第368話 ヒューマンエンカウント
道端。
ロードたちの前に現れたのは人間だった。見慣れぬ制服を着て、右手には背丈の倍くらいある鉄の棒と、左手には分厚い本が抱えられていた。
そしてその女性は切りそろえられたロングのストレートヘアーだった。
「人?」
ロードが呟く。
「何だちゃんと人もいる異世界だったのか……?」
呑気に言うハズレ。
「よーし! エンカウントだ! 戦うぞーー!」
トンガリが女性に向かって飛び出した。必殺の体当たりをお見舞いしようとしたのだ。
「待てトンガリ!」
ロードが制止の声を掛けるが、トンガリには届かなかった。
「心配いらない無害だから……」
スワンが軽く言う。
「体当たりーー!!」
ダッと女性に攻撃するトンガリ。しかし――
本を腋に挟んでいた女性は、バシッと左手で捕まえて受け止める。
「うわぁ!! 捕まった! レベルダウン!」
トンガリは身体を動かして離れようとしていた。
「良かった、捕まえられただけだ」
ロードが安堵する。
「あっ、トンガリの心配してたのか……」
スワンが勘違いを正すよう口にする。
女性はトンガリを捕まえたままロードたちの元へトットットッと足音を鳴らして近づいて行く。
「う~~~~やれると思ったのに~~ホルンの時は出来たのに~~」
嘆くトンガリ。
そして女性はロードたちを見てこう言った。
「先日……到着したと聞いて、探していたのですが、ようやく会えましたね」
「えっ?」
スワンが不思議がる。
「私は第3516界保護管理部、管理委員のドノミ・モズローネストです」
ペコリとお辞儀をして見せた。
「この度はわざわざご足労頂いたこと感謝します。とはいったモノの……既にスライムを調査していたようで、仕事が速いのはいいですが、やはり入界時にはきちんとした手順を踏んでいただかないと困ります。今回は到着時、私も本部を開けていたので確認に遅れてしまいましたので追及はいたしませんが、今後は気を付けてください……上層部に報告しなくてはいけないので……」
ドノミさんの話を聞いて――
「オイ、さっきから何を――」
ロードが口にすると、ハズレに口元を手で覆われる。
「気を付けよう」
ハズレは真面目に言っていた。
「お願いします……ではここで入界の手順を行いましょう……まずは……」
左脇にトンガリを挟み、左手で鉄の棒を持ち、右手で分厚い本を広げていく。
「いえ、何をおいても一刻も早く着替えですね……他世界への移動は未知の病、環境汚染に繋がりますから。本当は身も服装も清潔な格好で来ていただくのが普通ですから、これは報告しておきます」
バタンと本を閉じるドノミさん。スワンはドキッと、ハズレはギクリとした。
「それじゃー、オレたちはどうすれば……」
ハズレが訊く。
「ではついて来てください。近くにテントを張っているので……そちらで着替えていただきます。シャワーもご一緒に……」
ドノミさんが踵を返す。
「分かったそうしよう」
ハズレが了解する。
そうするとテクテク歩いて道案内をするドノミさん。
少し離れたところでハズレはロードの口を解放した。
「ハズレ、何故本当のことを言わない」
ロードが密かに言う。
「あの人、私たちを誰かと勘違いしているみたいだけど……」
スワンが不安になる。
「わかってる。ただ彼女の話を聞く限り、オレたちがこの異世界の招かれざる客だと知られると面倒なことになりそうなんだ……慎重に行こう。この異世界、思っていたよりも複雑そうだ」
ハズレがそう言って、一行は仕方なくドノミさんについて行く。




