「だから例えどんな理由でもスライム達の前に出てはいけません! そういう決まりなんです! 調査員であっても、それは守っていただかないと!」
「済まない、ドノミさん。あとでよく言っておくよ」
ハズレがやって来る。
「それより早くこのスライム達を茂みに持って行って記憶の方を飛ばさないと……」
スワンも助け船を出す。
「ハァーーーーそうですね。他のスライムに見つかる前に運びましょう」
ドノミさんがまた深いため息をつく。
その時フーサ村の方からわーーわーーとスライム達の叫び声が聞こえて来た。
「「「――――!?」」」
一行は何事かと思った。




