第372話 このスライム界でやることは秘宝玉の情報収集
スワンがシャワーを終えてくる。そして次の人を呼んでいた。
「グラス先に行け……」
ロードが促すと地べたに座っていたグラスが立ち上がる。
「ああ」
「ドノミさん彼にシャワーの使い方を教えてくれ丁寧に……」
「分かりました。では行きましょう」
ドノミさんがグラスを先導する。向かうはシャワーテントだった。
スワンがテントの隙間からドノミさんとグラスが去るのを見る。
「それで何かわかった?」
単刀直入に聞くスワン。
「ああ、スワンの言う通りデフォルメスライムは無害みたいだ」
ロードが言う。
「スワン、彼女が戻ってこないか、そこで見張っていてくれ。もう少し調べたい」
ハズレが立ち上がる。そしてテントの中の資料を物色していく。
「これか……」
ハズレが資料を見ていた。
「何を調べる?」
ロードが訊く。
「彼女が言ってた管理の事、話が見えない」
「えーと、組織全体の名前としてディメンションガーディアン多世界管理局」
ハズレが必要な部分だけ読み込む。
「何をするところだ?」
ロードが資料を物色しながら訊く。
「たくさんの異世界を人間の手で管理し、そのままの異世界の秩序を維持する」
ハズレが簡潔に言う。
「多世界の管理? 聞いたことない、人間が……」
スワンもドノミさんたちを覗きながら会話に混じる。
「詳しく読みたいが長すぎる。今はこのスライムの異世界優先で調べる」
「第3516界保護管理デフォルメスライム界、部署、オニオン山に拠点を置く」
ハズレが読み上げる。
「どこ?」
「さぁ?」
「部署の構成員は現在5名、主な仕事はスライムを観察し記録すること」
「世界全土を巡回し気候、環境、文化などの調査」
「それだけか?」
「いや、他世界におけるデフォルメスライムや他の温厚な同種の魔物たちをより安全な、こちらの環境に移送するのも請け負っているって」
「怪我をした魔物たちを治療し、再び放し飼いにすることとか」
「もちろん自分たちの存在は知られないよう対応すると書いてある」
「じゃあドノミ・モズローネストさんはいい人なんだ……」
スワンが機嫌よく言う。
「あの人に直接聞いてみるのもいいんじゃないか? 秘宝玉のこととか……」
「いや、いい人には違いないだろう」
「けど、この管理局の人というのも違いない」
「あの人はオレたちのことをスライムに起きた異常を調べに来た調査員ってことになってる」
「見ろ、ここにある……特例以外でこの異世界でスライムとの接触は固く禁止されている」
「もしオレたちが調査員でないとバレたら、捕えられてしかるべき場所に連れて行かれる」
「――――!?
「然るべき場所?」
スワンが訊く。
「それはここには書いてない」
「とにかくバレていいことはないだろう」
ハズレが言う。
「どうしてそこまでここに関わったらいけないの? 他世界に関わっている人はたくさんいるし、スライムが温厚ならむしろ関わるべきじゃ……」
「人間が関わるとスライム達の独自の文化が崩壊するらしい」
ハズレがノートを見ながら答える。
「管理者たちはそれを阻止するために人間の存在を知られることに一番、気を配る。徹底的に配慮している」
「オレたちは完全に招かれざる客だ」
「入界ってのは……管理側が許可した連中だけ許されている」
「オレたちはここに書いてある通り不法な入界者だ」
ハズレが次々ページを捲りながら言う。
「オレの境界破りの鍵で来たのにか?」
ロードが訊く。
「でもそれは事故だ。正直に話せば……」
スワンが意見する。
「この異世界、どうやら来るのにとても大変らしいぞ……よく分からないが、何重にも壁を作って万が一にも、この異世界に人が迷い込んだり、魔物や悪人の侵入を阻害してるって、鍵で扉を開いて来ましたなんて説明で許してくれると思うか?」
「確かに、そもそもロードの鍵は特殊すぎて、危ないものじゃないとは言い切れない」
スワンが見張りながら言う。
「じゃあこの異世界から手を引くか?」
ロードが訊く。
「いや、せっかく秘宝玉の情報がありそうなんだ。ここで手に入れたい。幸いまだ怪しまれてないもしもの時は鍵で脱出も考えよう」
ハズレが考えを言う。
その時、ドノミさんが着替えたグラスを連れて戻って来ようとしていた。
「ハズレ! 戻ってくる!」
スワンが焦る。
「よし……取りあえずオレたちは調査員ってことにしておく。ドノミさんには悪いが近くの村へ行って撒こう。この異世界でやることは秘宝玉の情報を入手すること、その為にトンガリにホーン魔王国まで連れて行ってもらう。いいな」
ハズレが指一本たてて話をまとめた。
「「うん」」
二人は頷く。そうすると元の位置にそれぞれ戻った。
そしてザッとテントの入り口が開き、グラスとドノミさんが入ってくる。
「この方終わりましたので次の方どうぞ」
ドノミさんが催促する。
「ハズレ、グラスにもオレたちの方針を伝えてくれ、シャワーは先に行く」
ロードが席から立ち上がる。
「ドノミさんオレにもシャワーの使い方を教えて欲しい」
「分かりました行きましょう」
コクンと頷いて、ロードをシャワーに案内するドノミさんだった。




